第45黒 運用される街――魔導機械国家グラン=ゼイル
帝国領、外縁都市――灰都グラン=ゼイル。
幾つもの巨大な魔導炉が聳え立ち、空は排熱煙で常に鈍色の煙に覆われている。
魔力を圧縮し、機械へと流し込む巨大炉から吐き出されるそれは、
空気そのものを濁らせ、都市を重く沈ませる。
一方、石造りの街並みは整然としている。
だが、その規則性は美しさではない。
“管理”と“効率”のために組まれた配置。
ここは――軍事国家の外縁。
魔法と機械を融合させた“魔導機械”によって支配された都市。
生きている街ではない。
“運用されている街”だった。
リィナたちは、外れの高台からそれを見下ろしている。
「……ここが帝国。」
リィナが呟く。
カイゼルが鼻で笑う。
「相変わらず、趣味の悪い場所だな」
「見えるだろ?
あれ全部、“魔力を流すための器官”だ」
少し顎をしゃくる。
街の各所に設置された塔、壁面に走る金属管、規則的に巡回する兵影。
ヴェルミナが静かに頷く。
「聞いた事があるわ。
街そのものが一つの魔術式……いえ、それ以上ね」
少しだけ目を細める。
「魔法と機械を融合させた国家――“魔導機械国家”とったところかしら?」
カイゼルが肩をすくめる。
「その通りだ。そしてここでは人間の代わりに動かすのは鉄の兵士達……」
遠くを指差す。
「ほら、あれだ」
遠くには、鋼鉄と石で組まれた巨大な兵装塔。
その周囲を巡回するのは、人ではない。
無機質な装甲に覆われ、関節ごとに魔術回路が脈打つ。
ガシャン、ガシャンと一定のリズムで歩き続けている。
「あれは”魔導機械兵”……
かつて戦ったことがあるが、中々面倒な連中だぞ」
「力を“道具”として徹底的に使い潰すやり方か……気に食わん」
ゼルヴァが拳を握る。
その目には――わずかな殺意。
「潜入経路、確認してきますねぇ」
シルフィが軽く言う。
「少しだけお待ちを」
そのまま――影に溶ける。
街の中では人々は整然と歩いている。
騒ぎはない。混乱もない。
だが――
“笑っていない”。
視線は虚ろで、どこか焦点が合っていない。
時折、通りを横切るのは魔導運搬車。
魔力で駆動する無音の車輪が、物資や人員を運んでいる。
その横を、魔導機械兵が巡回する。
人間と機械が混ざり合いながら――しかし主導権は明らかに“機械側”にあった。
シルフィは屋根の上からそれを見下ろす。
「……気持ち悪いですねぇ」
誰にも聞こえない声で呟く。
その時――鐘の音が鳴る。
重く、低く。
街中の規則正しく設置された、
拡声魔導装置からその音が増幅される。
人々の動きが、一方向へと流れ始める。
まるで命令されたかのように。
「何かの集まりみたいですねぇ」
シルフィは、音もなくその流れに紛れる。




