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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第44黒 その視線の意味

 

 夜。帝国領手前の岩場。

 小さな焚き火が揺れている。


 戦いの熱はすでに引き、残っているのは静かな疲労と、

 焦げた匂いの記憶だけだった。


 リィナは少し離れた場所で炎を見ている。

 杯も食事も手にしているが、ほとんど口はつけていない。


 シルフィはその後ろ、影の中から静かに視線を向けている。

「……やっぱり、ああいう方ですねぇ」

 小さく呟く。



 その焚き火の反対側では、ゼルヴァが腰を下ろしている。

 腕を組み、誰とも視線を合わせない。


「……体は大丈夫?」


 ヴェルミナが簡潔に問う。


「問題ない」


「……ああいう使われ方は、珍しくもない」


 炎を見たままの声。


「人間は昔からそうだ。

 力あるものを恐れ、縛り、利用する」


 ただ事実を置くように続ける。


「俺も例外じゃない。

 仲間と共に戦い、退けたこともあるが……その後だ。

 和平を装って近づき、毒を盛られた。

 目が覚めた時には鎖の中だ……」


 淡々としているが、その奥には消えないものがある。


「長く閉じ込められ、使われた。

 あの姿は、その延長だ」


 そこで言葉を切る。


 余計なことは言わない。


 焚き火の向こう側にいるリィナたちとも、

 線を引いているようだった。


 その空気を見て、カイゼルが立ち上がる。


「……少し来い」


 低く声をかける。


 ゼルヴァは一瞬だけ視線を向け、無言で立ち上がる。


 少し離れた岩場。


 焚き火の光が届かない位置で、二人は向き合う。


「何だ……?」

 ゼルヴァが短く言う。


 カイゼルは軽く笑った。

「警戒心が強いな。悪くない」


 試すような口調。


「……当然だ」

 とゼルヴァは返す。


「状況も、相手も、まだ何も分かっていない」


 カイゼルは頷く。


「正しい判断だ。俺も似たようなものだった……

 人間に、部下を殺され、最後は“討伐”された側だからな」


「だから、…お前の考えも分かる」


 ゼルヴァは少しだけ目を細める。


「……なら、なぜあいつらと組む」


 焚き火の方を顎で示す。


 リィナたちのいる方向だ。


「最初は利用してやろうと思っていただけだったが…」

 カイゼルは肩をすくめる。


「今は、面白いからだな」


 あっさりと言い切る。


「面白いだと?」


「ああ、合理だけで動くなら、あの場には踏み込まない。

 だがあいつは行った。自分に得がなくてもな」


 ゼルヴァは黙る。


 否定はしない。


 ただ、納得もしていない。


 カイゼルが一歩だけ近づき、少しだけ口元を歪める。


「そのまま見ていればいい。あいつらがどういう連中か」


 短い沈黙のあと、カイゼルは踵を返す。


「……お前にも、いつか分かるはずだ」

 

 振り返らず、わずかに笑いながら、呟く。


「俺と違って、お前にも人の血が入っているのだからな」


 足音が遠ざかる。


 ゼルヴァは、その場に残る。


 やがて――


 小さく呟く。


「……くだらん」



 だが。


 ほんのわずかだけ――


 焚き火の方へ、視線を向ける。


 そこにいる人間たちを。


「……」


 小さく息を吐き、視線を外す。


 夜は静かに更けていく。帝国は、もうすぐそこだった。


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