第112黒 救済の果てに
礼拝堂に残ったのは、
涙を流すリィナと、静かに佇むビションだけだった。
舞い散る光の粒子、それは先程までそこにいたウィザーの名残だった。
ビションはその光景を静かに見つめ、小さく息を吐く。
「……残念です。彼女もまた、私の救済を拒みましたか。」
リィナはゆっくりと立ち上がる。
黒剣を握る手が震えていた、
怒りか、悲しみか、もう自分でも分からない。
「これが……救済?」
震える声だった。
ビションは穏やかに頷く。
「ええ、死を超越した世界、私はその世界を創ろうとしているだけです。」
「ふざけるな……。それのどこが救済なのよッ!!」
轟ッ!!と黒い魔力が爆発し、礼拝堂を覆っていた光の結界が軋み始める。
ビションの法衣が激しく揺れた。
「……見事な魔力です。ですが…感情だけでは世界は変えられません。」
ゆっくり右手を掲げ、巨大な魔法陣が展開される。
礼拝堂を覆う巨大な魔法陣が幾重にも重なり合う。
純白の光が空間を埋め尽くし、神殿そのものが脈動を始めた。
《聖域展開!!》
ビションは静かに右手を掲げる。
礼拝堂全体を覆う純白の結界から
無数の光輪が天井を巡り、柱という柱へ神聖文字が刻まれていく。
「礼拝堂全体を結界に……!」
リィナが眉をひそめる。
「ここは聖灰教団の中枢。私が最も力を発揮できる場所です。」
「なら……!その聖域ごと叩き壊す!!」
リィナは黒剣を構えた。
黒い残像を残し、一瞬でビションの眼前へ。
《黒百合斬!!》
目にも留まらぬ高速移動に、その勢いのまま剣を振り抜く。
ギィィィィン!!
純白の光剣が黒剣を受け止めた。
《断罪光剣!!》
光で形成された巨大な剣がぶつかり、互いの顔が数十センチまで近付く。
「まだ怒りに支配されていますね。その程度で私を止められると?」
ビションが静かに言う。
「怒ってるわよ。だからこそ…怒りだけでは戦わない。」
リィナが睨み返す。
ギィンッ!!
「ッ!」
ビションの表情が僅かに変わる。
黒剣が滑るように軌道を変え、光剣を弾き飛ばす。
《神罰光輪!!》
ビションが後方へ跳び、幾つもの光輪が宙へ展開される。
円環が高速回転を始めた。
「行きなさい。」
次の瞬間に無数の光輪が礼拝堂中を縦横無尽に飛び交う。
壁を抉り、柱を切り裂き床を砕くのをリィナは身を翻し、紙一重で躱す。
だが、死角から光臨が迫る。
「ちっ!」
《黒花絶断!!》
漆黒の花弁が舞い、斬撃が光輪を真っ二つに断ち切る。
「対魔法剣技……。」
ビションは目を細める。
「昔、ウィザーに教えて貰った技よ。
もっとも完成したのはつい最近だけどね」
リィナが静かに答える。
「仲間がいたから今の私がある。その仲間を否定するアンタには負けない。」
ビションは小さく息を吐きながら、両手を広げる。
「ならば証明して下さい。」
無数の魔法陣が重なる。
《聖光裁槍!!》
礼拝堂の天井を覆う程の巨大な光槍が現れ一斉に降り注ぐ。
礼拝堂全体が爆発に包まれ視界が真っ白になる。
「……終わりましたか。」
ビションは静かに目を閉じた。
その瞬間だった――
「終わるわけ……ないでしょうッ!!」
リィナが煙を切り裂き、黒い閃光が飛び出した。
《黒龍断閃!!》
黒龍を思わせる巨大な斬撃がビションへ迫る。
「!」
即座に両腕を交差。
《聖光防壁!!》
轟ォォォォォン!!
黒龍と純白の障壁が正面から激突した。
礼拝堂全体が大きく揺れ、天井の巨大術式にひびが走り
光の障壁に亀裂が広がっていく。
「これほどとは……。」
ビションは静かに呟いた。
「まだ……!」
一方のリィナも歯を食いしばる。
闇と光。
二つの魔力が拮抗したまま空間を軋ませ、互いに一歩も譲らない。
「ビション……!」
リィナは剣を強く握り締める。
「来なさい、リィナ。貴女の覚悟が、本物かどうか…
この私が見届けましょう。」
ビションもまた、静かに杖を握り直す。
その言葉を合図にするように二つの光が激突する。




