第111黒 また、一緒に
――聖灰教団最深部。
ウィザーの瞳から一筋の涙が零れた。
だが、その身体は止まらない。
ビションの術式が全身を縛り上げ、白銀の魔力が礼拝堂を震わせる。
「やめて……!来ないで……リィナ……!」
次の瞬間、幾重もの魔法陣が空間を埋め尽くした。
≪三重魔術同時行使≫
ウィザーの意思とは裏腹に、魔法だけが次々と放たれる。
《上級光魔法・光槍雨》
《上級炎魔法・灼熱魔弾》
《上級土魔法・重圧結界》
「くっ……!」
それでもリィナは止まらない。
《黒花絶断!!》
闇の斬撃が光槍を切り裂き、魔法陣そのものを断ち割り、礼拝堂が激しく揺れた。
「見事でしょう?彼女の意識を残しつつも、
肉体は私の支配下……これこそが救済ですよ。」
ビションは静かに微笑んだ。
「黙れ……」
リィナの声が震える。
「仲間を……利用するなぁぁッ!!」
黒い魔力が爆発した。
その叫びにウィザーの瞳が僅かに揺れ、
必死にビジョンの支配から逃れようとしている。
「ごめんなさい……私は……」
「まだ抵抗しますか?……ですが、無意味です。」
ビションが術式を強め、白銀の鎖がさらに食い込みウィザーは苦悶の声を上げた。
「ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は天井を覆う巨大魔法陣を展開する。
《最上級闇魔法・破滅の終焉!!》
黒き終焉の魔力が渦を巻く。
「あれは……!」
リィナの表情が変わる。
暴走すれば、ウィザー自身も消滅する程の魔法だ。
「ウィザー!!」
リィナは一直線に駆け出した。
闇の奔流の中へ、血を流しながら前へ進む。
《黒龍断閃!!》
一閃が闇を切り裂くが、それでも術式は止まらない。
「来ないでぇ!!私はまた貴方を傷つけてしまう!そんなのはもう嫌なの!」
ウィザーは泣き叫ぶ。
「大丈夫、……私が必ず止めるから!」
リィナは叫ぶ。
ウィザーの瞳から涙が溢れた。
「リィナ…………私、本当はずっと後悔してた。
…あなたが羨ましかった、悔しかった。でも……」
小さく笑う。
「貴方は……私の大切な友達だった。」
「……知ってる。」
リィナは涙を堪えながら頷く。
「その友を自らの手で葬れるのですよ、さぞ本望でしょう?」
ビションが冷たく告げ、ウィザーの右腕が強制的に持ち上がる。
だがその刹那、ウィザーは微笑んだ。
「アンタの好き勝手にはさせない。
最後くらい……私の意思で決めさせて。」
僅かに術式へ抗い、自ら胸を指差す。
「まさか、私の支配に抗うとは…!?」
ビジョンが少しだけ驚いたような表情を浮かべる。
「さぁ、リィナ……今のうちに…。」
「分かってる……!」
リィナは涙を流しながら黒剣を構える。
「……ありがとう」
そんな様子をみてウィザーは優しく笑う。
《黒百合斬!!》
黒き花弁を纏う闇の剣閃がウィザーの胸の核を貫き
光が砕け術の呪縛から解き放たれていく。
リィナがウィザーを抱き留める。
「ウィザー!」
術が解け消えていく身体でウィザーは薄く笑った。
「なに……泣いてるのよ。私はもう死んでるんだから、気にする事はないわ。
……あんたは進みなさい。私の分まで…」
「ええ、分かったわ。」
「ねぇ、リィナ……」
「なに?」
「今度生まれ変わったら……」
ウィザーが少しだけ照れたように笑う。
「もう少し素直になれるかな?」
「……ええ。きっと。」
ウィザーは満足そうに頷き、身体が淡い光へ変わっていく。
「そしたら……また私を、仲間……」
言葉は最後まで紡がれずに
ウィザーの身体は光となって静かに空へ溶けていく。
リィナは、その光を見つめたまま、小さく笑った。
「……馬鹿ね。そんなの、決まってるじゃない。」




