第108黒 それでも私は
――聖灰教団、最深部。
ビションの白黒の魔法陣が脈動する。
歪んだ救済である――死者蘇生術。
ビションの魔力によって呼び戻された二つの影が、ゆっくりと礼拝堂へ降り立った。
一人は肥え太った男、宝石だらけの指輪に脂ぎった笑み。
シルフィを捕らえていた奴隷商を裏で束ねていた男、”オルフェン=グレイスナー”子爵。
そしてもう一人は蒼い法衣に長い青銀の髪。
鼻につく笑みの王国魔法協会幹部、蒼光魔導師の”ルシオ=アストレア”。
「……」
リィナの表情が険しくなる。
「どうです?懐かしい顔でしょう。」
ビションが静かに告げた。
「ひひひひひ……”黒のカサブランカ”じゃねぇか?」
オルフェンが首を鳴らす。
「やれやれ。死んだと思ったらまた君ですか?…本当に縁がありますねぇ」
ルシオは肩を竦めた。
リィナは剣を構える、
だが、二人は動かずにただ笑っている――それが気味悪い。
「そういや聞いたぜ?お前、今じゃ復讐者なんだってなぁ?」
オルフェンが下卑た笑みを浮かべる。
「元勇者様が、闇の力使って殺戮ってか?笑えるぜぇ。ひひひひひ!」
「……黙れ」
「俺は金のために人を売る!お前は復讐のために人を殺す!結局、お前も俺と同じなんだよ!」
オルフェンが両手を広げる。
リィナの瞳が細まり、黒い魔力が揺れる。
「子爵殿、少し違いますよ。」
オルフェンに続くようにルシオが鼻で笑う。
「彼女は最初から愚かだったんです。」
「力なき者を救って何になる?才能ある者が世界を回している。
世界とはそういうものなのに」
リィナは睨む。
ルシオは笑みを浮かべながら続ける。
「でも君は違った。弱者も、落ちこぼれも、全員救おうとした」
肩を竦める。
「全くの非効率、挙句の果てにそんな奴らに裏切られて、今じゃただの人殺し…」
リィナの拳が震える。
「実にバカじゃないですか!!ハハハハ!!!」
ルシオは愉快そうに笑う。
「いいですか?君は弱者を信じたから負けたんですよ。」
礼拝堂が静まり返る。
「もし僕なら、仲間なんて信用しない。
所詮、自分が上へ上る為の踏み台でしかないんだから!」
リィナの脳裏に、かつての仲間達が浮かぶ。
「全て結果が証明しているんですよ。君の正義は失敗だったと…」
ルシオは笑った。
「…違う」
リィナが低く言う。
「違う?一体何が違うんですか?」
ルシオが嗤う。
「仲間は?国は?民は?…何か守れましたか?」
1つ1つ、刃のような言葉でリィナの傷口を抉る。
「何一つ守れてないじゃないですか?」
オルフェンが大笑いする。
「そうだそうだ!正義だの理想だの言ってよぉ!
結局全部失ったんだろう?実に惨めだなぁ…勇者様!」
「…黙れ」
だが二人は止まらない。
「お前が助けた奴らもどうせ死んだんだろ?
人間なんぞ結局、自分さえ良ければ周りがどうなろうと構わねぇ、
自分勝手な生き物だからなぁ!」
オルフェンが笑う。
「確かに……私は守れなかった。」
リィナが静かに言った。
「多くのモノを失ったし、間違えたりもした…」
黒い魔力が溢れる。
「でも、だからってお前達みたいにはならない!」
その瞳は揺れていなかった。
「守れなかったから諦める?裏切られたから信じない?
弱いから切り捨てる?」
リィナは首を振る。
「そんなの、逃げてるだけよ。」
その言葉にオルフェンとルシオの笑みが消える。
ルシオの顔が歪む。
「天才の僕が逃げてるだと……!」
「天才?ウィザーの才能を妬んでいたあなたが?」
リィナが睨む。
「なっ……!?」
ルシオの目が見開く。
「本当に自信がある人間は、他人と比べたりしない。」
ルシオの表情が崩れる。
図星だった――
「黙れッえええ!!僕は…僕は天才なんだァァ!!」
ルシオの身体から魔力が溢れ礼拝堂を埋め尽くす魔法陣。
「そうだ。殺せぇ!!」
オルフェンも叫ぶ。
「来なさい。」
リィナは静かに剣を構え、黒い魔力が剣を包む。
「今度こそ、終わらせてあげる」
礼拝堂全体が震えるほどの殺意がぶつかり合う。




