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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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107/113

第107黒 因縁の再会――偽りの救済者ビション=ヴァルテス


 ――聖灰(せいかい)教団最深部。


 巨大な礼拝堂にも似た空間、だがそこに神聖さはない。


 白い柱に無数の魔導回路、天井を覆う巨大術式。

 

 都市全体へ張り巡らされた結界の中心であり

 その姿はまるで、“光そのものを管理するための神殿”のようだ。


 その中央で、純白な豪華な法衣に身を包んだ――聖灰教団大司祭”ビション=ヴァルテス”。

 がゆっくりと振り返る。


「……来ましたか、リィナ」

 落ち着いた静かな声が響く。

 まるで、最初から分かっていたように。


 リィナが立ち止まり、二人の間に沈黙が流れる。


「……久しぶりね」

 感情を押し殺した声でリィナが口を開く。



「フフッ…随分と遠回りをしたようですね。」

 ビションは微笑む。


「ええ、あなたのおかげでね。でも…ようやくここまで来れたわ。」

 リィナの目が細まる。


「私を殺す為ですか…?勇者だったあなたが、随分と変わりましたね。」


「変わったのは…あなたの方でしょ?」


「そうでしょうか?…私は昔から光を信じているだけですよ」

 ビションは穏やかに答える。


 その言葉にリィナの脳裏に過去が過る。

 かつて、白百合の勇者と呼ばれていた頃――


 共に戦った仲間達に焚火を囲み、未来を語っていた夜。


『また徹夜?』


『余計なお世話よ、勇者様。天才は忙しいの。

 それにあなただって起きているじゃない!』

 ウィザーが魔導書を抱えて強気に笑う。


 その隣で、ビションは静かに紅茶を飲んでいた。


『フフッ…頑張るのは結構ですが、お二人とも無理はなさらぬよう。』

 穏やかな笑みを浮かべる。


 誰よりも優しく、命を大切にする男だった。


 そんな男がどうして……


 リィナの瞳に、静かな怒りが宿る。


「信じてた。……あんたが私を裏切り、帝国に寝返るまではね…」


()()に犠牲は必要ですよ。」


「正義?その結果が、この地獄?」

 リィナの脳裏にこれまで観た惨状が浮かぶ。


 命を命と思わない醜悪な施設や実験、人の尊厳さえも踏みにじるような非道な数々を。


「ええ。すべては秩序のため、正義のためです」

 ビションは頷く。



「……狂ってる」


「そうでしょうか?」


 静かな目。


「感情だけでは世界は救えませんよ、リィナ」


 その瞬間、リィナの魔力が爆発する。

 黒い魔力が覆い、闇が奔る。


「《多重展開》――」


 空間に、無数の魔法陣が浮かぶ。

 

 複数の属性同時詠唱――本来なら不可能な、超高位並列魔法。


 天才魔導士ウィザーだけが使えた技だ。


 ビションの目が、僅かに細まる。


「これはまた……懐かしいですね」


 次の瞬間、轟音と共に魔法が一斉に放たれる。


 だが、


「《聖光(ディバイン・)防壁(フォートレス)》」


 純白の光が広がり、全ての魔法を受け止める。


 ドォォォォン!!衝撃で空間が軋む。


 だが、ビションは動かず、涼しい顔で魔法を防ぐ。


「ウィザーの術式……彼女は本当に優秀でした。」


 光の壁越しに、ビションが呟く。


「その名前を口にするな!!」

 リィナの殺気が増す。


「何故です?」


 ビションは静かに笑う。


()()()()()()のでしょう?」


 一瞬、空気が凍る。


「……黙れ」


「仲間だった者を討つ、それが勇者の行いですかね?」

 ビションが静かにだが、淡々と傷を抉る。



 リィナの瞳が揺れ脳裏に蘇る。

 魔法協会での最後の戦い、ウィザーの寂しそうな横顔。


『ねぇ……もし、違う選択をしてたら…』


 あの瞬間――確かに自分の手で仲間を殺した。


「ッ……黙れ!!!!!!」


 黒い魔力が荒れ、床が砕ける。


 リィナが剣を抜き、ビションの光壁を叩き斬る。


 ギィィィン!!


 火花と魔力、二人の殺意が真正面からぶつかる。


黒百合斬(リリィ・エッジ)!!》


 闇の花弁を伴う高速斬撃が奔る。



「《聖光多重結界展開(ディヴァイン・パレス)》」


 だが、ビションの周囲へ、幾重もの光陣が展開され、

 斬撃が相殺される。


「……何故」


 リィナが低く呟く。


「何故、あんたは裏切った?」


 ほんの僅かに、ビションの動きが止まる。


「……今さら、それを聞きますか?」


「答えなさい!」


 剣を光壁を押し込む。


「仲間だったでしょうが……!」


 その言葉にビションの瞳が、僅かに揺れたように見えた。


「……仲間だったからですよ」


 リィナの目が細まる。


「……何?」


「私はあなたとの旅の中で、理解してしまったのです」

 ビションが静かに後退しながら、光陣を展開する。


「人は、あまりにも簡単に死ぬ…昨日まで笑っていた者が、今日には骸になる。

 救えなかった命が、あまりにも多すぎた…」


 ビジョンの脳裏に過るのは間に合わなかった命、失った仲間達。


「私は怖かった。どれだけ戦っても、どれだけ救っても…人は死ぬ。

 だから私は、死そのものを否定しようと思った」


 リィナが睨む。


「……()()()()


「ええ。帝国にはその技術があった。」

 ビションは頷く。


「その為に、人を踏みにじったの!?」

 リィナの怒声。


「ええ…。大いなる救済の前には多少の犠牲はやむを得ない…

 例えそれが、神への冒涜であろうとも、……救える命があるなら私はそれを選ぶ」


「……ッ!!」


 リィナの魔力が荒れ黒い魔力が礼拝堂を揺らす。


「堕ちたわね……」


「それは、貴方もでしょう?リィナ」

 ビションは静かに笑う。


「復讐を抱え、闇を纏う…その姿は最早、勇者ではありません。」


「それでも、私はあんたみたいに人を道具にはしない!!」

 リィナが睨み返す。


 ビションが小さく目を伏せる。


「……そうですか。ならば…」


 静かに右手を掲げ、空間に巨大術式が浮かぶ。


 白と黒、光と闇が混ざり合う異質な魔法陣。


 「それは……」

 リィナの顔色が変わる。


「貴方に見せて差し上げましょう。私が辿り着いた、“救済”を」


 魔法陣が怪しく輝き、空間が軋み辺りからは死臭と冷気が漂う。


 その魔法陣の中から、ゆっくりと一つの人影が現れる。


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