第105黒 影に生きる二人の再会
崩れゆく回廊を、リィナとシルフィが駆ける。
鳴り響く鐘、遠くで響く爆発音、聖灰教団本部は既に戦場へと変わっていた。
先を走るリィナの後方を守りながらシルフィが続く。
「右側、巡回兵三名ですよぉ」
「任せるわ」
「はい」
次の瞬間、シルフィの姿が消え影からの一閃。
ドサリ、と三つの影が崩れ落ちる。声すら上げさせない見事な暗殺。
そのおかげでリィナは足を止めず、奥へ進む。
最上部へと続く回廊、だがその途中に拍手が響いた。
「くくく……見事」
軽い声だが、その声には聞き覚えがあり二人の空気が変わる。
回廊の上部、崩れかけた梁の上に、一人の男が座っていた。
暗殺者の”ヴァレン=シャルク”。
足を組み、笑みを浮かべている。
「いやあ、久しぶりだね、」
シルフィの声音が、僅かに低くなる。
「……あなたは、魔法協会の時の…」
「ああ、ヴァレン=シャルク。あの時は名乗っていなかったね。」
「別に聞いてはいませんよぉ。
それにどうして魔法協会の仲間だったあなたがここにいるんですぅ?…」
「仲間?それはちょっと違うね。」
「……どういうことですかぁ?」
シルフィの目が細まる。
「僕は最初から帝国側の人間だからね。」
ヴァレンが笑う。
「魔法協会にいたのは、情報収集とパイプ役の為に過ぎない。
最初から仲間なんかじゃない。利用するだけの関係だ。」
「いやぁ、協会の連中も、ウィザーも案外簡単に騙されてくれたよ。」
まるで、今日の天気でも語るような軽さで語るヴァレン。
「……最低ね」
リィナの目が冷たくなる。
「そうかな?」
ヴァレンは笑う。
「人間関係なんてそんなものだろう?キミも良く知ってるんじゃないかな?」
「……!」
シルフィが代わりに口を開く。
「つまらない話は結構ですよぉ。…つまりあなたは
最初から全部裏切るつもりだったんですねぇ」
「裏切る?」
ヴァレンが吹き出す。
「あははっ!!違う違う。
僕は最初から誰の味方でもないよ」
一歩、前へ。
「強い側につくだけ、勝つ側にいるだけ、ただそれだけさ。」
「……本当に空っぽですねぇ」
シルフィの目から、感情が消える。
「リィナ様。ここは私に任せて下さい。」
「大丈夫……?」
リィナが横目で尋ねる。
「ええ。目的のビションはこの奥です。
それに、この男を倒すのは元々私の仕事…。
仕事は最後までやりきらないといけないですからねぇ」
シルフィが静かな声で語る。
「シルフィ…。」
「へぇ…。ちゃんと優先順位は分かってるんだ」
ヴァレンがニヤリと笑う。
「それ以上余計なことを喋るとぉ…」
シルフィの短剣が、静かに抜かれる。
「喉裂きますよぉ」
シルフィが笑みを浮かべる、だが目は冷たい。
「怖いなぁ」
ヴァレンが楽しそうに笑う。
「分かったわ。ここは任せた」
リィナは踵を返し黒衣が翻る。
その背中へ、シルフィが静かに答える。
「はい。お気をつけて」
リィナは止まらずに横目でシルフィを見る。
「あなたも、どうか死なないで」
短い言葉を伝え、回廊の奥へ消えていく。
足音が遠ざかり、残されたのは二人だけ。
「いいの?行かせちゃって」
ヴァレンが小さく笑う。
「私は影です。影は、主の背中を守るものですよぉ」
シルフィは肩をすくめる。
「少し……変わったな。
昔のお前なら誰も信じてなかったのに」
ヴァレンの目が細まる。
「そうかもしれませんね。でも、今は後ろに立ちたい人がいますから」
「……その選択、後悔してない?」
ヴァレンが静かに問う。
「後悔しない選択なんて…最初からありませんよぉ」
シルフィがまっすぐに答え、短剣を構える。
「大事なのは……選んだ後、どう生きるかですから」
その瞬間、回廊の灯が一斉に消え
夜の闇の中で二人の殺気だけが、静かに交差する。




