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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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103/113

第103黒 選んだ正義、捨てた正義

 

リュシアンが低く問う。

「……何故、戻らなかった?帝国に負け闇に堕ちた時点で、

 お前の騎士道は終わっていたはずだ」


 リディアの瞳が鋭くなる。

「例え騎士で無くなっても、守りたい人達がいるからです!」



 リュシアンの目が、わずかに揺れる。

「……甘いな」


 ドンッ!!


 巨大盾が地面を叩き光の障壁が、一気に広がっていく。


《聖盾展開 聖光(ホーリー・)神域(バスティオン)!!》


 障壁が完成する前にと、リディアが駆ける。


漆黒疾走(ダーク・チャージ)!!》


 黒い残光となった高速突撃――


 ガギィィィンッ!!


 だが、盾に弾かれリュシアンは動かない。

 まさに“鉄壁”そのもの。


「教えただろう?感情で突っ込むなと」


 リディアが押し返され吹き飛ばされる。


「くっ……!」


 床を滑り、黒い火花を散らしながらなんとか着地する。


(重い……!)


 単純な力ではない。


 受け、重心――

 すべてが完成されている。


 かつて、何度も叩き込まれた構えに嫌でも身体が覚えていた。


「……どうした?その程度か、リディア」

 リュシアンが静かに歩み寄る。



 昔と同じ声に、リディアの脳裏に過去が過る。


 ――王国騎士団訓練場。


 まだ騎士見習いだった頃のリディア。


「もう一度です!!」

 そう言って、小さな手で木剣を握り立ち上がる。


 全身は傷だらけ。

 それでも目だけは死んでいない。


「きゃっ…!!」

 だが、やはり直ぐに倒されてしまう。


 そんな様子に周囲の騎士達が呆れていた。

「また倒れたぞ。」

「根性はあるんだが、才能が無いんだよな~」


 その中で一人だけは違った。

 当時、聖騎士団の教官であった”リュシアン=ノルド”。


「立て」


 短い言葉。


「騎士は倒れる事ではなく、守れなくなる事を恐れろ」


「……はい!!」


 リディアが震える足で立ち上がる。


 リュシアンも無表情のまま、木剣を構え直す。


「よし、来い」


 何度倒れても、何度叩き伏せても。

 彼だけは、一度も“諦めろ”とは言わなかった。




 ――そして現在、リディアが剣を握り直す。


「……()()


 リュシアンの目が細まる。


「まだその呼び方をするのか。今の俺は()だぞ?」


「それでも貴方は……私の師ですから」


 静かに、強く続ける。


()()()…」


 リュシアンは答えない。


 代わりに、巨大盾を構える。


「……ならば分かるはずだ。

 守るという事が、どれほど愚かな理想かを!!」


《聖盾陣・絶界(ホーリーウォール)!!》


 ドゴォォンッ!!


 巨大な結界が展開し、今度は礼拝堂全域を覆う。

 圧倒的防御の壁。


 リディアが舌打ちする。


(硬い……!)


 だが、リュシアンの目がわずかに揺れた。

「……お前は変わった」


「……?」


「昔のお前は、守れなかった命を引きずり続けていた。

 だが今は違う。その目に迷いがない。」


「あります」

 リディアが睨み返す。


「……何?」


「今でも、失うのは怖い、仲間が傷つくのも怖いです。」


 剣を握る手が震える。


「でも――」


 リディアの赤い瞳が燃える。

「それでも守りたいと思えたんです!!」


 リュシアンの目が見開かれる。


「先輩がいたから」


 絶望し闇を抱えてなお、誰かを見捨てないリィナの背中を思い出す。


「私は……あの人に救われました。

 だから今度は、私が守る番です!!」


 黒い魔力が溢れ踏み込む。


漆黒疾走(ダーク・チャージ)!!》


 黒閃が走り、リュシアンが迎え撃つ。


 再び盾と剣が激しく衝突する。


 ドォォォンッ!!


 だが、今度は違った。


 リディアの剣が、僅かに盾を押し込む。


「……!」


 リュシアンの表情が揺れる。

 その刹那、彼の脳裏にも過去が蘇った。


 ――燃える王都、崩れる城壁。


 俺は守れなかった。


 仲間も、民も、理想も、

 どれだけ盾を掲げようが守れなかった。


 仲間に伸ばした手は届かずに、戦火に消えていく――


 その日、リュシアン=ノルドは理解した。


 全てを守るなど不可能だと――だから彼は選んだのだ。


 ”守る命”と”切り捨てる命”を選別する道を。


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