第102黒 聖灰教団最強の盾 リュシアン=ノルド
――聖灰教団内部。
燃える礼拝堂、その回廊をリィナ達は駆け抜ける。
「この先です!」
リディアが先頭で叫ぶ。
漆黒の鎧を翻しながら、迫り来る敵兵を斬り伏せる。
「ビションの魔力反応はだんだんと近づいてます!」
その時、ズゥン――と重い音。
空気が揺れ、全員の足が止まる。
回廊の奥から、白銀の重鎧に巨大盾を持った
まるで“城門”そのもののような男。
教団幹部僧兵長”リュシアン=ノルド”が静かにそこへ立っていた。
「……ここから先へは行かせん」
低い声、それだけで緊張感が辺りを包む。
だがそれだけでない。リディアの瞳が揺れる。
「……教官」
リュシアンに視線が向けられる。
その姿はかつて訓練場で見たものと変わらない。
その瞳にかつての“熱”を感じることが出来ないことを除けば――
「久しいな、リディア。
まさか、このような場所で再会するとは思わなかった」
リディアが歯を食いしばる。
「……あなたこそ、敵である帝国にいたとは…」
「ここが今の私の立つ場所だ。守るべき秩序の為にな」
リィナが静かに目を細める。
「……厄介なのが出てきたわね」
「久しぶりだな。白百合の勇者、リィナ=エーべルヴァイン…」
「元ね…今は勇者じゃないわ。」
「フン、どちらでも同じことだ。」
リュシアンの盾が、ゆっくり持ち上がる。
ゴォン、と鈍い音。
「お前達はここで止まる。これ以上、聖域へは進ませぬ!」
その瞬間。
ゴォォォォッ――!!
無数の光陣が展開する。
”神聖障壁”――回廊そのものを封鎖する巨大結界。
前方も、左右も、天井すら光で塞がれていく。
まるで巨大な牢獄だった。
「……これは。真正面からじゃ時間かかりますねぇ」
シルフィが眉をひそめる。
「時間稼ぎで十分だ。ビション様の計画は既に完成している」
リュシアンは巨大盾を構えたまま、淡々と言う。
「……まだ…。まだそんなことを……!」
リディアの拳を震わせ睨みつける。
「変わらんな、お前は。いつも感情で剣を振るう。」
リュシアンの瞳が細まる。
「だから失うのだ。」
その言葉に、リディアは静かに剣へ手をかけた。
「……違います。失ったからこそ――守りたいんです」
漆黒の剣が抜かれる。
数秒の沈黙――
「……そうか。ならば証明してみせろ」
リュシアンが巨大盾を持ち上げる。
直後、光の障壁がさらに強く輝いた。
誰一人通さぬという意思そのもの――
だが、リディアは一歩前へ出た。
「先輩、少しだけ時間をください」
「リディア?」
リィナが目を細める。
リディアは剣を握り直し黒い魔力が剣身へ集まる。
「教官の障壁なら分かります、昔、何度も見てきましたから」
懐かしむように小さく笑い、そして前を向く。
「どこが支点で、どこが弱いのかも」
リュシアンの目がわずかに揺れた。
「……リディア」
「教えてくれたのは貴方です」
漆黒の魔力が膨れ上がり、剣が唸る。
「だから――突破できます!」
踏み込む。
「《漆黒断閃》!!」
ドォォォォンッ!!
黒い斬撃が障壁へ直撃、激しく軋む。
しかし砕けない。
だが、リディアは止まらない。
「もう一度!!」
再加速し黒い残光が走る。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
ガギィィィィィンッ!!
斬撃を一点に集中させ障壁の継ぎ目へ叩き込む。
すると、小さな亀裂が障壁に走る。
「今です!!」
障壁の一部が砕け散り、一直線の通路が開く。
「リディア!」
リィナの目が見開かれる。
「行ってください!ここは私が引き受けます!」
リュシアンは静かに盾を構え、視線は弟子へ向いたまま。
リディアも理解していた、ここから先は自分の戦いだと。
「後で、必ず追いつきます」
「……死ぬんじゃないわよ」
リィナが彼女を見て小さく笑った。
「はい!必ず!」
リディアが真っ直ぐに答える。
その言葉を背にリィナとシルフィが駆け出す。
残されたのは、かつての師弟。
燃え盛る回廊の中で二人が静かに対峙する――。




