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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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102/112

第102黒 聖灰教団最強の盾 リュシアン=ノルド

 

 ――聖灰(せいかい)教団内部。


 燃える礼拝堂、その回廊をリィナ達は駆け抜ける。


「この先です!」

 リディアが先頭で叫ぶ。


 漆黒の鎧を(ひるがえ)しながら、迫り来る敵兵を斬り伏せる。


「ビションの魔力反応はだんだんと近づいてます!」


 その時、ズゥン――と重い音。


 空気が揺れ、全員の足が止まる。


 回廊の奥から、白銀の重鎧に巨大盾を持った

 まるで“城門”そのもののような男。


 教団幹部僧兵長”リュシアン=ノルド”が静かにそこへ立っていた。


「……ここから先へは行かせん」


 低い声、それだけで緊張感が辺りを包む。


 だがそれだけでない。リディアの瞳が揺れる。


「……教官」


 リュシアンに視線が向けられる。


 その姿はかつて訓練場で見たものと変わらない。

 その瞳にかつての“熱”を感じることが出来ないことを除けば――


「久しいな、リディア。

 まさか、このような場所で再会するとは思わなかった」


 リディアが歯を食いしばる。


「……あなたこそ、敵である帝国にいたとは…」


「ここが今の私の立つ場所だ。守るべき秩序の為にな」


 リィナが静かに目を細める。


「……厄介なのが出てきたわね」


「久しぶりだな。白百合の勇者、リィナ=エーべルヴァイン…」


「元ね…今は勇者じゃないわ。」


「フン、どちらでも同じことだ。」


 リュシアンの盾が、ゆっくり持ち上がる。


 ゴォン、と鈍い音。


「お前達はここで止まる。これ以上、聖域へは進ませぬ!」


 その瞬間。


 ゴォォォォッ――!!


 無数の光陣が展開する。


 ”神聖障壁”――回廊そのものを封鎖する巨大結界。


 前方も、左右も、天井すら光で塞がれていく。

 まるで巨大な牢獄だった。


「……これは。真正面からじゃ時間かかりますねぇ」

 シルフィが眉をひそめる。


「時間稼ぎで十分だ。ビション様の計画は既に完成している」

 リュシアンは巨大盾を構えたまま、淡々と言う。


「……まだ…。まだそんなことを……!」

 リディアの拳を震わせ睨みつける。


「変わらんな、お前は。いつも感情で剣を振るう。」

 リュシアンの瞳が細まる。


「だから失うのだ。」


 その言葉に、リディアは静かに剣へ手をかけた。


「……違います。失ったからこそ――守りたいんです」


 漆黒の剣が抜かれる。


 数秒の沈黙――


「……そうか。ならば証明してみせろ」


 リュシアンが巨大盾を持ち上げる。


 直後、光の障壁がさらに強く輝いた。


 誰一人通さぬという意思そのもの――


 だが、リディアは一歩前へ出た。


「先輩、少しだけ時間をください」


「リディア?」


 リィナが目を細める。


 リディアは剣を握り直し黒い魔力が剣身へ集まる。


「教官の障壁なら分かります、昔、何度も見てきましたから」


 懐かしむように小さく笑い、そして前を向く。


「どこが支点で、どこが弱いのかも」


 リュシアンの目がわずかに揺れた。


「……リディア」


「教えてくれたのは貴方です」


 漆黒の魔力が膨れ上がり、剣が唸る。


「だから――突破できます!」


 踏み込む。


「《漆黒(シュバルツ・)断閃(ザンバー)》!!」


 ドォォォォンッ!!


 黒い斬撃が障壁へ直撃、激しく軋む。


 しかし砕けない。


 だが、リディアは止まらない。


「もう一度!!」


 再加速し黒い残光が走る。


「はぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ガギィィィィィンッ!!


 斬撃を一点に集中させ障壁の継ぎ目へ叩き込む。


 すると、小さな亀裂が障壁に走る。


「今です!!」


 障壁の一部が砕け散り、一直線の通路が開く。


「リディア!」

 リィナの目が見開かれる。


「行ってください!ここは私が引き受けます!」


 リュシアンは静かに盾を構え、視線は弟子へ向いたまま。


 リディアも理解していた、ここから先は自分の戦いだと。


「後で、必ず追いつきます」


「……死ぬんじゃないわよ」

 リィナが彼女を見て小さく笑った。


「はい!必ず!」

 リディアが真っ直ぐに答える。



 その言葉を背にリィナとシルフィが駆け出す。



 残されたのは、かつての師弟。


 燃え盛る回廊の中で二人が静かに対峙する――。


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