1-⑩ 『イかれたメンバー』
その言葉に反応する猶予は与えられなかった。
「アイオ様、三神アオイ様、お時間でございます」
顔は見えない。
黒色のマントを顔まで深く被った女がやってきた。
不審だ。俺の名前とアイオの名前を知っているなんて、
「大丈夫だよ。味方さ。彼女らは私たち『レヴェルト』のサポートをしてくれる『アルカ』っていう子たちだよ。何でも言えば言うことを聞いてくれる従順な子たちさ。私たちがちゃんと仕事をできるのも彼女たち『アルカ』のおかげと言ってもいいくらいには『レヴェルト』にとって欠かせない存在だね」
「なるほど。えーっと、こんにちは」
「——」
正体が分かって安心したアオイは、その女に挨拶をしたのだが、返事は変えてこないどころか反応さえない。
「彼女らは基本的に会話をしないんだ。必要な情報を必要な時にだけ伝える。言われたことだけをやる。それだけが『アルカ』の仕事だからね」
「へー。なんか、かわいそうだな」
「うん。そうだね。彼女たちは外部との接触を禁止されている。休暇も一応あるけど、この城から出てはいけない。この国の重要機密を知っている数少ない存在だからね。でも、彼女らがいないと『レヴェルト』にが成り立たない。『レヴェルト』が成り立たないということは国が成り立たないということだ。だから、私たちは『アルカ』に最大限の感謝と尊敬を抱いているよ」
ものすごい仕事だ。『アルカ』。
ひょっとすると『レヴェルト』よりも重要な存在かもしれない。
アイオの言う通り、最大限の感謝を『アルカ』に捧げよう。
もうアオイも『レヴェルト』の一員なのだから。
「それでは、こちらへ」
そうして『アルカ』の案内についていき、定期集会の場所までたどり着いた。
「思ったよりも普通なところにあるんだな。もっと地下とか、隠し扉の向こう側とかにあるんだと思ってた」
そこはこの王城を歩いていたら普通に見かけられるような場所にあった。何も特別な雰囲気はなく、他の部屋と何の区別もつかない。本当に秘密組織なんだよな?
「この部屋も私たちと同様、認識改変の魔法が常時かかってるんだよ。他の人は絶対に入ろうと思えなくなっているらしいよ? すごいよね」
すごいの一言で済ましていい問題なのだろうか。
アイオの言うことが本当なら、人の思考を操作しているということになる。
それは倫理的な問題にならないのだろうか。悪用する輩が出てくると大変なことになるのではないのか、と思ったが、おそらくそんな魔法誰でも彼でも使えるようなものじゃないだろう。今使っている人がそんな人じゃないのならおそらく大丈夫だ。
「じゃあ、入ろうか。みんな待ってるかもしれないしね」
「あぁ、そうだな」
深呼吸をする。四秒吸い込んで七秒で吐くと緊張がほぐれると聞いたことがあるので実践してみようと思ったが、逆だったか?となって結局普通の深呼吸をした。
アイオが重そうな扉を開いた。
「おぉ」
思わず声が出てしまった。
いかにも秘密組織っぽい部屋だったからだ。
中心には大きすぎる円卓がおいてあり、その周りに『レヴェルト』のメンバーが疎らに座っている。男、女、老人、子供、人間、人外と様々だ。びっくりするほどに統一感はない。しかし、
全員が全員、尋常ならざるオーラを放っているのは同じだ。
「大丈夫だよ」
思わず後ろに倒れそうになったアオイをアイオが支えて、そう勇気づける言葉をかけてくれた。
もう一度深呼吸をする。今度は間違ってもいいので、例の深呼吸を試してみた。
そうすると驚くことに、心臓の鼓動が少し緩やかになった気がする。これが迷信やデマの類の者なら、プラセボの力だ。
まぁ、そんなことどうでもいい。落ち着けたという事実だけで十分だ。
「珍しいなぁアイオ、お前が一番最後なんて」
「今日は珍しく寝坊してしまったんだよ。待たせてすまないねみんな」
美しく磨かれた机に足を乗せ、頭の後ろで手を組んだ金髪の男が話しかけてきた。いかにもからかってきているその男にアイオは何も動じることなく、いつもの調子で返答する。
そうすると、男は思った反応がもらえなかったからか、「けっ」とつまらなそうに唾を飛ばし、そっぽを向いてしまった。
「これで今日来れる奴は全員集まったか」
猫背のフラフラな中年男性が立ち、話し出した瞬間、場がサッと鎮まった。
集まっている人数を数えてみると、自分とアイオを含めて10人だった。
既存のメンバーがたしか10人で、それぞれが一人俺のような新メンバーを連れてくると聞いた。
つまり、今『レヴェルト』は20人で構成されているということだ。ということは10人が欠席ということになる。出席率50%とはなかなか学級崩壊しているクラスのようだ。
「今日は私のことを知らない新人の子もいるだろうからまずは自己紹介をする。『レヴェルト』の統括をしているピエロス・ミェンチェだ。とは言ったものの、今日新人は2人しか来ていないようだがね。まあいいけど」
ピエロス・ミェンチェ。
彼の話と今の状況から、本当に『レヴェルト』のリーダー的な存在なのだろう。
見た目は、わかりやすく言うと科学者のようだ。
筋肉の伺えない細い体と、それにして高い身長。極めつけは、かなり度の高そうな細い眼鏡をつけている。
その体から言える情報のすべては完全に弱者のそれだ。
しかし、先ほどまでぺちゃくちゃ話していた他の超人たちが、彼が話し出した途端、口を開けようともしない。その異常な状況に恐怖すら感じるほどだ。
「今日話すことは三つあるんだけど……君! どれがいい?」
「えぇ!?」
異様にかっぴろげられた目の前に指を三本たてた男——ピエロスがフクロウのように首を曲げて、こちらにグイっと詰め寄ってきた。
立てた三本の指をぴょいぴょいと動かしているピエロス。俺が選べということだろうか?
「じゃあ、これで」
アオイは薬指を選んだ。理由はない。適当だ。
それよりも、彼の手が異常に冷たかったのは気のせいだろうか。
「おぉぉ、いいの選んだねぇ。センス〇」
なぜだか知らないが、褒められた。
よかった、変なの引かなくて。
「じゃあ、一つ目。なんと今日『レヴェルト』に大型新人が加入します! ほら、みんな拍手拍手!」
みんなに歓迎の拍手を促すと、やる気のない拍手が返ってきた。
っていうか大型新人って言ったかこの人?
ハードルを上げるのはやめてくれ。俺なんて小型も小型だ。
「新人ちゃんからしたら、誰の名前も知らない状態だからね。それはそれは不安でいたたまれないだろう。かわいそうに。ということで、みんなに自己紹介をしてもらいます! じゃあ、この中で一番親しみやすそうな……ギルバート行こうか!」
「っんで、俺なんだよ! 何が親しみやすいだ、ぶっ殺すぞピエロスてめぇ!」
「怖い事言わないでよ。新人ちゃんが怖がっているじゃないか。ほら、早く。みんな待ってるよ?」
「っち。はぁ、俺様はギルバート・リー・テイラーだ。俺はお前たちに興味はないが、使えねぇ奴はうちにはいらねぇ。以上」
ギルバート・リー・テイラー。
この部屋に入ってきたときに絡んできた金髪の男だ。
その乱暴な口調通り目つきも悪く、第一印象はあまり関わりたくない、といったところだ。
彼の言った「お前たち」とはアオイたち新人のことだろう。いきなり怖い先輩に目をつけられてしまったのかもしれないと、身が震えた。
「見ての通り、彼はあまり素直じゃない。そこがかわいいともいえるんだけどねぇ。怖がらないであげてくれると統括としてうれしく思うよ。じゃあ次はそうだな、空気を変えてくれそうな……オリビアにしよう!」
「あら、わたくしですか。ギルバートが乱してしまった雰囲気を戻す役割とは、好ましくありませんが、団長さんの言うことなら断れませんね。オリビア・ベラミーと申します。かわいいかわいい新人さんを脅かす悪ーい方には後で私がきちんと叱っておきますので、どうか許してあげてくださいね。みんなで仲良くやっていきましょう」
オリビア・ベラミー。
褐色の優しそうなお姉さんだ。たれ目で背は高くないが、乳がでけぇ。日本ではめったに見ることのできない乳のでかさだ。感動さえ覚えるその乳にしか意識が向いておらず、あまり話が聞けていなかったのだが、先ほどのギルバートとは比べ物にならないくらい接しやすそうだと感じた。
少し安心。
「ありがとう。おかげで和らいだよ」
「どこを見て仰っているんですか?」
明らかに今、おっぱいに向かって話しかけてた。
案の定本人から指摘され、わざとらしく口笛を吹いているピエロス。ほんとに大丈夫かこの人。
「じゃあ次は、おっぱいつながりでアーフィルド行こうか!」
「いいか新人。もう薄々感づいているかもしれないが、こいつのこういった発言には無視するのが最適解だ。この組織で長くやっていきたいの覚えておくといい。いいな? よし、私はアーフィルド・ドレイクだ! よろしく頼む」
アーフィルド・ドレイク。
アオイの唯一面識のある人物だ。
説明は省かせてもらうが、今一度思ったことは、とにかく声がでかい。そんな声量で話す距離でもないのだが、応援団長みたいな声の出し方をしている。第二印象もやっぱり変な人だった。
「いいね。やっぱりアーフィルドの声を聞くと元気が出るよ。次は、ダイヤ!」
「つ、遂に来てしまった。え、えっと、ダイヤメイド・ローランと申します。わたしの名前なんて誰も覚えてくれないですよね、そうですよね。こんな影の薄い人間のことなんて明日には忘れていますよね。そうですよね。いや、覚えてもらわなくても結構です。わたしの名前ごときで脳みその容量を奪ってしまうなんて申し訳ないです。ごめんなさい。あ、あとわたしなんてすぐにこの組織からも首を切られてしまうと思うので、覚える必要もないというかなんというか。多分新しく入ってきた方々もすぐにわたしなんて越してしまうと思うので、ため口で罵ってもらって構いません。って、は、話過ぎましたか!? ごめんなさい。調子に乗ってしまいました。わたしごときが調子に乗ってごめんなさい。いっそのこと今首にしてください」
ダイヤメイド・ローラン。
前髪の長い薄緑の髪をした前髪の長い少女だ。
おそらくアオイより年下だろう。前髪の隙間からしか目は見られず、そのうえ誰とも目を合わせない。話し方から一目瞭然だが、かなりの根暗だ。
いや、これを根暗と呼ぶのは根暗の人に失礼かもしれない。その異常なまでの自信のなさや、マイナス思考はさすがに度を越している。困難で『レヴェルト』の仕事は務まるのだろうかと心配になるが、今もなおこの組織で居続けているということは、彼女もまた実力者なのだろう。
「今日も調子がいいね。元気そうで安心したよ。次は~イーダちゃん!」
「やった! やっとイーダの番だ! えっとね、イーダはイーダだよ? イーダ・オルテガ。ちゃんとじこしょーかいできた! ねえねえピエロス、イーダえらい? あ、あと新しいおにいさんたちもよろしくね!」
イーダ・オルテガ。
見ての通り子供だ。話し方やその立ち振る舞いも完全に子供にほかならず、5,6歳といったところだろう。なぜその年で、と思う前に目が行くところが一つある。
角だ。その真っ白な髪を突き破った日本の角は、羊のそれだ。一巻きされたその角は、子供だからかまだ小さい。しかし、彼女は紛れもない獣人だった。
「もう残り少なくなってきたぞ? あと少しだ。ローガンさん、お願いします」
「ローガン・モロゾフじゃ」
ローガン・モロゾフ。
子供の獣人とは打って変わって今度は人間の老人だ。
思わず「それだけ?」とツッコミたくなったほど簡潔で短い自己紹介だったので彼に関する情報はあまりとれなかった。白髪の彼はおそらくこの中で最年長だ。統括であるピエロスも敬語を使っていたし、見てくれも明らかに誰よりも年上だ。久しく会っていないおじいちゃんを思い出して少し涙ぐみそうになるが我慢。
「ありがとうございました、ローガンさん。最後はアイオちゃん! これで新人以外は終わりかな?」
「アイオだよ。こう見えても私は人間じゃない、ロボットなんだ。当たり前だけど『レヴェルト』で唯一の無機物だよははは。って笑ってよ皆」
アイオ。
説明は不要だ。
新キャラがたくさん登場しました。
一気に出てくると覚えずらいかもしれませんが、なんかワクワクするだろ?




