1-⑪ 『疲れる』
「びっくりしたでしょ。彼女は正真正銘のロボットだ。嘘ではないよ。まぁ詳しいことは本人に聞くと良い」
ピエロスが雑感を話し終えると、アオイに緊張が走った。
彼曰く、自分を含むあと2人は新しく加入する者らしい。
「それじゃあ、お楽しみの新人だ。一人はアイオが連れてきてくれた子で、もう一人は、アーフィルドが連れてきた子だ。一応私は全員一人連れてきてねって言ったんだけど。何をしているのかな。私もだけど」
「俺様にそんなめんどくせぇことやらせんじゃねぇ。そもそも今のやつらで十分だろ」
「ごめんねピエロスちゃん。探しては見たんだけどね」
「わ、わたしが人を選ぶなんて、そんなおこがましいことできません」
「イーダおともだちいないからできない!」
「……」
と、連れてきていない者たちの言い訳が並べられる。
しかし、トップであるピエロスも連れてきていないのだ。それを咎める人間はこの場には存在しなかった。
「その話はまた今度するとしよう。それよりも今は来てくれた子に注目しよう。それじゃあ先にアオイ!」
来てしまった。できれば後がよかったが、後は後でめんどくさそうだから結果良かった。
名前で呼ばれたことには驚いたが、平静を保つ。
「はい。えー、三神アオイっていいます。えっと、その一生懸命頑張ります。よろしくお願いします」
なにも浮かんでこず、スかした中学生みたいな自己紹介になってしまった。
周りの人たちも「それだけ?」みたいな空気になっている。
仕方ないだろコミュ障なんだから!
「おーけーありがとう。彼はアイオが連れてきた子だ。まだ何も分かっていないだろうから、優しくしてやってくれ。そして、栄えある最期を飾るのは、ノアだ!」
「名前はノア。他に言うことはない。行っておくが、俺はお前たちと馴れ合うつもりはない。俺の邪魔だけしなかったら、どこで死んでもらっても構わない。以上だ」
「「「「「「「「「————」」」」」」」」」
想像以上のやつだった。
そのあまりに過激な発言にこの場が一瞬にして静まる。
ノア。
苗字がないのか、言っていないだけなのかは分からないが、本人から発されたのはその名前だけ。
深い藍色の髪の毛は、薄暗いこの部屋ではほとんど黒になって見える。
年はおそらくアオイと同じくらいだ。身長は少しアオイの方が大きい。
誰も信用していなさそうなその冷たく色を失った鋭い目つきには寒気さえ感じるほど。
そして、特筆すべきはその態度だ。
あまりにも横柄で高圧的なその態度は、まったくもって新人がしていいものじゃない。
聞かれたから名前を言っただけ、お前らとは仲良くする気はない、俺にかかわるな、と言わなくてもわかるその口調と振る舞いは、いっそ清々しいとまで言えるかもしれない。
「おいピエロス! こいつはなんだ? 舐めてんのか俺様のことを。誰がこんなやつ連れてきやがった」
ギルバートが怒りをあらわにして、ピエロスに問い詰める。その顔にはとてつもない殺気を孕んでおり、一周回って笑ってしまっている。
対してノアのほうを見てみると、先ほどまでと同様、目を瞑って腕を組んで座っているのみ。
すごい度胸だな、とアオイは部外者ながらにそう思った。関係ない自分でさえ、ギルバートの怒号を聞いてビクッとなったのに、ノアはと言えば一ミリも動じていない。なんて奴だ。
「さっきも言ったが、彼を連れてきたのはアーフィルドだ。私が指定したのは『レヴェルト』にふさわしい人物ということだけで、その人間性や思想については何も言っていない。アーフィルドは彼が『レヴェルト』にふさわしいと思ったのだろうね」
「おい、アーフィルド! どういうつもりだ」
腹の虫がおさまらないギルバートは、ノアを連れてきた張本人——アーフィルドに矛先を向ける。
「なに、団長の言った通りだ。私は彼がふさわしいと思った。それ以上も以下もない。安心してくれ、ノアも悪気があるわけじゃない。私に無理やり連れてこられて少し気が立っているだけだ」
アーフィルドがギルバートに返答する。
その様子はギルバートと違って落ち着いており、アオイには彼女がノアの保護者のように見えた。
「いいじゃないですか、2人とも可愛くて。ギルバートもそんなに怒らなくても。あなたと関わる機会なんてめったにないでしょうに」
「そうだぞギルにぃ! 弱い者いじめはだめなんだよ!」
オリビアとイーダの二人からの援護射撃で、ギルバートの怒りはとりあえず火を消した。
「よし、これでお互いの名前と顔くらいは覚えられたかな。と言っても、さっきオリビアが言ってくれたように、基本的にみんな単独行動をしてもらう。よっぽどのことがないと全員が協力して何かをするってことはないと思うけど、顔くらいは合わすだろうしね。仲良くやっていこう!」
ピエロス含め、みんなギルバートの怒りには全く動揺していなかった。
おそらく慣れっこなんだろう。
ということで全員の自己紹介が終わった。
今のところの印象としては、一番関わりやすそうなのがオリビアで、逆に一番関わりづらそうなのがギルバートとノアだ。他の人たちは変わりすぎていてよくわからん。
まぁ、アイオとピエロスが言ってた通りほかの人と関わる機会はないらしいので少し安心だ。ランダムでペアを組んでもらいますとか言われたら最悪だった。
「自己紹介は終わったし、あとはいつもやってる任務の振り分けなんだけど、その前にあと一つ言っておかなきゃいけないことがある。ダイヤー、何のことだと思う?」
「え、えー!? なんですか? わかりませんよ? もしかして答えられなかったらクビですか!? わたし今日でもう一般人ですか!? 一般人なんですかー!?」
「あー、惜しいけどちがーう。もう答え言っちゃうよ? 最近、私たちに喧嘩を吹っかけてきているある組織がいるって話」
どこかで聞いたことのある話だった。
そうだ、エルゼロードがそのようなことを言っていた気がする。とある犯罪組織がどうたらこうたらみたいな。
しかし、周りを見てみるとみんな初見のような反応をしている。知ってるのは俺だけなのか?
「どういうことだ? その場合、私たちの正体がばれているということにならないか?」
「そう! そこが問題だ。いったいどこでバレたのやらって感じ。そんんでね、その組織がただの組織だったら、ギルバートでも突っ込ませればすぐ解決なんだけど、そうもいかないんだ。よく考えてみて、我々の正体を知ってもなお喧嘩を売ってきてるんだよ? なかなか手ごわい相手になりそうだ」
アーフィルドの疑問に、その通りと言わんばかりの反応を見せるピエロス。
なるほど。確かにそうだ。
相当な愚か者でない限り『レヴェルト』に喧嘩を売るなんてことはしない。
ならば、考えられる可能性は一つ、勝てる自信と実力があるのだろう。
「それで、話は三つ目へつながる。新人には申し訳ないが、いきなり特例だ。今回は集団で任務を行う。任務内容はこう。そのとある犯罪組織の抹消さ」
マジか。と心の中で呟く。
考えてもいなかった恐ろしいことが起きてしまった。
アオイが怖がっている理由は、大事件だからではない。もちろんそれもあるが、もっと大きな理由がある。この狂人たちと関わらないといけなくなったからだ。
「あぁ? んで群れなきゃなんねぇんだよ! 俺様一人で十分だ!」
「私もそうだと思ったんだけどね? 早く進めたいからみんなに分かりやすーく、簡潔に理由を言うよ?」
ピエロスは指を立てて、全員の顔を見渡す。
一拍置いて、告げる。
「——ティエナが殺された」
その短い一言で、見事に全員の顔色が変わった。
その証拠に先ほどまで静観を続けてきたローガンが目を開けたのだ。
正直アオイには全くその理由が分からないのだか、ティエナというのはおそらく『レヴェルト』の人だろう。その人が殺されたのなら、この反応も頷ける。
「あー、ティエナ殺されちゃったのかー。せっかく仲良くなったのに、かなしーなー」
初めに静寂を破ったのは純粋な子供の声だった。
「また一人死なせてしまった。責任は統括である私にある」
今までのひょうきんな声とは違い、暗い声のピエロスが話す。
「もう誰も死なせない。そのための集団任務だ。分かってくれるかな?」
「はぁ、わーったよ。やればいいんだろやれば。俺様が一瞬で片づけちまっても文句言うなよ?」
立ち上がっていたギルバートが椅子に座る。
怒っていた彼もピエロスの話を聞き、納得してくれたようだ。
「よーし決定だ! みんな元気を出して。争いは元気がないと勝てないっていつも言ってるだろー?よし、作戦概要を発表しよう。今回のメンバーはこの10人。久しぶりの集団任務だからワクワクするね。他の子は、今日来なかったってことは忙しいんでしょ。任務中の子もいるしね。目的は謎の犯罪組織の殲滅だ! 張り切っていこうじゃないか!」
戻ったどころか、さっきまでよりもテンションが高いピエロスに若干ドン引きしつつも、概要をしっかりと頭に入れる。
「あでも、みんな疲れてそうだから、いったんここで休憩にしようか。そうだな、20分後に再開で」
その合図で、『レヴェルト』はばらばらに散っていった。
この部屋に居残る者もいたが、ほとんどが外に出ていく。アオイも例外ではなく、アイオと共にロビーの休憩室に向かった。
「はぁー疲れたー」
張り詰めた空気から解放されアオイはやっと大きく息をすることが出来た。
「よく頑張ったね。それにしても大変なことになってしまったね。私も集団任務にまで行くとは思っていなかったよ」
「そんなに珍しい事なのか? それ」
「そうだね。数年に一回あるかないかだ。それに今回は人数も格段に多い。基本的に2人か3人、多くても5人くらいだ。リーダーも相当重く見ているみたいだね」
「へー。それと、あのティエナっていう人は、」
「死んじゃったみたいだね。私はそんなに深く仲が良かったわけじゃないんだけど、仲間の死はやっぱり苦しいよ。『レヴェルト』自体、とんでもなく優秀な子だけを集めてる組織だから、ほとんど殉職っていうのはないんだけどね」
「だからこそ、今回の事件はやばいってことか」
「うん」
あまり触れるべきじゃなかったかとアオイは後悔した。アイオはそういった感情に鈍いのだと思っていたのだが、思ったより暗い顔になっていて焦った。
ロボットでも死は辛いものなのか。
「みんなとはうまくやっていけそうかい?」
「いーやまったく。強いて言えばオリビアさんくらいかな。正直、他は話す気にもなれないよ。」
わかりやすく話題を変えたアイオの質問に答える。
その質問内容は全くうなずけるものではなかったが。
「はは。間違いないよ。ほんと私以外は変な奴ばかりだからね。言ってしまえば、能力の高さでぎりぎり許されているような異常者たちだ。君にはさぞ恐ろしく見えるだろうよ」
「アイオは皆と仲良いのか」
「『レヴェルト』は仲良しグループだよ。君も早く慣れると言それにしてもオリビアか。ちなみに私は、オリビアが一番怖いと思うよ」
え?
背筋が一気に寒くなる。
逆に怖くなってきた。いやいや、優しすぎて怖い、みたいなそんな話だよなそうだよな。あんな優しそうなお姉さんが怖いだなんてそんなことあるはずないよな。
「あー、あと気になったのが、あのおじいちゃんは何者なんだ? ずっと黙ってたけど」
「ローガンさん? 見ての通りただのお爺さんだよ? 規律を重んじる人でね、集会の時とかは一言も話さないんだけど、普段は結構しゃべってくれるよ。今度話しかけてみるといい」
行けたら行こう。
なんか顔怖かったし。
明らかにただの老人には見えないし。うん。
「なあアイオ、俺大丈夫かな。新人がほかにもいると思ったから安心してたけど、一人だったし。その新人もなんか只者じゃなさそうだったぞ。俺マジで場違いじゃん」
「大丈夫だよ。君には私がいる。それにしても、あのノアって子、なかなか癖の強そうな子だったね。アーフもいいの連れてきたね。『レヴェルト』にぴったりだ」
あれを癖が強いで片づけられるのは、さすが『レヴェルト』でやってきたという感じだ。もしも、アオイが採用担当なら履歴書を迷いなく破るだろう。俺もまだ未熟ということか。
「もちろん、君も私の自慢だよ? 私は出来上がったパズルに魅力を感じないんだ。まぁかくいうあの子もまだまだだけどね」
メンタルケアまで忘れないアイオ。
それに報いたいのだが、それはいつ叶うのだろうか。
「この事件で大手柄をあげたら、自信がつくかもね」
「俺は、お前らみたいに戦えないぞ?」
「戦闘の強さだけがすべてじゃないよ。むしろ、それ以外のことのほうが重要だ。ただ強いってだけの人は『レヴェルト』には入れない。そこをはき違えてもらっては困るな」
「アイオは強いだけじゃないのか?」
「私はかわいいじゃないか」
まあそれはそうだけど。
かわいさが役に立つのかは不明だ。ハニートラップとかか?
「俺はかっこよくないからな。身体的特徴は利点になりそうにないわ」
「外見の良し悪しなんて、そんなどうでもいい事気にしないでよ。これだから現代人は。大事なのはここだぜ!」
「どっちだよ!!」
ウインクをして決めるアイオに、思わず叫んだ。
こんなバカなやり取りをしていると本当にロボットだってことを忘れそうになる。
「そういえば、他のやつらはお前がロボットだってこと信じてんのか?」
日本に生きてきたアオイだからロボット言うものにまだなじみがあるが、この世界はそんなに発展していない。ロボットという言葉すらあるのか危ういくらいだ。
「初めは信じてもらえなかったね。だって見た目はかわいいかわいい美少女だしね。肌がカチカチとかだったらもっと早く信じてもらえたかもしれないけど、私の肌はこの通りもちもちだからね。最終的にみんな『どっちでも同じか』ってなってたよ」
自分の太ももを指でつまむアイオ。
確かに人間の肌のように伸び縮みしていた。シリコンのような素材なのだろう。
それにしても、『どっちでも同じ』か。
ながく一緒に過ごしているとアオイもそうなってしまうのだろうか。今のアオイには考え難い思考だ。
人間と全く同じ形をしていたら、それは人間と同じものなのだろうか。
「そろそろ、戻ろうか。二連続遅刻はさすがにいやだからね」
と実に人間らしいは発言が広場に響いた。




