1-⑨ 『どうして』
「おはよう!」
「おはよ。朝から元気だなアイオ」
朝、何とか起きることが出来たアオイは、待ち合わせをしていたロビーでアイオと挨拶を交わす。
昨日まで、いや出会っ本当にテンションが変わらないアイオに苦笑しつつ、まだ寝たいと言ってる目をこすった。
「今日は待ちに待った定期集会だよ? 君も楽しみだったかい?」
「楽しみじゃねぇよ。緊張と不安で潰されそうだ」
「多分大丈夫だよ。何かあれば私もいるしね」
「多分ね」
アイオの言う通り、今日は定期集会というものがある。アオイにとっては『レヴェルト』の人たちとの顔合わせといったところだ。
それまで、まだ少し時間はあるものの、すでに心臓が痛がっている。心配だ。
「あ、そういえば昨日アイオと別れた後、アーフィルドって人と会ったぞ、『レヴェルト』の」
「そうなのか! 大丈夫だったか?」
その一言で、あの人がどのような人なのか分かった。
俺の見立ては間違っていなかったようだ。
「オブラートに包んで言うと、変な人だったな」
「そうだね。しかし、あれでも与えられた仕事は完璧にこなすし、『レヴェルト』に入ってからの歴も長い。みんなに頼られるのも。うなずけるね」
「確かに。頼もしそうではあったかも。アイオはアーフィルドさんと仲はいいのか?」
「仕事仲間って感じかな? たまに食事に誘われて行ったりもするよ。ここだけの話だけど、アーフは皆の前だとあんまり食べないが、わたしとご飯を食べる時はとんでもない量を食べるんだ。彼女と話すときは、年齢の話と体の話だけは避けたほうがいいよ」
そういうことだったのか。
かなりスリムで綺麗な体をしていたのだが、本人は気にしているらしい。
見た目と話し方のわりに可愛げのある人だ、と本人がいないところで思うアオイだった。
「言っちゃ悪いかもしれないが、『レヴェルト』はあんな人ばっかりなのか? もっとまともそうな人は、」
「私がいるじゃないか」
ああ、そういう感じか。
胸を張って得意げに答えるアイオの返答には無視をした。
考えてみればそうだった。おかしな奴におかしな奴である自覚があるはずないと。
話題を変えよう。
「そういえば、俺はアイオのことについて何も知らないな」
もちろんこのアイオと『Aio0002』に出てくるアイオが違う存在だった場合のことだ。
アオイちゃんのことについては知らないことがないくらいには詳しい。
身長は168.99センチ、体重は50.1キロ。
スリーサイズは下から72、53、80。
首元と太ももにほくろがある。
手が人より少し大きく、両利き。
趣味は人間観察と、文献を読み漁ること。
誕生日は未公表だが、かに座だそう。
好きなものは人間で、嫌いなものは熱い所。
仲間外れにされることが大嫌いで、されたら怒る。
撫でられたら喜ぶが、撫でられるよりも撫でる回数のほうが多い。
とりあえずこんな感じだ。もっと細かいところまで言い出したらきりがないのでこの辺にしておくが、アオイがアイオちゃんに詳しいということは分かっただろう。
さて、アイオはどうなのだろう。
「たしかに、昨日はドタバタで君と落ち着いて話す機会もなかったからね。定期集会までまだ時間はあるし、今だったら何でも聞いて。全部答えるよ」
「じゃあ、スリーサイズは?」
「へ?」
アイオにしては珍しく、情けない声が出た。
「だから、スリーサイズだよ。早く答えて」
決して本当にそれを聞きたいわけじゃない。
このアイオがアイオちゃんと同じかそうでないのかを確認する最も確実な方法だ。これが最も確実な方法なのだ。
「え? あ、えーと、上から……80……53……72です」
ほう。
アオイの暗記しているアイオちゃんの数値と全く同じだ。
それにしても、本当によくできたロボットだ。
今の少し恥じらった話し方や、少し視線を外した仕草は人間以外の何物でもない。
「何か言ってよ。ロボットだけど私だって体のことを聞かれたら恥ずかしいんだよ。ていうか、私のことを知りたいって言って、初めにする質問がそれ? もっとあるでしょ」
「うーん、そうだな。あ! 体重とか?」
「50.1キロです。って違う! もういいよ! 君は私のことを知る前に乙女の心を知るべきだ」
と言いつつちゃんと答えてくれるアイオは優しい。
聞かれた質問には必ず返してしまうプログラムでも施されているのだろうか。
今度、質問攻めしてやろう。
「ごめんごめん。最後に一つだけ」
アオイは空気を吸う。
「どうして俺を選んだんだ?」
空気が変わる。
先ほどまでの談笑の空気は消え去り、2人の表情は強張る。
どうしてアオイを選んだのか。その疑問は昨夜からずっと胸の奥に突っかかっていた疑問だ。『レヴェルト』に入りたくなかったとか、誘ってほしくなかったとか、そういうのではない。
これからアオイが変わるきっかけになったし、『レヴェルト』の活動が少し楽しみでもある。
しかし、それを知ることができないと……やるせない。
「どうしても聞きたいのかい?」
「あぁ、俺はそれを知らないといけないって思ってる」
いつもの調子に戻って話すアイオ。
しかし、アオイはいつもとは違った真剣な表情で返す。
「そんな真剣な顔で見つめられたら照れてしまうじゃないか」
「茶化すな。それとも、答えられないのか?」
なかなか答えないアイオをもどかしく感じて問い詰める。
「……ごめんね。ちゃんと答えるよ」
アイオの表情もアオイ同様に真剣なものに変わる。
その空気の変化にアオイは固唾を飲んだ。
アイオが静かに口を開ける。
「正直に言うと、君の実力を踏んでとかそんな理由ではない。君より強い子も君より賢い子も街に出るとすぐに見つかると思うよ」
まあ、それは自分でも分かっていた。分かっていたから傷つかない。
「魔法適正もない、見た感じ肉体も出来上がってはいないからおそらく剣や武器などの扱いも難しいだろうね」
傷ついた。分かっていても傷ついた。
さすがに言いすぎじゃない? もっとオブラートに包んで肌触り良く言ってくれても。
しかし、間違ってはいない。万年部屋に引きこもって筋トレさえしたことがないアオイは、ろくに剣も振れないだろう。
「頭が切れることを期待したいけど、」
けど、なんだよ。
なんでそこで止めたんだよ。何が言いたい。
「多分、『レヴェルト』のみんなに怒られちゃうね。なんでこんな奴連れてきたんだ―って」
確かにそうかも。
なんだ、急に集会に行きたくなくなってきた。
「私もほんとは、別の国に行ってでもとんでもなく強い子を連れてくるつもりだったんだ。目星もつけてた。この世界の最東端にあるシラホシって国があるんだけど、そこになかなかいい子がいたんだよ。けど、そのシラホシに向かおうとした時に君を見つけた」
なんで俺が出てくるんだ。
その国のそいつにしとけばよかったんじゃ、
「……助けたいって思ったんだ。いや違うな。助けなきゃって思ったんだよ。本能みたいなものかな? 体が勝手に君の方に向かっていった」
わからない。
機械に本能を芽生えさせるほど、みすぼらしかったのだろうか。
「だから、ここまで言ったけど論理的な理由はないと言ってもいいね。機械の私がこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど」
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「わがままさ。」
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「ここで、君に私についての一番大切な情報を知ってほしい」
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「私に施された命令プログラムは一つだけ」
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「君を幸せにすることさ」
————————————笑顔でそれを言ったアイオの目が少し揺れて見えた。




