災厄――時空の歪み
壬生寺の境内に、異様な気配が満ちていた。
ざわ……ざわ……と、大地がうねる。
僧侶たちは 何もわからぬまま、御仏の名をよび、必死に経を唱えている。だが声は震え、数珠を握る指先も強張っていた。
その只中で――
すでに、布陣は整っている。
沖田総司。永倉新八。斎藤一など、それぞれが率いる新選組の精鋭たちは、言葉を交わすことなく間合いを取り、視線だけで意思を通わせていた。
やがて――
それは、ゆっくりと姿を現した。
影が先に来る。
遅れて、巨体がにじみ出るように現れる。
「恐竜だ……!」
ダルマの声が震えた。
誰もが息を呑む。
圧倒的な巨体!境内の空気そのものが、押し潰されるようだった。
だが――
「待って!」
ダルマと共に来た子供が、 拘束されている座敷から,大声でさけんでいる。
「やめて! ひどいことしないでよ!」
振り向けば、小さな影が、 隊士たちの手の中、バタバタと暴れている
「あれ……草食恐竜なんだ! おとなしいんだ!殺さないでよ……!」
かすれた声。
沈黙が落ちる。
恐竜は、ゆっくりと首を巡らせ――庭の木へと顔を向けた。
ぎしり、と音を立てるような動き。
そして――
むしゃり。
葉を食んだ。
その音が、妙に生々しく響く。
バリ、バリと枝を噛み砕き、木々は見る間に無残な姿へと変わっていく。
その口元に並ぶ歯は鈍く光り、吐き出される息は生暖かく、風に乗って流れた。
腐った土のような匂いが、境内に広がる。
「ふん……おとなしい、だと?」
あれを、このままにはしておけぬ。
その一歩で、地面が沈む。柱が軋む。
それだけで、十分すぎる“災厄”だった。
「時間の歪みで、過去の生き物が漏れてきてる……!」
ダルマが絞り出すように言う。
山崎が低く問う。
「漏れてきてる、だと? こういうのが……まだ来るのか」
土方が一歩、前へ出た。
「……ダルマよ。その歪みとやら、戻せるのか」
「わからない……まず、“時渡りの箱”を返してもらわないと……!」
その間にも――
寺は、刻一刻と破壊されていく。
土方の声が、鋭く響いた。
「新選組!」
「ヒトの犠牲を最小限に抑えろ!逃げる時間を稼げ!」
沖田総司が、真っ先に飛び込む。
風を裂くような踏み込み。
続いて、原田の槍が唸りを上げた。
――その時。
空間が、再び裂けた。
空気そのものが引き裂かれるような、不気味な音。
そして――もう一つの影。
今度は、
先ほどのものとは、明らかに違う。
より低く、より重く、そして――獰猛な気配をまとった巨大な化け物が、姿を現した。




