↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

#32 ちょっかい/誘導

Side:Remon


 トロい奴ってホントムカつく。

 ノロマで、不器用で、簡単なことを覚えるのにも時間が掛かる。

 そしてそういう奴に限って、いつもおどおどしている。

 だから余計に、見ててイライラするんだ。

 この前の繁華街での翠さんもそうだけど、今檸檬がムカついてるのは、目の前で雑巾がけをしている同級生。

 奥村《おくむら》福《ふく》。

 天然パーマが特徴的な、檸檬のクラスメイトだ。

 コイツがとにかくキショい。

 話しかけられたらずっとおどおどしてるし、声が小さくて何言ってるか解らないし、何よりトロい。

 現にこの掃除の時間でも、他のクラスメイトと比べて雑巾がけが遅かった。

 他の子が楽々2往復する間に、奥村はやっと1往復。

 意味解らない。

 どうしてここまで差が出るんだろう。

 顔もそばかすだらけで汚いし、もうこれ神の失敗作でしょ。

 そんな劣等種とも言えるような奥村が、私が居る方へ、雑巾がけで近づいてくる。

 よく見たら、息が上がっていた。

 どんだけ体力無いんだよ。

 雑巾がけで息切れしてんじゃねぇよ。

 ムカついたから、奥村に向って歩き出す。

 奥村は一生懸命過ぎて、気づいてない。

 眼鏡越しで、ずっと雑巾だけを見ている。

 その雑巾を押さえる手を、檸檬はすれ違い様に蹴った。

 奥村がバランスを崩して、顔を床にぶつける。

「おぼっ!」

 今の聞いた?

 おぼっ!だって。

 ヤバい。面白過ぎる。

 とぼけるつもりだったけど、奥村の声が情けなさ過ぎて、檸檬はその場で笑い出してしまった。

 前のめりに倒れていた奥村が、ノロノロと体を起こす。

 床に赤い雫が零れ落ちた。

 なんと、奥村の鼻から、大量の血が流れ出ていた。

「きゃぁあああああああああ!!」

「奥村!血!メチャクチャ血が出てんぞ!」

「やばっ…えっと……ティッシュ!ティッシュどこ!?」

 鼻血を垂れ流す奥村の姿を見たクラスメイトが、パニックになる。

 あれ。これヤバいかな。

 やり過ぎたかも。

 まぁいっか。なんか面白いし。

「お前ら〜、何騒いでるんだ〜?」

 げっ、ヤバい。

 騒ぎを聞きつけて、担任の北山《きたやま》が教室に入ってきた。

 北山の目線は、やっぱり奥村に向けられる。

「なっ!?奥村!大丈夫かぁ!!」

 手を鼻に当てて血を止めようとする奥村に、北山が駆け寄った。

 どうにか奥村を立たせると、北山は奥村を立たせ、教室から出ていった。

 ここでふと、視線を感じた。

 何人かのクラスメイトが、檸檬のことを見ていた。

 ありゃりゃ。

 檸檬が奥村蹴ったところ、見られてたかな。

 めんどくさいことになりそう…。




「国仲、またお前か」

 放課後。

 北山に呼ばれた檸檬は、職員室でお説教を受けてた。

 こうやって呼び出されるのは初めてじゃない。

 北山は呆れたように溜息を吐いている。

「聞いたぞ。奥村が雑巾がけしてるところを、お前が足を掛けて転ばせたって。なんでそんなことしたんだ?」

 北山の説教は、いつもこんな感じで始まる。

 ちなみに奥村は早退した。

 鼻の骨が折れてるかもしれないってことで、病院に行ったらしい。

 檸檬はお説教なのに、あいつは午後の授業までサボって…。

 マジムカつく。

「だって奥村見てたらイライラするんですもん」

「なんでイライラするんだ?」

「奥村トロくないですか〜?何をするにも皆より遅いし。はっきり言ってぇ、皆の足引っ張ってるみたいな?だったらもう笑いで貢献するしか無くないですか〜?」

「お前なぁ…!」

 あっ、北山怒ったかも。

 ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ。

「奥村だって頑張ってるんだぞ!ただ人よりゆっくりなだけだ!馬鹿にするんじゃない!」

「そんなこと言ってますけど〜、先生だって心の中じゃ奥村にイラついてるんじゃないんですか〜?」

「どこにイラつくっていうんだ?あいつは一生懸命な奴だ。勉強だってお前よりできるんだぞ」

「はぁ!?」

 ちょっと待って、初耳なんだけど。

 待って嘘でしょ。

 檸檬、あいつに成績で負けてるの?

「奥村はなぁ、じっくり確実に、コツコツ頑張る奴なんだよ。それがあいつの良いところであり、個性なんだ。馬鹿にするようなものじゃない」

「それ言うんだったらぁ、トロい奴にちょっかい掛けるのも檸檬の個性なんでぇ、ほっといてくれません?」

「そんなもん放っておける訳ないだろう。とにかく事が事だ。今日のこと、お前の親御さんに連絡しておくからな」

「えぇ!?そんなぁ!!」

「今までは説教で済ませてたがもうダメだ。直接話させてもらう。話は終わりだ。今日は早く帰りなさい」

 最悪。

 ガチ最悪。

 普通親に言う?

 はぁ、ホント最悪。

 帰ったらママに説教される。

 檸檬悪くないのに。

 悪いのは、檸檬をムカつかせる奥村だってのに。

 文句付けたかったけど、北山はこれ以上聞いてくれる感じじゃない。

 仕方なく、檸檬は職員室を後にした。




 別に学校でやることもないし、どこかへ寄る予定もない。

 だから普通に下校する。

「はぁ…」

 今日何度目かの溜め息。

 帰ったら帰ったでお説教確定だからなぁ。

 できれば帰りたくないけど、帰りが遅かったら遅かったでさらに怒られそう。

 つまんない。

 何ていうか、全部ウザい。

 役立たずの方が評価されるとか、世の中変過ぎるでしょ。

 ウザい繋がりだと、翠先輩もだ。

 いつもメソメソグズグズしてるし、弱いし、根性無いし。

 あれが2個上とかありえない。

 マジでお荷物。

 あの日の繁華街でも、最終的に由希先輩に助けられてたし。

 …にしても由希先輩、違う意味でヤバかった。

 あんなにボコボコにされてたのに、あの人は何度も立ち上がってくる。

 血塗れで真っ白な翼を生やした姿は、もはやホラーだった。

 最初会った時は弱そうだと思ってたけど、狂ってるでしょ。

 けど翠先輩には見習ってほしいかなぁ。

 由希先輩は、これから強くなりそう。

 強いでいったら、麻由美先輩かな。

 あの人、あの日がデビュー戦だったのに、メチャクチャ強かった。

 練習してきたって言ってたけど、普通あそこまで戦える?

 やっぱ才能とかなのかな。

 海先輩や穂香先輩だって強いのに、麻由美先輩はもう、ほとんど同等。

 こうして考えてみると、檸檬って大したことない?

 何というか、いつか先輩達に置いてかれそうな気がしてきた。

「はぁ〜あ。何なのマジでぇ」

 ポツリと独り言が漏れる。

 イライラとかはとっくに通り越してて、何ていうか、胸の中がモヤモヤする。

 これどうしたら発散できるかな。

 そんなことを考えていたら、背中に何かが当たった。

「ん?」

 振り返ると、足下にいちごミルクのパックが転がっている。

 真ん中が凹んでいて、刺さったストローから、ちょっとだけ桃色の液が流れ出ていた。

 路地の陰から、それを投げたであろう相手が、こっちを見て笑っている。

「ッ…!アンタは!!」

 そこに居た奴に、見覚えがあった。

 あの日の繁華街で逃げ遅れてた、地雷系女子。

 コイツのせいで、由希先輩は人質に取られてたんだ。

 地雷女はニヤッて笑うと、路地の中へ引っ込んだ。

「なっ!待て!このぉ!」

 地雷女を追いかけて、路地へ飛び込んだ。

 あいつ、何かある。

 とっ捕まえて、知ってること洗いざらい吐いてもらうんだから。

 この時、地雷女を捕まえることに必死で、周りがよく見えてなかった。

 路の先に、黒い魔法陣があることにさえ気がつかなかったんだから。

 魔法陣を踏んだ途端、体が沈む。

「うわっ!!?」

 体が、魔法陣の中に落ちる。

 その先にあったのは、コンクリートの固い床。

「へぶっ!!」

 そこに思いっ切り叩きつけられた。

 痛みを堪えながら、ゆっくり立ち上がる。

 老朽化したところで、よく解らない機械がいろいろ置いてある。

 見た感じ、ここは廃工場?

「まんまと引っ掛かったなぁ」

 聞いたことあるムカつく声がした。

 そこに居たのは、ニヤけた顔の黒部だった。

 隣にさっきの地雷女も居る。

 コイツ、最初から黒部の仲間だったんだ。

「くになか…だっけ?繁華街以来だねぇ」

「黒部……何が目的!?」

「いやぁ…。僕としてはさぁ、きみたち全員をいっぺんに相手するのはキツイんだよね。だから1人ずつ倒していくことにしたんだぁ。手始めに、1番簡単そうなきみから倒そうと思って」

「は?」

 何それ。

 簡単ってどういう意味?

 檸檬が一番弱そうだってこと?

「あぁ、怖かったら別に逃げてもいいよ。ほら、お仲間が居ないとさぁ、きみもいろいろと不安でしょ?」

 黒部がニヤけながら、そんなことを言ってくる。

 コイツ、どこまで檸檬をナメ腐れば気が済むの。

「上等だよ」

 ポケットからコンパクトを取り出した。

 このまま皆を呼びに行くのは癪だ。

 潰すべき相手は、目の前に居る。

 だったら倒す一択でしょ。

「ぶっ潰してやる!!」

 コンパクトを開いて、中のペリドットに触れる。

 すると、黄色い光が檸檬を包んだ。

 身に着けていた制服が消えて、あのチャイナ服みたいな衣装へと変わっていく。

 そして光が晴れれば、エレキ檸檬ちゃんの完成だ。

「ヒヒッ。10秒で終わらせたげる!歯ぁ食いしばれぇ〜!」

 檸檬があいつを倒したら、もうそれで全部終わりでしょ。

 今日で檸檬達と黒部との戦いは最終回。

 この前会議したファミレスで、皆に祝勝会開かせるんだから。

 一思いに終わらせるため、檸檬は全身に電気を纏った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。