#31 標的/ゲーム
Side:Aruto
繁華街での戦いから1日…。
まだ昼間だが、僕はアジトのソファで寝転がっていた。
ここも随分と静かになったもんだ。
ちょっと前まで馴染みの眷属がひしめいていたってのに、今は誰も居ない。
初めて作製し、昨日まで行動を共にしたヴォルフも、変身した村崎麻由美に殺された。
ドライブもマッチ共も、カメラ達も消えた。
『トコヤミ』の『眷属一覧』には、誰も写っていない。
現在このアジトに居るのは、以前よりレベルが上がった僕1人だ。
「おい或斗ォ、なんで昼間から寝てるんだァ?体調でも悪いのかァ?」
ソファの影からトコヤミが生えて、クツクツと笑っている。
忘れてた。
そういえばコイツも居たな。
「クハハ!それとも、無様に負けて帰ってきたのがまだ悔しいのかァ?」
「黙れ!いろいろ考えてんだよ!」
僕は起き上がり、ムシバミに拳を振るう。
だが奴が素早く影に入ったことで、空振りに終わった。
そしていつの間にか、ソファの後ろに立っている。
「奴ら個々が強ェ。その上連携も丸だ。無暗に眷属を作ってばかりじゃあ、昨日と一緒だろうなァ」
「解ってるってんだよ!!」
眷属だけ作っていてもダメってことは理解した。
だから僕自身のレベルも上げ、相対的に作れる眷属の強化も計った。
現在僕のレベルは12。
これで姫路さんとほぼ互角だったから、他の奴らも同等かそれ以上だろう。
だが、ムシバミが言うように奴らは個々が強い。
実力にバラつきはあるものの、戦闘中に突然新しい力に目覚める可能性すらある。
姫路さんが光線を出したり翼を生やしたりできるようになったみたいに、他の奴らが覚醒してもおかしくない。
そんな奴らと付き合っていかなきゃならない訳だ。
「やっほ〜あるピ〜〜!それからムシムシ〜〜!」
あれこれ思案していると、騒がしい奴が入ってきた。
ノワルこと、影内希羽琉。
人が不幸になるところを見るのが好きってことで、僕に協力してる地雷系女子だ。
昨日の繁華街の焼き討ちはコイツの案。
しかもコイツは土壇場で出てきて、姫路さんの注意を惹いてくれたりもした。
まぁ結局、村崎のせいで全部台無しになっちまったんだが…。
「えっ?なに?あるピ落ち込んでんの?昨日のこと〜〜〜?」
「うっさいなぁ!あの紫女さえ出てこなけりゃ全部上手くいってたんだよ!あいつのせいで流れが変わった!」
「隠れて見てたけどヤバかったよね、あれ。てか紫女のせいで霞むけど、他の子たちも相当化け物じみてなかった〜?緑除いて」
ノワルが僕と奴らの戦いを見たのは、昨日初めてだ。
すぐに戦意喪失した周道翠は置いといて、土石を自在に操っていた村崎麻由美に、稲妻のような速さで動き回る国仲檸檬。
燃える刀を振り回す真辺穂香に、氷の矢を射る御子柴海。
そして、どれだけ血塗れになっても、諦めずに立ち上がってくる姫路さん。
ノワルの言う通り、化け物ばっかだ。
けど野望のためには、この6人との戦闘は避けて通れない。
「……とにかく、昨日で思い知らされた。今の戦力じゃ、全員まとめて相手してられない。まずは1人。誰かしら1人になったタイミングで襲撃する」
「それがいいかもね〜。誰にする?やっぱり緑の子?」
「いや、ダメだ。あいつの傍には御子柴が居る」
周道と御子柴は学校が同じで、よく一緒に行動している。
片方を狙えば、必然的にもう片方も相手取ることになってしまう。
御子柴を狙うのはまだ早い。
とはいえ、周道の能力もなかなかに厄介だ。
植物による拘束に、こっちの攻撃を通さないバリア。
サポートに特化している。
奴が操る蔦に捕まれば、まず自力で脱出できない。
拘束されたら、後はやられ放題。
つまり、終わりだ。
「じゃあ誰にするの〜?」
「……一応決めている。黄色女…国仲だ」
姫路さん、真辺、村崎は、僕と同じ永久中。
周道と御子柴は美桜女子。
そして、国仲は松原中。
そう。学校だけで切り取れば、国仲だけが孤立してるんだ。
「あいつは他の変身者よりも1人で居ることが多い。下校ルートも知ってる。充分待ち伏せして奇襲できる」
「あぁ、あの黄色い子?ちびっ子なのにめちゃめちゃ強くなかった?大丈夫そ?」
「大丈夫なように、今から準備するんだよ」
あいつの力は電気や雷。
普通に放電されるだけでも面倒だが、一番厄介なのは高速移動だ。
おそらく自身を雷と化することで、あのスピードを実現している。
国仲が得意とするのは、急接近してからの肉弾戦。
装脚を纏っているせいか、蹴り技が多い。
遠距離攻撃もできるだろうが、奴の性格故か、出してるところを見たことがない。
脳筋スピードアタッカー。
それが僕から見た、国仲の戦闘スタイルだ。
「ノワル、お前にも手伝ってもらうぞ」
「いいよ〜♪あるピの頼みだったらぁ、何だって聞いてあげる♪」
そう言ってノワルは、悪そうに笑った。
僕の頼みだったら何でも聞く…か。
なかなか解ってるじゃないか。
国仲を落としてコンパクトを奪ったら、ノワルに渡してやろう。
繁華街でゴミ掃除をしたおかげで、ポイントはたんまり溜まってる。
何だってできるぞ。
待っていろよ、国仲檸檬。
まずはお前から地獄を見せてやる。
Side:Mushibami
ガキ共が悪巧みしてるのを見て、俺は口角を上げていた。
昨日こっ酷くやられたってのに、或斗の奴は全く折れちゃいない。
自身の野望のために、邪魔者を排除しようと躍起になっている。
コイツらは力を得るために街を襲い、何十人も焼き、潰し、殺した。
所謂テロってやつを、齢14歳にして起こしやがったんだ。
これまで人間を腐るほど見てきたが、この歳でこんな所業を起こした奴は或斗しかいねェ。
人ってのは子だろうと、目的のためならいくらでも残酷になれるってか。
それとも時代の流れで道徳心が薄れただけか。
日本は昔と比べて優しい国になったもんなァ。
同時に優しさにつけ込んで悪事を働くどうしようもない人間も、ゴマンと増えた。
まぁ俺としては、優しく甘っちょろい人間よりも悪どい奴らの方が好きだけどな。
丁度いい。
その甘っちょろい奴のところに顔を出してやるとするか。
或斗もノワルも俺抜きで話を進めてるからなァ。
俺は体内に分身を作り、動き出す。
この俺の体の中は、闇そのものだ。
全ての道理を無視するくらいの規模で、真っ暗闇の世界が広がっている。
俺は分身に意識を移し、黒の世界を飛んで移動する。
その奥に、目的の相手が居た。
この永久の地の守神 ミタカラヒメ。
地面から生えた黒の触手で体を絡め取られ、その状態で眠っていた。
こうして捕らえるまでに、相当な苦痛を与えた。
力を引き出すための宝石も失っている。
同じ神とは思えねェくらい、ボロボロだ。
俺は地に降り立ち、奴の前に立つ。
この俺の気配を察したのか、ミタカラヒメはゆっくり目を開けた。
「ミタカラヒメ様よォ、調子はどうだァ?」
「……ムシ…バミ……」
消えて無くなっちまいそうな声で、奴は呟く。
コイツとは取り込んで以来話してなかったが、眼光だけは衰えちゃいない。
いくら弱ろうと、やはり神か…。
せっかくだ。少し遊んでやろう。
この黒く何も無い空間は、さぞ退屈だったろうからなァ。
俺は触手を解いてやる。
体の支えが無くなったことで、ミタカラヒメは地面にぶっ倒れた。
震える手で体を起こし、俺を見上げる。
「ほらァ、お前の土地を奪った悪神はここに居るぜェ。俺を殺せば全て解決だァ」
「ッ!!」
「俺を殺してみろよォ」
「ムシバミ……!!」
ミタカラヒメはふらついた足で、この俺に襲い掛かった。
奴の顔に浮かぶのは怒り。
憤怒の表情で、俺を殺しにくる。
俺は逆に、口角を上げていた。
「良い表情だァ……」
ミタカラヒメの顔に惚れ惚れしながら、腹に蹴りを叩き込む。
あまりに軽い。
奴は胃液を吐きながら、黒い地面を転がった。
「ガッ……アァアアアアアアアアアアア____!!!」
ミタカラヒメは叫びながら、再び向かってくる。
あの優雅な姿はどこにもない。
もはや犬畜生だ。
その落ちぶれ具合が面白い。
まぁいくら吠えたところで、状況は覆らない。
俺はミタカラヒメの顔面を蹴り抜く。
奴は球のように飛び上がり、仰向けの状態で落ちた。
俺もまた飛び上がり、ミタカラヒメの腹に右足をねじ込んだ。
「グガッ_____________!!!」
声にならない悲鳴が上がる。
それでも俺は、ミタカラヒメの腹に力を加え続ける。
奴には力が残ってない。
頼みの綱の宝石も、今じゃ形を変え、ガキ共の手に渡っている。
今のミタカラヒメは、人間のガキと変わらない。
「ほォ〜らァどうしたァ!?俺はァ!!ここに居るぞォ!!クハハハハハハハ!!!」
「うっ……ぎぃ……!!」
グチャグチャになりながらも、ミタカラヒメは抵抗をやめない。
ボロ雑巾同然だが、闘志は衰えていないらしい。
いくらやられようと、諦めることを知らない。
そういえば、由希って奴もどれだけやられようと、立ち上がっていたなァ。
ミタカラヒメ。
姫路由希。
コイツらはどこか似ている。
「……負け……ない…!!」
俺の足裏を押しながら、ミタカラヒメがそう零す。
凄いなァ。
足が数ミリ押し戻されてやがる。
「絶…対に……負ける訳には……いかない…!!」
両手をプルプル震わせ、抵抗する。
守神としての責任か。
健気なモンだなァ。
この綺麗なものを壊し、汚し、踏み躙るのが、俺は好きなんだ。
右足でさらに重圧を加えてやる。
黒い世界で、ミタカラヒメの絶叫が響き渡った。
しばらく痛めつけてから、俺はまたミタカラヒメを縛りつけた。
無理矢理立たせた状態で、黒い触手を巻き付けている。
すっかり憔悴しきって、文字通り虫の息だ。
「無様だなァミタカラヒメェ。その醜態、お前の眷属が見たらどう思うだろうなァ?」
「ッ…!!」
おぉ、怖い怖い。
挑発した途端、キッと睨み返してきやがった。
「永久の地に…人々に手を出したなら……容赦しませんよ…!」
「クハハハ!脅しのつもりかァ?力を失ったお前なんざ怖くも何ともないんだよォ!!」
この女神、本当に折れないなァ。
逆にどうしたら折れるのか気になってきた。
まぁ、とにかく今の状況を教えてやるとするか。
コイツはこの瞬間まで眠りに落ちていたんだからなァ。
「安心しろ。俺は直接手を下してはいない。オニキスの形を変えてガキに渡しただけだ。まぁそのガキは夜な夜なオニキスの力で人間を襲ってるし、昨日なんか繁華街を火の海にしちまったがなァ!」
「ッ!!……ムシバミ!!」
「おっとォ!俺だけ責められるのは筋違いだぜェ?間接的だが、お前だって宝石をガキ共に渡してるだろう!?しかも6人に…なァ!」
「……あなたの手に…渡るよりは良いでしょう」
「クハハハ!違いねェ!とにかくだ!今は俺が選んだガキとお前の眷属が選んだガキ共で戦争中なんだわ。そこで……だ」
俺はミタカラヒメの目の前に、円を生み出してやる。
そこから見えるのは、外の景色だ。
或斗とノワルが、何やら話し込んでいる。
「観戦しようぜェ!格闘技で言う、第2ラウンドってやつをよォ!」
「観…戦……!?」
「心配するなァ。今はお前の陣営が押してると言っていい。まぁ俺が選んだガキも、まだ諦めてないがなァ!クハハハハハハハ!!」
「ッ…!!あなた達!!聞こえますか!?」
ミタカラヒメは向こう側に居る或斗とノワルに呼び掛ける。
だが奴らは応えない。
そもそも無駄なんだよ。
こっちからの声は、向こうには響かないからなァ。
まぁ声が届いたとして、或斗が考えを改めることはないだろうが。
「ミタカラヒメぇ、これはゲームだ!俺とお前が選んだガキ共によるゲェ〜〜ムゥ〜〜!簡単なことだ!何もしなくていい!ただ盤面の駒を眺めてるだけでいいんだよ!!最高じゃねェかァ!!楽しめェ!!」
「………ムシバミ」
せっかくこっちが盛り上げてやってるってのに、ミタカラヒメは暗い。
だが俺を呼ぶその声は、水底みてェに低く、冷たかった。
「報いは……ありますよ…」
「クッ…ハハ!!そりゃあ楽しみだなァ」
まさかこの俺が、ここから陥れられるとでも言いたいのか。
どうなったらそうなっちまうのか、逆に教えてほしいものだ。
さて、昨日で全ての駒が出揃った。
或斗。
それから由希。
このゲーム、ここからが本番だ。
精々楽しませてくれよ。
2人の“神”が、直々に見てやってんだからなァ。




