↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

#30 鎮火/注がれる愛

Side:Honoka


「皆さん!」

 青い巫女のような姿の海さんが、弓を片手に戻ってきた。

 消火とマッチ怪人達の討伐が終わったみたいだ。

「海!」

 ルルが海さんを出迎える。

「ご無事ですか!?……って、あら?」

 皆の前で海さんは足を止め、キョトンとしている。

 それはそうだ。

 さっきと状況が違い過ぎる。

「怪人と黒部さんはどこへ…。あら?由希さん変身が……。えっ…?もしかしてあなたは、麻由美さん?」

「海先輩遅〜い。もう全部終わったよ?」

「そうなのですか!?」

 事の決着を檸檬から教えられて、海さんは驚く。

「あはは…」

 由希は苦笑いして、右頬を掻いていた。

 その横で、腕を組んだ村崎さんが溜息を吐く。

「狼と車みたいな奴は倒しておいたわ。黒部には逃げられたけど」

「そうだったのですね。……麻由美さん、今回が初陣なのですよね?何というご活躍……」

「力の使い方は概ね理解したわ」

「むぅ〜!遅れて来たくせに偉そうに!」

「それは悪かったって言ってるでしょう?」

 頬を膨らませて文句を言う檸檬。

 村崎さんはそれをあっさり受け流した。

「……」

 そんな村崎さんを、由希は何とも言えない顔で見つめていた。

 村崎さんの戦闘は凄まじかった。

 土や石、アスファルトを、まるで自身の手足のように自在に操っていた。

 その上、銃も百発百中と言っていいほどの腕前。

 事前に練習したとは言っていたけど、本当に今日が初陣とは思えない。

 私達の中で強さに順位を付けるなら、1位は海さんだろう。

 だけど村崎さんの実力なら、海さんと張り合えるんじゃないか。

 少なくとも、私はそう思う。

 でも由希が気にしてるのは、多分村崎さんの強さじゃない。

「あの…ところで、翠さんは?」

 海さんが、この場に居ない仲間の姿を探す。

 そこへ由希が、咄嗟に手を挙げた。

「あっ…周道さんは、戦ってる時に負傷してしまったので、あそこに避難させてます……」

 由希が指差すのは、建物の屋上。

 翠さんはそこで休んでいるようだ。

「由希さん……ありがとうございます」

「いっ…いえ!周道さんが怪我をしたの、私のせいなんです。私が、油断したから…」

「由希さん」

 海さんが由希に近づく。

 そして由希の両手を、自身の両手で優しく包みこんだ。

「……それでも、翠さんを守ってくれたこと、本当に感謝しています」

「御子柴さん……」

「改めて、本当にありがとうございます。それでは、早速お迎えに行ってきますね」

 海さんは由希から手を離すと、翠さんが居る建物に向かって軽く駆け出す。

 ジャンプすると同時に、体の周りに冷気の渦が生まれる。

 その渦が海さんをふわりと浮かせ、あっという間に屋上まで連れて行った。

 由希はその光景を、呆然と眺めていた。

「由希」

 村崎さんが、由希を抱きしめた。

「マユ…ちゃん…?」

「痛かったでしょ?苦しかったでしょ?けど、よく頑張ったわね。間に合って良かった」

 村崎さんの声は、さっきまでと比べて穏やかだった。

 左手で、由希の頭をゆっくり撫でる。

 この2人は仲が良い。

 私が知らないだけで、多分これもじゃれ合いの一環なのだろう。

「マ、ユ、ちゃん!」

 黙って撫でられていた由希が、村崎さんを押し剥がした。

 頬を紅くして、口を窄めている。

 私には解る。ていうか、久々に見た。

 これ、恥ずかしい時の顔だ。

 それに対して、村崎さんは微笑む。

「あら、恥ずかしかった?」

「むぅ…。えっと、マユちゃん。助けてくれてありがとう。マユちゃんが来てくれなかったら、ダメだったかも……」

 由希は村崎さんにお礼を言う。

 檸檬や翠さんが居ながら、ここまで言わせるなんて…。

 黒部或斗…。

 私達が倒すべき相手。

 だけど私達が知らないところで、パワーアップしているみたいだ。

「いいのよ。由希が無事なら」

「……でも」

 いつもだったらお礼を言って、それで終わりだ。

 だけど由希は、村崎さんに対して異を唱えた。

「私は……黒部君を止めたい。だけど、死んでほしい訳じゃないの。それに、マユちゃんにも人殺しになってほしくない」

 最後村崎さんが生み出した土石の竜。

 それは狼怪人ヴォルフを呑み込み、消滅させた。

 けれど竜は元々、黒部を含めて呑み込もうとしていた。

 ヴォルフが庇ったから、黒部は逃げられた。

 竜を構成する土や石。

 人間の命を奪うには、充分過ぎる質量。

 下手すれば黒部は、あのまま死んでいてもおかしくなかったんだ。

「……ごめんなさい。由希」

 村崎さんは申し訳無さそうに笑い、由希の肩に手を置いた。

「あなたをボロボロにされたのが、赦せなかったの。冷静じゃなかったわ」

「マユちゃん……」

「私のことまで気にかけてくれるなんて、本当に優しいわね。次からは、もうちょっと手加減するわ。少し痛い目見てもらうことになるでしょうけど」

「おっ…お手柔らかに……ね?」

 2人のやり取りが、学校でよく見るものに戻った。

 ひとまずこれで良かったのかな。

 檸檬はムスッてしてるけど…。

「ッ!」

 その時、村崎さんの目が鋭く光った。

 一瞬で銃を出し、由希の背後に向かって2発撃った。

「へ?」

「えっ…?」

「はぁ!?」

 私達は村崎さんが撃った方に注目する。

 建物の上の方から、2つの小さな何かが落ちてきた。

 私達はそれに近づく。

 アスファルトの上に転がっていたのは、顔が監視カメラになっている、尻尾が無いヤモリのような生き物。

 弾丸が体を貫いていて、黒い煙が上がっている。

「まさか…これも黒部の…?」

「何かありましたか!?」

 私が呟いた時、海さんがこちらに走ってきた。

 変身を解いた翠さんを背負っている。

 その時村崎さんが、カメラヤモリを掴み上げた。

「……なるほど。コイツら、あなた達を監視するために作られたようね」

「えっ…?」

「監視!?」

「なんですって!?」

 私達は驚愕する。

 監視ってことは、今までの行動は全部黒部に筒抜けだったってこと?

「あなた達、私が加える前から怪人を倒してきたんでしょう?その隙に付けられたんじゃない?」

「きっ、気づかなかったル……」

 ルルもまた驚いている。

 ルルは怪人の気配や負の感情の流れを読み取ることができる。

 そんなルルでも気づけなかったなんて…。

 私達が言葉を失っている間に、村崎さんの手からカメラヤモリが完全に消え去った。

「怪人を作れるとは言え、あいつは1人だもの。人数不利だからこそ、あなた達の情報が少しでも欲しかったのでしょうね。1人1体付けるくらいには」

 そう言って村崎さんが、さらに3発分引き金を引いた。

 そして3匹のカメラヤモリが撃ち落とされる。

「これでもう監視の心配は無いわね」

 村崎さんは銃を下ろす。

 もう監視の心配は無い…とは言われたけど、逆にどこまで見られていたのだろう。

 もしかして、私と父との関係も筒抜けだったのか。

 そう考えた瞬間、私の背中を冷たい汗が伝った。

「……村崎さん、本当にありがとうございます」

 私達の沈黙を破るように、海さんが切り出す。

「今日はもう帰りましょう。黒部さんも怪人も居なくなりました。あとは大人の人達に任せましょう」

 海さんはそう締めくくる。

 確かに、これ以上やれることは無い。

 最後が衝撃的だったものの、この日はこれで解散になった。




Side:Mayumi


 お風呂上がり。

 キャミソールを身に纏った私は、自室のベッドに寝転がった。

 鼻唄を歌いながら、スマホでネットサーフィンをする。

 今は気分が良い。

 何もかもが、上手くいったのだから。

 貰ったコンパクトの中に埋め込まれた紫の宝石、アメジスト。

 それに触れることで、私は変身。

 ゴスロリ風のドレスを身に纏う。

 そして土や石…というか、大地そのものを操ることができるようになる。

 とはいえ、具体的な戦い方も知らずに実戦に挑むのは、愚の骨頂。

 だからこそ、力の使い方を探求した。

 深夜に外に出て、人気が無いところで練習してみることもあった。

 寝不足気味になったけど、おかげで力を自在に使えるようになれた。

 そして今日、繁華街で怪人が暴れているという報せが入ってきた。

 私もすぐに現場へ向かった。

 早速変身して、燃える繁華街へ侵入する。

 そして戦地に着くと、私は敢えて身を隠した。

 黒部達に追い詰められて、ボロボロの由希。

 そこへ真辺さん達が加勢に入った。

 だけど私はそこへ加わらなかった。

 事は進んで、真辺と御子柴が火消しに向かう。

 そして由希に、国仲と周道が残った。

 国仲は頑張っていたけど、周道はすぐに戦闘不能になった。

 本当、使えない。

 周道がやられたせいで、由希がさらに追い込まれる。

 だけどあの娘は折れなかった。

 翼を生やし、周道とか言う木偶の坊を避難させ、反撃に出た。

 だけど逃げ遅れた奴が居て、由希はそいつを庇って捕まった。

 出るならここだと思った。

 私は物陰から出てきて、発砲。

 その後存分に力を振るって大逆転。

 国仲が削ってたとはいえ、怪人2体を倒し、元凶である黒部を退けた。

 戦果としては上々だろう。

「フフッ…」

 つい口元が緩んでしまう。

 私の頭の中には、いつも由希が居る。

 今日はごめんなさい、由希。

 本当だったら、もっと早く助けるべきだったわね。

 けど絶望的な状況で出てきた方が、あなたはより私を見てくれるでしょう?

 それに、満身創痍になりながらも立ち向かう由希、健気で可愛かった……。

 私はスマホを操作して、とあるアプリをタップする。

 画面にとある映像が映し出された。

 それは、ベッドに座ってルルと会話をする由希。

 部屋着姿が可愛い。

「今日は桜色なのね。昨日の菫色も良かったけど、由希には淡いのが似合うわねぇ」

 笑顔で話す由希を、私は堪能する。

 誕生日にプレゼントした、白猫のぬいぐるみ。

 由希は喜んで、それを机に置いてくれている。

 そのぬいぐるみの片目は、カメラになっている。

 私はそのカメラを通して、由希を見ているのだ。

 本当に…ずっと由希のことを見ていた。

 だから由希が変身できることも、ルルの存在も、全部知っていた。

 まさかその秘密を明かして、私を仲間に入れてくれるとは思わなかったけど。

「はぁ…。由希。本当に可愛い」

 私は由希が好きだ。

 友愛ではなく、恋愛。

 ていうか、性愛…。

 由希は私のことを友達としか思っていないようだけど、私自身、いつかはそういうことをしてみたいと思っている。

 由希の顔が好き。

 神の最高傑作と言っても過言じゃないくらいの整い具合だ。

 本人は感情豊かで、その綺麗な顔で色んな表情を見せてくれる。

 それに、頬を触ったらもちっとしている。

 それこそ、いつまでも触っていられるくらいに。

 黒い髪も、艶があって美しい。

 一度ヘアアレンジで触らせてくれたけど、羽根のように軽かった。

 由希の体が好き。

 私より背が低くて、華奢な体。

 肌は薄くて、色白。

 狭い肩に、細い手足。

 強く握ったら、そのままボロボロと崩れてしまいそうな脆さがある。

 そんな弱そうな見た目に反して、抱き心地は良い。

 柔らかくて、きめ細やかで、うっすら甘い香りがする。

 けれどあの娘は、自分の魅力に気づいてない。

 それでいて距離が近いから、時折理性を失いそうになってしまう。

 そう意味では、あの娘は魔性だ。

 由希の中身が好き。

 外面的な部分も魅力的だけど、内面も満点だ。

 さっきの戦闘でも、わざと遅れてきた私のことを気にかけてくれていた。

 底なしの優しさが、あらゆる人間を夢中にさせるのだ。

 事実、あの娘の交友関係は広い。

 同級生は勿論、1年の後輩達に慕われていて、3年の先輩方からも一目置かれている。

 当の本人も、学校の生徒全員の名前を覚えようとする徹底ぶり。

 見た目の良さに胡座をかかず、努力もできる。

 最も、あの娘はそれを努力とは思っていないのだけど…。

 中学に上がってすぐに由希と出会い、私はあっという間に虜になった。

 由希の全てに惚れた。

 由希の全てが知りたくなった。

 由希の全てが、欲しくなった。

 好物、趣味、誕生日、将来の夢、特技、得意科目、家族構成、身長、体重、血液型、etc…。

 私は由希のありとあらゆるものを調べ上げた。

 自分の好みや趣味も、全て由希に合わせた。

 その結果、私は親友というポジションにまで上り詰めたのだ。

 由希と同じように、私も努力したんだ。

 だけど、由希の視線をずっと集めている奴が居る。

 真辺穂香。

 由希とは小学校の時からの付き合いらしい。

 中学では常に1人で行動していて、周囲には誰も居ない。

 けれど由希曰く、今の自分があるのは真辺のおかげなのだという。

 小学校低学年の頃の由希は、人見知りで、クラスでも馴染めずにいた。

 だけど真辺は由希の手を引いて、いつも遊びに誘ってくれたらしい。

 由希が人見知りで、真辺がフレンドリー。

 今となっては考えられない。

 しかし、ある日を境に2人の関係に溝が生まれる。

 真辺が一方的に、由希から距離を取ったのだ。

 自分で手を引いておいて、いきなり離す。

 そんな身勝手な扱いをされたにも関わらず、由希は真辺を想い続けた。

 そして現在、2人の仲は元通りとなった。

 真辺穂香…。

 この女の存在は邪魔でしかない。

 コイツが居る限り、由希はずっと私を見てくれない。

 腹が立つけど、真辺は由希の人生に良い影響を及ぼした。

 それにコイツは小学生の頃の、私が知らない由希を知っている。

 いくら努力しても覆せないものが、2人の間にはあるのだ。

 だけど、一度由希を捨てた奴に負ける気はない。

 由希への愛は、私の方が大きいのだから。

「誰にも、奪わせない」

 画面の向こうで微笑む由希を眺めながら、私はそう意気込むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。