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#33 電光/カウンター

Side:Remon


 来た来た来た。

 体全体がビリビリくる感じ。

 なんでかこれが癖になる。

 身が引き締まって、頭がクリアになるんだ。

 戦ってる時だけ、何も考えなくていい。

 まぁ目の前の黒部は放っておくと何するか解らないから、あんまり長引かせるべきじゃないんだけど。

 現に今も、こっちに掌を向けている。

 どうせあの黒い玉でしょ。

 そんなのもう当たらないっての。

 前傾姿勢になって、仕留めに行こうとした。

 だけどその時、檸檬の体が浮いた。

「えっ?」

 望んでもないのに、体が勝手に黒部の方へ向かう。

 操られてるとかじゃない。

 これ、吸われてる。

 身に纏った電気ごと…。

 よく見たら、黒部の掌に黒い渦みたいなのが発生していた。

 そこへ電気が吸い込まれていってる。

 渦に向って、檸檬も吸引される。

 そして渦が発生してる手で、胸を鷲掴みにされた。

「いぎっ―――!!」

「ふ〜ん。お前あんまり胸無いんだね。男と変わらないじゃん」

「こっ……のぉ!!!」

 顔が沸騰しそうになる。

 勝手に触っといて何言ってんだこの変態。

 振りほどこうと暴れるけど、体が離れない。

 電気を出しても吸われちゃう。

「あぁ、ごめんごめん。離してほしいんだね。いいよ」

 そう言った黒部の、檸檬を掴む手の渦が大きくなる。

 さらに電気まで発生している。

「えっ…えっ?」

「離してあげるね」

 その途端、黒い雷と共に、もの凄い衝撃が身体全体を駆け巡った。

「うっ…がぁぁああああああアアアアアアアア!!!」

 激しい鈍痛と、焼けるような痛みに襲われる。

 何が起こったのか解らない。

 気づいたら、閉ざされた金属製のドアに叩きつけられていた。

「ガッ…ハッ……!!」

 ドアを凹ませながら、床に顔から崩れ落ちる。

「ぎゃぁあああああ!!!痛い痛い痛いぃい!!!あがぁぁアァアアアアアア!!!」

 激痛が全身を巡る。

 耐えられなくて、床をゴロゴロ転がりまくった。

 こんな攻撃、今まで食らったことがない。

 チャイナ服が破けて、肌が焼けただれてる。

 あの燃えるような熱さと、痺れる程の衝撃…。

 まるで、檸檬の雷…。

「あっれ〜?もう終わり?以外と呆気ないね」

 渦を発生させながら、黒部が近づいてくる。

 もう終わりかって…?

 冗談じゃない。

 あのニヤけ面を歪ませずに終われない。

 めちゃめちゃキツいけど、どうにか立ち上がる。

「なんだ立つんだ。勝ち目なんて無いのに」

「おっ……まえ…。なっ…にし…たっ……?」

 口まで痺れて、上手く喋れなかった。

 途切れ途切れの、掠れた声しか出ない。

「あぁこれ?僕の新しい力だよ」

 黒部は渦を出してる手を見てそう言った。

「ブラックホール。あらゆるものを吸い込む力だよ。と言っても手のひらサイズだからお前とか吸い込めないけど、電気ならいけるね。しかもこの力、吸い込んだものに闇のエネルギーを付与して放出できるんだよ。お前をメタるのに良い能力だね」

 放出…。

 闇の力を付与。

 さっき食らったのは、闇の力付きの電気。

 檸檬には電気が効かないのに、全部闇のせいだったんだ。

「で、どうする?降参するなら許してやってもいいけど」

「調子…乗んな……!!この…陰キャがァ!!」

 ここで降参とかありえない。

 電気が吸われるなら、出さずに戦えばいい。

 変身してたら、ただのパンチやキックでも強い。

「はぁああああああああ!!!」

 痛みを我慢して、黒部に向かって殴り掛かる。

 それでもこのキモ男は、余裕そうに笑ってる。

「電気が使えないなら普通の肉弾戦。単純な頭してるねぇ。じゃあ、頼むよ」

 黒部がそう言うと、頭上から何かが飛び出した。

 四角い縦長のそれは、黒部の前にドシンと着地した。

 それは丁度、檸檬がパンチするタイミングだった。

“ガキン!!!”

「いぐっ…!!」

 何これ、メチャクチャ固い。

 拳にひび入ったかも…。

 怯んだ瞬間、縦長の壁が急接近してきた。

「へぶっ!!!」

 それが顔に思いっ切りぶつかる。

 そしてまた吹き飛ばされた。

 鼻血が蛇口みたいに出てくる。

 鼻筋に触れると、体が強張るくらいの痛みが走った。

 完全に折れてる…。

「頼んだよ。フロズン」

 黒部がフロズンと呼ぶそいつは、手足が生えた縦長の冷蔵庫だった。

 檸檬の鼻を折ったのは、フロズンの扉だったんだ。

「そいつ、潰しちゃえ」

 黒部がそう指示すると、フロズンの扉がまた開く。

 そこから、突風が巻き起こった。

「うっ……冷っ…たっ…!」

 ただの風じゃなかった。

 冷気を纏ってる。

 まるで吹雪。

 猛吹雪が、檸檬目掛けて吹き荒れる。

「ぐっ……寒…い……!!」

 さっきのダメージもあって、逃げられない。

 檸檬ができるのは、精々自分の体を抱き締めて、凍るような寒さ耐えるだけ。

 息も吸えない。

 吸ったら肺に冷気が入って、余計苦しくなる。

 この極寒の中を、無呼吸が過ごすことになるなんて…。

 体が勝手に硬くなる。

 もう全身霜だらけ。

 寒い…寒い…。

 寒すぎて、肌の感覚が無い。

 黒部はこのまま、檸檬を凍死させるつもりなのか。

 そう思った途端、急に吹雪が止んだ。

 さっきまで雪山みたいだったのに、突然現実に戻される。

 フロズンは何故か、扉を閉めていた。

 吹雪が止んで気温は戻ったけど、まだ動けない。

 その隙にフロズンが独楽みたいに回って、急接近してくる。

 そして檸檬を、弾き飛ばした。

「がァッ______!!!」

 そのまま壁に叩きつけられて、前のめりに倒れる。

 体が重い。

 霞む視界に映ったのは、こっちを卑しく見つめる黒部の姿だった。

「ホントは普通に倒せるんだけどさぁ、それじゃあつまらないじゃん。お前調子乗ってるし、心を折ってからにしようと思ってね」

 芝居がかった感じで、黒部はそう言った。

 その姿に、檸檬は寧ろ希望を見出した。

 コイツ今、渦を出してない。

 調子乗ってるのもあると思うけど、多分、フロズンの吹雪を途切れさせないためだ。

 黒部の渦、吸い込むのは檸檬の電気だけじゃないんだ。

 渦が出てない今なら、電気が通る。

 檸檬は震える指で銃の形を作る。

 人差し指に、電気を溜めた。

「……死ねっ」

 必殺の願いと一緒に、電気の弾丸を放つ。

 それは簡単に黒部に命中した。

「ぐがっ______!!!」

 流石にこれは予想外だったのだろう。

 黒部はお腹を抑えて、蹲った。

 お腹を中心に、全身に電気が流れ渡っているのだろう。

 心臓だったら良かったけど、この霞む視界と震える指で狙うのは無理だ。

 追撃を放とうとしたところで、フロズンが迫ってきた。

 そのまま体全体をぶつけてくる。

 フロズンと壁で、サンドイッチ状態にされた。

「うっ…くっ……!!こんのぉ!!」

 このままつぶされるなんて嫌だ。

 圧力に耐えながらも、体に電気を溜める。

 そして一気に、解き放った。

 ゼロ距離の雷撃。

 これは効いたでしょ。

 事実、フロズンが煙を上げて、横に倒れる。

 その隙に脱出した。

「黒部ぇええええええええええええ!!!」

 最後の力を振り絞って、黒部目掛けて突進する。

 このまま直接感電死させてやる。

 体中に電気を纏った。

 あとは黒部に触れるだけ。

 ホントに、ただそれだけだったんだ。

 なのに…。

“バチン!!!”

 あと一歩で届くってところで、背中に弾けるような衝撃が生まれた。

「オ”ッ_____!!!」

 勢いよく、前のめりに倒される。

 ほぼ同時に、お腹に何かが巻き付いた。

 そしてロケットみたいな勢いで、体が飛び上がる。

 その結果、天井に叩きつけられた。

「ゲボッ…!!!」

 口から血が飛び出てきた。

 お腹に巻き付いたそれが離れて、崩れる瓦礫と一緒に落ちる。

 スローに見えるこの瞬間、檸檬をこんな目に合わせる犯人が見えた。

 それはまさに、輪ゴムで作られた人。

 そうとしか言えなかった。

 だって顔も手脚も胴体も、全部輪ゴムでできてるんだから。

(怪…人……?)

 なすすべも無く、床に叩きつけられる。

 体が上手く動かない。

 それでも恐る恐る、顔を上げる。

 見えたのは輪ゴム人間と、余裕が無くなった黒部だった。

「このクソアマァ!!よくもやりやがったなァ!!」

 痺れと怒りで、わなわなと震えてる。

 ははっ、ザマァないわ。

「スリンガー!!やっちまえ!!」

 黒部がそう言ったら、スリンガーって呼ばれた輪ゴム怪人が動き出した。

 輪っかみたいな伸びる手で、また檸檬を捕まえる。

 そして、もの凄いスピードで振り回し始めた。

「ッ________!!!」

 体全体に強烈な負荷。

 壁や床、天井に何度も叩きつけられる。

 景色が変わるのが早すぎて、何が起きてるか解らない。

 ただ肉が弾けて、骨が砕ける感触が伝わってくる。

 触れられてるなら感電させられるけど、コイツはゴムだ。

 電気なんて効かないだろう。

 そもそも電気を出す余裕なんて、もう無かった。

 ホントにもう、限界だったから。

「うべっ_______!!!」

 廃工場の謎の機械に、背中から打ちつけられる。

 そしてスリンガー自身が縄になって、檸檬をその機械ごと縛り付けた。

「ぐっ…あぁ!!!」

 全く動けない。

 ていうか、お腹、苦しい。

 内臓が口から飛び出そう。

 手足を動かせないまま、ただ酸素を求めることしかできない。

「はぁ…はぁ……。手間取らせやがって…」

 目の前に黒部が近づいてきた。

 苛立った顔で、黒いバットを握ってる。

 これから何が起こるか、想像するのは簡単だった。

「これで終わりだ!!黄色女ァ!!」

「やっ…やめっ……。もう……」

 必死に限界を訴えたけど、無駄だった。

 黒部のバットが、頭に振り下ろされる。

 脳が大きく揺れるくらいの衝撃。

 それっきり、何も解らなくなった。

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