#28 チート/隙
Side:Aruto
黄色女こと、国仲檸檬に蹴り飛ばされた僕は、バットで体を支え、なんとか立ち上がる。
未だ身体に痺れが残っている。
蹴られたと同時に電気が流れてきた。
受け止められると思ったけど、あれに防御は関係ないらしい。
国仲檸檬、油断できないな。
とはいっても、姫路さんと周道は倒れたから、残りは国仲ただ1人。
こっちにはまだヴォルフと、車の眷属ドライブが残っている。
3人掛かりなら、流石に勝てる。
真辺と御子柴が戻ってくる前にやってしまうか。
そう思って、戻ってきた時だった。
「はっ……?」
僕は予想外の光景を目の当たりにする。
なんと倒れていた筈の姫路さんが、立ち上がっていたんだ。
建物に叩きつけて、ヴォルフに切り裂かれて、首を掴まれた状態で腹を何発も殴られていたのに…。
あの傷で立つことすら驚きだが、それだけじゃない。
姫路さんの両肩から、天使のような翼が生えていたんだ。
翼自体は純白で綺麗なのに、その持ち主は血だるまになっている。
何ともミスマッチだ。
そんな姫路さんと僕に挟まれるように、ヴォルフとドライブ、それから国仲が立ち尽くしている。
「由希先輩その羽…!っていうか、大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ、国仲さん。1人にさせちゃってごめんね」
全身を赤に染めた姫路さんは、申し訳無さそうに笑っていた。
あの身体で、なんであんな顔ができるんだよ。
痛すぎて痛覚飛んじまってるのか…?
姫路さんの翼が、大きくはためく。
「でも…ちょっときついかも…」
「あんま無理しない方がいいって!檸檬1人でも…」
「私が隙を作る。国仲さんはそこを突いて」
国仲に対して一方的にそう言うと、姫路さんは飛び上がった。
徐々に高度を上げていく。
道路を取り囲む建物の屋上くらいの高さまで行くと、前へと羽ばたいた。
同時に、姫路さんの体の周りに、複数の白い光の玉が現れる。
僕はそれを知っている。
「ヴォルフ!ドライブ!備えろ!」
これは止めようがない。僕は眷属達に命令する。
そして次の瞬間、全ての白玉から光線が放たれた。
ヴォルフとドライブに向かって飛んでいく。
僕の足元にも飛んできて、思わず尻もちを着いた。
ヴォルフだって、一度この光線を見ている。
ギリギリながら躱していた。
姫路さんが地上に居たなら、掻い潜って止められるだろうが、今回は上空から一方的に放たれている。
なんだよこれ。チートだろ。
ヴォルフはいいとして、体が大きいドライブは躱しきれていない。
マシンの体に、光線が次々と当たり、爆発する。
コイツは国仲にもたくさん蹴られてるんだ。
鉄の部分が凹んだり、黒焦げになったりしている。
やっぱり痛いのか、歯を噛み締めている。
どうにかこの状況を覆したいと思っていたが、光線は長くは続かなかった。
姫路さんも流石に限界なのか、光線の雨はすぐに止んだ。
よし、今のうちに反撃…。
そう思った時だった。
「そりゃあ〜〜〜〜!!!」
国仲がヴォルフの胴体に、蹴りを叩き込んだ。
ヴォルフは吹っ飛び、隣の建物に激突した。
「由希先輩ヤバすぎでしょ!!はい次〜〜!!」
国仲はドライブにも飛び掛かる。
ドライブは何もできない。
防戦一方だ。
その隙を見て、姫路さんが下まで降りてきていた。
周道を抱きかかえると、再び上昇していく。
そして、建物の屋上に降り立った。
「ケホッケホッ…。……周道さん、ここで、休んでいてください…」
「うっ…うぅ……」
姫路さんは咳き込みながら、周道を寝かせた。
その間も周道は、啜り泣いていた。
姫路さんの方が歳下で、ボロボロなのに、情けない奴…。
その姫路さんはふらつきながらも、剣を手元に呼び戻す。
それから再び飛び上がった。
目線の先に居るのは、ドライブ。
姫路さんはドライブ目掛けて急降下した。
国仲が戦ってる間を縫って、剣で斬りつける。
威力は落ちてるが、隙を作るには十分だった。
ドライブが姫路さんに気を取られた隙に、国仲が顔面を蹴る。
その隙に姫路さんが白玉を出す。
追撃の光線を放った。
全弾命中して、ドライブがバランスを崩す。
そしてまた国仲が電撃キックを入れる。
ドライブのレベルは20。故に、それなりに頑丈にできている。
だが、攻撃を食らい続けてもうボロボロだ。
おそらく、限界が近い。
僕はヴォルフが吹っ飛んだ方に目を向ける。
ヴォルフはもう、建物から出てきていた。
体に掛かった砂埃を軽く払ってはいるが、コイツもボロボロだ。
しょうがない。そろそろ使うか。
僕はスマホで、あいつに電話を掛ける。
「行け」
僕はその一言だけ伝えると、電話を切った。
Side:Yuki
「はぁ……はぁ……」
息が絶え絶えになりながらも、私は車の怪人に攻撃を続ける。
この身体じゃ大したダメージになってないと思うけど、飛び回って隙を作れるならいい。
国仲さんが安全に攻撃できるなら…。
私は飛び回って、光線を当て続ける。
それにしても、この翼凄い。
私が思う通りに動かせる。
まるで初めから、私の背中に生えていたかのように。
ていうかこの翼、願ったら生えてきた…。
これもムーンストーンの力なのかな。
…車の怪人、思ったより頑丈だけど、このままいけば押し切れる。
私はまた白い玉を展開して、光線を放とうとした。
でもその時…。
「きゃぁあああああああああああ!!!」
聞き覚えのない悲鳴が聞こえた。
私はその方向を見る。
1人の女の子が、尻もちを付いていた。
歳は多分、私達と同じくらい。
先端を白く染めた髪の毛を、短いツインテールにしている。
ピンクを基調にした地雷系の服装に、リュックを背負っていた。
もしかして、逃げ遅れた?
女の子は私達の戦いを見て、腰を抜かしてしまったようだ。
そしてその子に、ヴォルフが襲い掛かろうとしていた。
「危ない!」
私の体はもう動いていた。
ヴォルフの爪が女の子に届く前に、私は剣を振るう。
そしてヴォルフの爪を、受け止めた。
「ぐっ……!!」
止めた瞬間、身体中に痛みが走った。
それに、ヴォルフの力が強すぎる。
抑えきれない…。
「早く、逃げてぇ!!」
私は後ろを振り返り、女の子に向かって叫んだ。
「あっ…あぁ……!!ありがとうございます!!」
女の子はお礼を言うと、繁華街の入り口の方へ走っていった。
(よかった…)
ほっとしたのも束の間…。
私はヴォルフに、お腹を蹴られた。
「カハッ……!!」
一瞬息が止まる。
私の身体は、あまりにも簡単に飛ばされた。
地面の上に、仰向けになって倒れる。
まだ倒れてられない。
私はどうにか起き上がろうとした。
だけどその前に、ヴォルフの足が私のお腹を踏んづけた。
「う”あ”っ_____!!!」
内臓を圧迫されてる感覚が、伝わってくる。
身体が痙攣して、上手く息が吸えない。
目を見開いて、口をパクパクさせることしかできない。
ヴォルフが身を屈めてきた。
するとお腹へ、さらに体重が掛かってくる。
潰れる…。
内臓が、潰れちゃう…。
そんな苦痛なんて知らないと言わんばかりに、ヴォルフは私の首元に鋭い爪を当てた。
「由希先輩っ!!」
国仲さんが攻撃を中断して、私に駆け寄ろうとした。
だけどそこへ、黒い玉が飛んでくる。
国仲さんはそれを、両腕で受けた。
そして爆発。
国仲さんは道路を滑るようにして、転がった。
「おい黄色女ぁ。遊びは終わりだ」
黒い玉を放った黒部君が、悪そうに笑いながらそう言った。
国仲さんは、黒部君を睨みつける。
「イキんな!!雑魚のくせに!!」
「おっとそんな口聞いていいのかなぁ?妙なことしたら、姫路さんの細〜い首に、ヴォルフの太い爪を突き刺しちゃうよ〜?」
「ッ…!!」
国仲さんは、歯をギリッと噛みしめた。
私は、人質にされてしまったんだ…。
ヴォルフの爪の先端が僅かに首に当たって、ぷっくりと血の玉ができる。
「きみ達どれだけ怪我しても、変身解いたら元通りだよねぇ?じゃあこの姿で死んじゃったらどうなるのかなぁ?やっぱ生き返るのぉ?」
「お前……!!」
国仲さんの顔が、怒りで歪む。
私達は、変身する前と後で、身体を入れ替えている。
変身した状態でどれだけ大怪我をしても、変身を解いたら元通りだ。
だからって、全然平気って訳じゃない。
現に今も身体中が痛いし…。
じゃあ、この身体で死んだらどうなるんだろう。
死んでムーンストーンに触れたら、やっぱり生き返るのかな…。
黒部君と同じように、私もその辺は気になる。
試す気にはなれないけど…。
「ぶっ殺してやる!!」
「だ・か・ら〜。そしたら姫路さんも死んじゃうって〜。頭鶏以下なの?無駄なこと言ってないでさぁ、まずは変身解い____」
“パン_____!!!”
黒部君が喋ってる途中、突然何かが弾けたような音が響いた。
皆が一瞬、動きを止める。
何事かと思って、私も顔を上げた。
その途端、私を踏んでいたヴォルフが足を離した。
横腹を押さえて、蹌踉めいている。
その手の間から、黒い液体が漏れていた。
もしかして、ヴォルフの血?
「ごめんなさい。遅くなったわ」
凛とした声が、耳に入ってきた。
この声、ほぼ毎日聞いている。
ゆっくりと身体を起こして、声の主に視線を向けた。
私達が居る方に、1人の綺麗な女の子歩いてくる。
ウェーブが掛かった、肩くらいの長さの、菫色の髪。
紫を基調とした、ノースリーブのゴスロリ風のドレス。
首元に付いている菱型の宝石や腰に、桃色のリボンが付いていて、ドレスの所々に同じ色のヒラヒラが付いている。
黒くて長いソックスと、菫色のブーツ。
そして頭に紫色の薔薇が付いたベールを被っていて、ちょっとだけ花嫁のように見える。
黒く薄い手袋をはめた手に握られているのは、拳銃。
濃い紫色に光るその銃には、薔薇や鎖等が描かれていた。
あまりにも浮世離れした姿…。
だけどこの子のことを、私はよく知っている。
「あとは私に任せなさい」
マユちゃんはそう言って、拳銃を怪人達に向けた。




