#27 魔法陣/翼
Side:Honoka
私は建物に付いている火を、刀で吸収しながら走っていた。
眼前に居るのは、くねくねしながら逃げ行くマッチ怪人達。
私は炎を帯びた刀で、奴らを斬り裂く。
真っ二つになった奴らは、黒い煙になって消えた。
1体1体は大したことはない。
だけど、今確認しても、目の前に10体くらいは居る。
それも、各々デタラメに走り回っている。
数が多い上に、まとまりがない。
弱い分必要コストは低めなんだろうけど、いったいどれだけ作ったのだろう。
繁華街の外に出られたら厄介だ。
絶対に全部倒さないと。
私はマッチ怪人を追いかけ、次々と斬り捨てる。
その間思い浮かぶのは、一緒に戦っている仲間達の顔。
海さんは私と同じく、消火とマッチ怪人の殲滅に乗り出している。
あの人は氷の力を使う。
それでいて強いから、全くもって問題ない。
心配なのは、由希だ。
相手にしているのは、黒部と、車みたいなデカい怪人。
あの怪人、今まで戦ってきた奴らに比べて、明らかに強そうだった。
由希だって強い。
この前の、学校での戦いで、それは思い知らされた。
だけど私達が駆けつけた時点で、既に血塗れだった。
あの子は大丈夫だって言ってたけど、あのボロボロの体で戦うのは、相当きつい筈。
けど、今は信じるしかないか…。
由希は1人じゃない。檸檬と翠さんも一緒だ。
今の私にできることは、マッチ怪人を一掃して、繁華街の火を消すこと。
一刻も早く終わらせて、由希達の元へ戻るんだ。
刀を握る手に力を込める。
目の前を走るマッチ怪人目掛けて、私は全力で飛び掛かった。
Side:Yuki
「ホント、なんでバットなのかなぁ」
黒部君が黒塗りのバットを手で叩きながら、不満げに呟く。
私は警戒を高めた。
一見ただのバットに見えても、何があるか解らない。
黒部君はポイントで、自分自身をレベルアップさせたと言っていた。
そのポイントは、多分、誰かを苦しませることで増えるのだと思う。
繁華街の人々を襲ったら、いっぱい貯まったとも言っていた。
怪人も、おそらくそのポイントで生み出してる。
そしてポイントを使って、黒部君も強くなっていた。
黒い球、触手、そしてバット。
以前の黒部君は、それらの物を出せなかった。
怪人に頼らなくても、黒部君は戦えるようになっていたんだ。
「まぁいいや。姫路さん!解らせてあげるよ!」
黒部君が、バットを担いで飛び出した。
(速い…!)
黒部君のあまりの速さに、私は驚かされる。
運動しているところはあまり見たことないけど、これ、陸上部の先輩より速いんじゃ…。
「ッ!!」
こうなったら迎え撃つしかない。
私もまた、駆け出した。
距離はすぐに縮まった。
私達は、武器を思いっ切りぶつけ合う。
「ほらぁあああああああ!!!」
「うっ…ぐ!」
剣とバットがぶつかり合って、激しい金属音が響き渡った。
その瞬間、体が悲鳴を上げる。
あまりの衝撃に、手に痺れが走った。
「あれれ〜?どうしたの姫路さん?」
傷のせいもあるけど、黒部君の力が、思ったより強い。
これ、ダメだ…。
押し切られる…。
「僕に勝つんじゃなかったのッ!?」
黒部君がバットを振り抜く。
私ごと、剣が弾かれた。
「うあっ…!」
私はなんとか踏み止まる。
だけど、体が…痛い……。
私は片膝を着いてしまった。
すると頭の上に、大きな影が掛かった。
急いで上を見る。
車の怪人が、私を殴り潰そうとしていた。
「ぐっ…!」
この体勢じゃ避けられない。
私は剣を構えて、防御の姿勢を取った。
だけど車の怪人の拳が、私に当たることはなかった。
「はいシュートォ!!」
後ろから、国仲さんが跳び上がる。
右足から、バチバチと電気が出ている。
その足で、国仲さんは車の怪人の顔を蹴った。
“バキン_____!!!”
凄い音を立てて、車の怪人が吹き飛ばされた。
キックの余韻で回転しながら、国仲さんは着地する。
「由希先輩、周り見えて無さすぎ!」
「ごっ、ごめん…」
「まぁいいや!あいつ檸檬がベコベコにするんでぇ、そっち任せましたよぉ〜?」
国仲さんは、いたずらっぽく笑いながらそう言った。
ヨロヨロと起き上がる車の怪人を指差している。
それは、助かるかも…。
国仲さんが車の怪人を止めてくれるなら、私は黒部君に集中できる。
「国仲さん、お願いね」
「はぁ〜い♪ちゃっちゃと終わらせてきま〜〜す」
気の抜けた返事をすると、国仲さんはもの凄い速さで車の怪人に向かっていった。
あのスピードだったら、やられない筈。
とにかく、車の怪人は国仲さんに任せよう。
「姫路さんさぁ、結局僕と1対1じゃん」
黒部君がゆっくり歩み寄ってきた。
車の怪人から離されたのが気に入らないのか、苛立った顔をしている。
「レベルアップした僕に、タイマンじゃ勝てないって!」
黒部君がまた突進してきた。
私ももう一度飛び出す。
力じゃ勝てないことは、さっきの衝突で解ってる。
だから力比べはしない。
私の剣は、羽みたいに軽い。
軽いから、速く振れる。だからスピードで勝負する。
私達は再びぶつかった。
ただ、バットは受けない。
ギリギリ見える。全部避ける。
そして隙を見て、斬るんだ。
「痛っ!くそっ…!!」
黒部君の体に、切り傷が入っていく。
大丈夫。この調子。ちょっと、体を削るだけ…。
このまま無力化する。
「このっ!ちょこまかと!…だったら!」
攻め立てていた黒部君が、いきなり後ろに跳んだ。
左手に、黒い塊が溜まっている。
「だったらこうだ!」
黒部君が作っていたのは、黒い球。
それを地面に叩きつけた。
「うっ……!」
黒い球が、目の前で爆発した。
煙が上がって、目の前が塞がれる。
まさか目隠しに使うなんて…。
マズい。どこから攻撃されるか解らない。
戸惑っていると、お腹に何かが巻きついてきた。
「えっ…!?」
また黒部君の触手に捕まったと思った。
だけど違った。これ、植物の蔓だ。
私の体は、後ろへ引っ張られる。
「だっ、大丈夫?」
そう声をかけてきたのは、周道さんだった。
周道さんの足元のアスファルトを突き破って、蔓が伸びていた。
私は地面に下ろされ、蔓が離れた。
「これ、周道さんが?」
「うっ、うん」
周道さんは何故か、自信無さげに頷く。
この人、植物を操れるんだ…。
「ありがとうございます!助かりました!」
「えっ…うっ…うん」
お礼を言うと、周道さんは控えめに微笑んだ。
周道さんが助けてくれなかったら、私は一方的に殴られていたと思う。
「ここだ!」
目の前の煙が、切り裂かれる。
バットを振り払った黒部君が出てきた。
「チッ、後ろに下がってたか。まぁいいや。どうせまた逃げるだけでしょ!」
私達がまともにぶつかり合えないと思っているのか、黒部君が攻め込んでくる。
後ろは壁だ。逃げられない。
私は迎え撃とうとする。
だけど先に、周道さんが前に出た。
持っている杖を突き出す。
すると、四葉のクローバーみたいな形の、光の壁が現れた。
“ガキン!”
黒部君が振り回したバットが、クローバーの壁に当たった。
壁はかなり頑丈みたいで、傷1つ入ってない。
「チッ、そういえばこういうのあったな!」
これ以上殴っても通じないと思ったのか、黒部君が後ろに下がった。
その瞬間、周道さんがクローバーの壁を消す。
杖を振ったのと同時に、地面の蔓が伸びた。
その蔓が、黒部君の身体に巻きついた。
「くそっ!なんだ!?」
蔓が黒部君を持ち上げる。
脱出するために暴れてるけど、振りほどけない。
見た感じだけど、黒部君が周道さんの拘束を抜け出せるイメージが湧かない。
これ、無力化できたんじゃ…。
「あっ…あなたは。絶対、抜け出せない!あっ、諦めて!」
周道さんがそう呼びかける。
やっぱりこの蔦、解くの難しいんだ。
できるだけ傷つけずに、黒部君を止める。私と周道さんの考えは一緒だ。
「うぅ!畜生!畜生ぉおおおおおお!!」
余程悔しかったのか、蔓に縛られたまま、黒部君が叫ぶ。
おそらく黒部君には、この状況を覆す手段はない。
これで勝負は決まった。
……と、思っていた。
「な〜んて」
「ッ!!」
黒部君の口角が、不気味に釣り上がる。
その左手を私達の方に向けていた。
見たところ、何も起こらない。
だけど黒部君のあの表情…。何かある。
(まさか!)
私が振り返ろうとした瞬間…。
“ザシュッ!!”
何かが裂ける音がした。
私より少し前に立っていた周道さんの背中から、血が噴き出る。
「ぎゃぁっ____!!」
周道さんが悲鳴を上げ、前のめりに倒れていく。
その間、私にはそれが、スローに見えた。
「えっ……」
周道さんが倒れたにも関わらず、私は間の抜けた声しか出せなかった。
恐る恐る、視線を隣に移す。
そこに立っていたのは、あの狼怪人…。
黒部君が、『ヴォルフ』って呼んでる怪人だった。
(いつから?いや、どこから…?)
呆然としている私の首を、ヴォルフが掴んだ。
そのまま持ち上げられる。
「あっ…はっ……!」
首が圧迫されて…。息が、できない。
「プッ、ププ。引っ掛かったねぇ姫路さん」
黒部君が口元を押さえ、小馬鹿にするように笑っている。
周道さんが倒れたことで、蔓が解けちゃったみたい。
逆に、私が捕まることになってしまった。
「何が起こったか解らないでしょ?姫路さん、あれ見てみなよ」
私は必死に酸素を取り入れながら、黒部君が指差す方を見る。
そこにあったのは、黒い魔法陣…。
アニメや映画でしか見たことないようなものが、ゆっくりと回転しながら浮かんでいた。
「なに…あれ……?」
「あの魔法陣、空間を繋げられるんだよ。別のところに居ても、あれを通ってワープできるって訳。便利だよねぇ。眷属を自由に召喚できるんだから」
ヴォルフは、あの魔法陣を通ってきたんだ。
そして周道さんを後ろから切り裂いた。
まさか、こんなことまでできるようになっていたなんて…。
「さ〜てと。よくも僕のことをナメてくれたねぇ」
黒部君が周道さんを見下ろす。
「うっ、…うぅ…」
周道さんが、顔を上げた。
その瞬間…。
“ガスッ____!!”
黒部君が、バットで周道さんの顔を殴りつけた。
「周道…さん……!!」
殴られた勢いで、周道さんはアスファルトの上を転がった。
何も言わず、こめかみのところを押さえて震えている。
「あれぇどうしたのぉ?もう終わりかなぁ!!?」
黒部君がまたバットを振り降ろす。
それは周道さんの脇腹に命中した。
そこから黒部君は、何度も周道さんを殴った。
「オラッ!どうした!?やっぱ!雑魚じゃん!」
罵倒しながら、バットで殴り続ける。
周道さんは、何もできていない。
顔と頭を手で覆って、震えながら叫ぶだけだ。
「やめっ…てっ……!」
このままじゃ、周道さんが保たない。
いくら変身して体が丈夫になってるからって、あんなの続けられたら、死んじゃう…。
光線だったら…。
私は周りに、白い玉を作り始めた。
だけど…。
“ザシュッ!!!”
ヴォルフが残った手の爪で、私を切り裂いた。
「きゃぁああああああああ!!!」
あまりの激痛に、私は悲鳴を上げる。
胸からお腹にかけて、赤い爪痕が刻まれる。
衣装ごと、肉を裂かれた…。
私は焼けつくような痛みに襲われる。
そして痛みに囚われたその時…。
“ドスッ!!”
鈍くて、重い。全く別の痛みが、身体中に響いた。
ヴォルフの拳が、私のお腹にめり込んでいた。
「ゴフッ……!!」
お腹の底から血が逆流してきた。
湧き水みたいに、口から溢れる。
“ドスッ!ドスッ!ドスッ…!”
ヴォルフが容赦なく、私のお腹を殴り続ける。
何度も、何度も…。
殴られる度に、私のいろんなところから血が飛び出して、ヴォルフに掛かる。
(ダメ…!これ以上は……!!)
首を絞められてるのと、殴られてるのとで、息ができない。
自分の血で、窒息しちゃう。
私はヴォルフの手を外そうとする。
ダメだ。ビクともしない。
そもそも、手に力が入らない。
この時私は、ヴォルフの手しか見えていなかった。
“バキッ!!!”
突然顔面に、ヴォルフの拳が飛んできた。
目の前で、何かが星のように弾けた感覚…。
気づけば私は、地面を跳ねるように転がっていた。
「うっ…ぶっ……!ゲホッゲホッ!!」
うつ伏せの状態で止まった私は、一気に血を吐き出した。
私を中心に、血が広がっていく。
もう、全身が痛い。
霞む視界に映るのは、こっちに歩いてくるヴォルフと、周道さんを殴り続ける黒部君の姿。
何してるんだ私…。
立て…。
立たなきゃ…。
立たなきゃいけない…。
そう思ってる筈なのに、起き上がれない…。
頭が、ボーっとする。
「あぁもう!何やってんの由希先輩!!」
国仲さんが車の怪人の攻撃を躱すと同時に、こっちに飛んでくる。
もの凄い速度で接近すると、横からヴォルフを殴った。
ヴォルフは直前で、腕を入れて守っていた。
それでも効いたみたいで、よろける。
そこへ国仲さんは、電気を纏った足でキックを浴びせた。
ヴォルフは踏ん張りきれず、隣の建物の方まで吹き飛ばされる。
あまりの勢いで壁を破り、その姿を消した。
「翠先輩も!!ちょっとは抵抗しなよ!!」
国仲さんは怒鳴りながら、今度は黒部君に襲い掛かった。
「やばっ!速すぎだろ!」
黒部君はバットを両手で構えて、ガードの体勢を取る。
国仲さんが繰り出したのは、飛び蹴り。
強烈なキックが、バットにぶつかる。
その瞬間、黄色い稲妻が発生した。
「うおぉおおおおおおおお!!!」
バットを通して、黒部君の体に電気が流れる。
それを見た国仲さんは、さらに足に力を入れた。
黒部君は踏ん張り切れず、吹き飛ばされた。
「まったく…。ッ!!」
ヴォルフと黒部君を、キックで制した国仲さん。
だけど、一息吐く暇は無かった。
車の怪人が、追いかけてきていた。
腕を畳んで肩を突き出す、あのタックルを仕掛けてくる。
「あっぶな!!」
国仲さんは間一髪それを避ける。
車の怪人のタックルは速い。
国仲さんの表情に、余裕は無かった。
そのまま車の怪人は凄まじい勢いで、建物に突っ込む。
コンクリート片やガラス、その建物を構成していたものが、土煙と一緒に飛び散った。
「うわっ…。やばぁ…」
欠片から身を守りながら、国仲さんは呟く。
あのタックルの危険性を、思い知らされていた。
車の怪人は崩れた建物から身を起こすと、国仲さんを見て不気味に笑った。
「ッ!!…何笑ってんの!?キモいんですけど!!」
国仲さんは戸惑いの表情を浮かべながら、罵声を発する。
その時、ヴォルフもまた出てきていた。
コキリ、コキリと、首を鳴らしながら、国仲さんを睨む。
そして迷わず襲い掛かった。
「檸檬!!後ろだル!!」
この場を俯瞰して見ていたルルちゃんが叫ぶ。
国仲さんは後ろに目をやる。
ヴォルフも速い。もう真後ろまで迫っていた。
鋭い爪が振り下ろされる。
「くっ!!」
それでも国仲さんは、ギリギリで横に跳んだ。
だけど躱しきれなかった。左肩をざっくり裂かれる。
「痛ったぁ…!何す……ッ!!?」
痛みで顔を歪める国仲さん…。
その目の前に、車の怪人が立っていた。
待ち伏せていたかのように…。
下からのパンチが、国仲さんに迫る。
(やばっ…!)
この時国仲さんには、それを避ける術は無かった。
車の怪人の拳が、国仲さんを捉える。
「うぎぃ!!!」
国仲さんは両腕をクロスさせて、受けた。
それでも受け切れない。
あまりにも軽々しく、吹き飛ばされる。
「きゃぁあああああ…!!ぎぐっ…!!」
国仲さんの身体が、アスファルトに叩きつけられる。
それから滑るようにして、私の隣に転がった。
「いっ…たいなぁ!!このキモ怪人!!」
国仲さんはすぐに立ち上がった。
この子を支えているのは多分、2対1という不利な状況への怒り。
国仲さんの両腕は赤く腫れていた。
左肩には切り傷。そして全身打撲痕。
相手が1人だったら、きっとこんな怪我を負うことは無かったんだと思う。
ヴォルフと車の怪人が、何も言わずに歩いてくる。
そんな2人を、国仲さんはギロッとした目で睨みつけた。
「調子乗んなぁああああああ!!」
国仲さんは怒号を発しながら飛び出した。
本当に速い。私の目には、消えたようにしか見えなかった。
「由希!由希!しっかりするル!」
ルルちゃんが私を揺らして、叫ぶ。
だけど、本当にもう、動けないんだ…。
たくさん血が出てきてる…。
この体は元の体とは違う。
変身を解除したら元の無傷の体に戻れるけど、コンパクトを出して、ムーンストーンに触れることすら厳しい。
もう何もかも投げ出してしまいたいけど、目の前の光景から目を離せない。
地面に倒れて、震え続ける周道さん。
ボロボロになりながらも、1人で怪人に立ち向かう国仲さん。
この状況が、私の中の甘えを抑え込む。
「うっ……ぎぃ!!!」
私は手を地面に食い込ませる。
今にも身体が壊れそうなくらいの激痛。
でもそんなの押し殺す。
息をするのもやっとだ。
正直な話、こんな状態で何ができるのか解らない。
それでも、倒れているよりはマシだと思いたい。
「ハァ…ハァ……。ケホッケホッ!!」
「由希!!」
そんな、悲しい顔しないでよ。ルルちゃん。
まぁでも、無理ないか。血を吐き出してるもんね。
だけど、立ったよ。
まずは1歩、踏み出せた。
「由希先輩!?」
国仲さんが怪人の攻撃を躱しながら、びっくりしている。
きついけど、頑張った甲斐があったかな。
いや、ここからだ。
国仲さんがたった1人で頑張ってる。どっちか抑えないと。
それと周道さんも離さなきゃ。このままじゃ巻き込まれちゃう。
やらなきゃいけないことが多いけど、生憎私は立っているのがやっとだ。
この足で走り出しても、途中で倒れてしまう。
私も、国仲さんみたいに速く動けたら…。
何でもいい。
速く動ける力が欲しい。
それこそ鳥みたいに、どこからでもすぐに駆けつけられるような力が。
そう願った時、私の身体が、薄く白い光に包まれる。
なんだろう。この温かくて、心地良い。
それと同時に、両肩に僅かな重みを感じる。
何か軽くて長いものが一気に生えて、広がる。
気づいた時には、光は霧のように消えていた。
何が起こったのか、いまいち把握できていない。
私は身を捻って、自分の肩にあるものを確認した。
「えっ!?」
ヴォルフを蹴り飛ばした国仲さんが、またびっくりしていた。
「由希先輩、それ、羽根!?」
怒りはどこかに吹き飛んでしまったみたい。
国仲さんが目をまん丸にしながらそう言った。
そう、国仲さんの言う通り…。
私の両肩には、白く透き通るような翼が生えていた。




