#18 監視の成果/炎の弱点
Side:Aruto
あれから3日後。
僕は変わらずアジトで監視を続けていた。
赤女と一緒に階段から落ちた訳だが、その後特に何も無かった。
とはいえ、誰も居ない場所に1人で居たら、また同じことになるだろう。
だから学校では、ひたすらトイレの個室に籠もっている。
クソが。惨め過ぎないか。
なんでこの僕が、コソコソ逃げ隠れしないといけないんだ。
まぁいい。
今はそういう時なんだ。
実験としてLv.1の眷属を野に放ったりもして、メスガキ共の情報は大体集まった。
カメラを近づけ過ぎるとバレるから、そこまで深く踏み込めなかったけどな。
だがそれでも充分だろう。
まずは赤女こと真辺穂香。
僕が通う永久中学校の同級生だ。クラスは違うけど。
姫路さんとは何かしら関係があるらしい。
能力は炎。
基本は体に炎を纏っての格闘技。
だがコイツは、日本刀を召喚して扱う。
さらには周囲の炎を吸収して自分の力にすることもできる。
ダイカクを戦わせて実感したが、かなりの攻撃力を持っていた。
おそらく奴らの中では、特攻隊長みたいな立ち位置なんだろう。
コイツ自体も容赦無いしな。
続いて、黄色女こと国仲檸檬。
コイツは松原中学校に通う1年生。
奴らの中では1番歳下だ。
しかし、性格は1番悪い。
学校生活の様子を見てみたが、コイツは人が困っている様を見て笑うような奴だ。
気が弱い生徒の物を隠したり、オタクっぽい奴が読んでいる本を指差して馬鹿にしたり…。
さらには教師を明らかに見下している。
その性格も相まって、コイツは学校では孤立していた。
妥当だな。ゴミ過ぎるし。
コイツが姫路さんと同じ陣営に居るのが信じられない。
とはいえ、コイツの力も侮れない。
奴は電気を扱い、両足に装脚を着けている。
電気を身に纏って高速移動が可能だ。
スピードが乗った蹴りはかなりの破壊力を持つ。
真辺がパワーアタッカーなら、国仲はスピードアタッカーと言ったところだろう。
それから、緑女こと周道翠。
コイツが通うのは、美桜女子中学校。そこの3年生だ。
声が小さく、気弱。
一定の成績は収めているが、どこか自信無さげだ。
おそらく、メンタルは1番弱いだろう。
だが、コイツの力も厄介だ。
奴は杖を使い、クローバー状のバリアを張る。
その硬さは、機関銃の連射を完全に防げる程だ。
さらに植物を操り、相手を拘束することもできる。
完全にサポート特化の力だ。
最初に始末しておきたいところだが、それをさせない奴が居る。
そいつこそが、青女こと御子柴海。
周道と同じく、美桜女子の3年生。
御子柴と周道は、常に一緒に居る。
故に周道を狙うなら、必然的にコイツともぶつかることになる。
ムカつくが、御子柴はまさに文武両道。
中学では生徒会長を務めていて、弓道部の主将でもある。
メスガキ共の中でも、リーダーみたいな扱いを受けている。
武器は弓矢。操るのは氷。
氷の矢は、刺さったところから凍りつく。
さらに弓は刃状になっていて、接近戦も可能だ。
おそらくメスガキ共の中では、1番手強いだろう。
そして、姫路さん。
僕が通う中学校の同級生。
明るくて優しい人気者。
諸悪の根源であるてるてる坊主も、姫路さんの傍に居るくらいだ。
母子家庭で、『花姫』という花屋の1人娘。
母親の手伝いで、自転車で花の配達をしている。
戦闘方法に関しては、詳しい情報は無い。
あの日の夜以来、一度も変身してないからな…。
その時もただの肉弾戦だったし。
まぁ、僕を恐れているようだから、刃向かっては来ないだろう。
とりあえず、放置でいいや。
さて、ある程度情報は集まった。
そろそろターゲットを決めようか…。
周道と御子柴は、今は厳しいな。
2人セットな上に、厄介な能力を持ってるもんな。
狙うにはまだ早いだろう。
国仲もそうだ。
あの目にも止まらぬ速さ、馬鹿にできない。
…となると、やっぱり……。
僕は『トコヤミ』のカメラを開く。
そこに映っているのは、真辺だ。
コイツだ。
1番可能性があるとすれば、コイツだろう。
炎さえなんとかすれば、あとはどうとでもなる。
炎は水で消えると、相場で決まっている。
水…。水か…。
「……そうか!」
天才的なひらめきに、僕は思わず立ち上がってしまった。
ヴォルフが無言で僕の方を見る。
なんだ、簡単なことじゃないか。
炎を無効化する方法、これしかないだろ。
そうと決まれば、早速動こうじゃないか。
僕はそのままの足取りで、アジトを出た。
Side:Honoka
その日は昼休みになっても、ずっと雨が振り続いていた。
私はただ席に座って、ボーっと外を眺めていた。
雨は嫌いだ。
傘を差していても靴とか濡れるし、ずっとジメジメする。
昼なのに薄暗いし、自然と気分が沈む。
……この前、由希に酷いことをしてしまった。
由希は私と同じく、ルルからコンパクトを貰って変身できるようになった。
だけど、あの子に戦いは向いてない。
実際あの日の夜の廃ビルで怪人に敗れ、重症を負ってしまった。
その日が初めての変身だった訳だし、勝てなくて当然だ。
だけど、由希はその戦いでトラウマを負った。
怪人を生み出した張本人…黒部或斗のことが怖くなっていた。
しかもそれを、私に指摘されるまで自覚していなかった。
由希は常に、誰かのために動こうとする。
今回だって、ルルのために変身して、戦う道を選んだ。
自然と植え付けられた恐怖心に、気づけずに…。
この先…由希はきっと、さらなる地獄を見るだろう。
だから私は、敢えてその現実を突き付けた。
由希のために…。
由希に、苦しんでほしくないから。
…本当に、どの面下げてほざいてるんだか。
何が由希のためだよ。
私は私の身勝手で、由希から距離を置いて、無視して、傷つけた。
私から離れたのに、同じ状況になった途端戻ってきて、一丁前に説教をする。
「ははっ…」
最早笑えてくる。
どんだけ都合が良いんだよ。私は。
いくら由希が優しいからって…。
その優しさに甘え過ぎだろ。
由希は絶対に責め立てて来ないって確信があったから、また接触したんだろ。
キモ過ぎる。
汚過ぎる。
卑怯過ぎる。
そんな自分に、腹が立つ。
私は机を殴りつけた。
“ドゴン____!!”
鈍い音が響く。
教室に居たクラスメイトがどんな反応をしてるとか、どうでもいい。
ただ、何かを殴りたかった。
まぁでも、今1番殴りたいのは、黒部或斗だ。
あいつが諸悪の根源。
あいつが怪人を生み出す限り、私達は戦わなければならない。
この前追い詰めはしたけど、隙を突かれて逃げられた。
あれ以来、一度も接触できていない。
私から上手く逃げてるっぽい。
やろうと思えば、授業中にあいつの教室に乗り込んで捕まえることもできるかもしれない。
それはそれでリスクがデカいからやらないけど。
黒宮或斗は今日も登校している。
同じ学校に居るのに、捉えられないのがもどかしい。
まぁでも、ボケ~ッとしてても何にもならないか。
動くか…。
そう思った私は席を立った。
その時だった。
“パリーン__________!!!”
突然教室の窓が、一斉に割られた。
私は反射的に、腕で顔を守る。
割れたガラスと、冷たい水が降り注いできた。
「きゃあ!!!」
「なんだァ!!?」
「痛っ!血!血が出た!」
クラスメイトの悲鳴が聞こえる。
私はゆっくり顔を上げた。
手の甲に、ピリッとした痛みを感じる。
飛んできたガラス片で切ったようで、血が流れ出ていた。
クラスメイトがパニックに陥る中、私は割れた窓に近づき、外を見た。
「ッ……!!」
雨が打ちつける中庭で、黒部或斗がこちらを見上げていた。
隣には、狼みたいな怪人。
黒部が濡れないように、傘を差していた。
その手前には、もう1人の怪人。
一つ目が付いた白い直方体の体から、機械みたいな手脚が生えている。
てっぺんには、何かの噴出口。
元になったのは、学校の給水機か…。
どっちも大きい。
多分、雑魚じゃない。
給水機の怪人を見ていると、噴出口が別の方向に向けられた。
そこから、凄い勢いで水が噴射。
水のレーザーが、隣の教室の窓ガラスを次々と割った。
隣の教室からも悲鳴が聞こえてくる。
「ッ…!!」
ダメだ。
このまま放置してたら、怪我人が増える。
私はもう一度中庭を見た。
すると、黒部と目が合った。
「……」
黒部はただ無言で、ニタリと笑った。
まるで挑発でもするかのように…。
私から逃げてたくせに、どういうつもり。
掛かって来いってこと。
黒部の意図を考えていると、給水機怪人の噴出口が別の方を向いた。
またあのレーザーを撃つつもりか。
「ッ……!!」
階段を降りてちゃ間に合わない。
私は躊躇なく窓から飛び降りた。
ここは2階だ。落ちても死ぬような高さじゃない。
落下と同時に、私はコンパクトの中の宝石に触れる。
雨の中、私は赤い光に包まれた。
そして着地した時には、私は変身を終えていた。
同時に給水機怪人に突っ込む。
スピードを乗せた蹴りを、体の中心に叩きつけた。
“ボコッ_____!!!”
金属が凹むような音を響かせ、給水機怪人は吹き飛んだ。
「……」
私は無言で黒部を睨みつける。
「ハハハ!落下しながら変身。カッコいいじゃん」
黒部は私を馬鹿にするように、そう言い放つ。
「まぁでも、お前はここで無様に敗北するんだけどね〜」
「うるさい」
私は右拳に炎を纏った。
……筈だった。
「ッ…!?」
だけど、炎を纏えない。
一瞬発火するだけで、すぐに消えてしまう。
困惑していると、不意に水のレーザーが飛んできた。
「ガハッ____!!!」
とんでもない水圧が、私を押し飛ばす。
そのまま校舎の壁に、体を叩きつけられた。
「くっ…ゲホッ!!」
咳に混じって、口から血が出てくる。
今ので内臓のどこかが傷ついたっぽい。
顔を上げると、給水機怪人が黒部の前に立っていた。
やっぱりあの程度じゃ倒せないか…。
「くくっ。思った通りだ。やっぱり雨の中じゃ炎は出せないようだな」
してやったりって感じで、黒部が笑う。
なるほど……。
私の炎を無効化するために、雨の日を選んだ訳か…。
この力の欠点を、見抜いてくるなんて…。
「ケホッ…。炎を封じた程度で、私に勝てると思わないで……」
不利な状況だけど、やるしかない。
これ以上被害を出す訳にはいかないから。
由希を…。皆を守らなきゃ。
「クヒヒッ。精々頑張ればいい」
そう言って黒部は、薄気味悪い笑みを浮かべた。




