表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

#19 止まぬ雨/嫌な声

Side:Honoka


 私は痛む体に鞭打ち、戦闘体勢を取る。

 目の前には黒部と、狼怪人、それから給水機怪人。

 黒部を除いたら2体…か。

 私はこの雨のせいで、炎を出せない。

 人数は不利。環境でも不利。

 この日のために、いろいろ作戦を立ててきたんだろう。

 黒部はそれくらい私を潰したいらしい。

 だけど、簡単に潰れてやらない。

 いや、潰れない。

 炎がダメでも、これは出せるでしょ。

 私は右手を前に翳す。

 そうすると、赤い光と一緒に日本刀が現れた。

「よし……」

 刀は出せる。

 今は燃えない普通の刀だけど、それでも充分だ。

 私は刀を構えた。

「ヴォルフ、行ってこい」

 黒部は自分で傘を持っていた。

 奴の指示通り、ヴォルフと呼ばれた狼怪人が襲い掛かる。

「ッ…!?」

 速い。一気に詰められた。

 だけどなんとか間に合う。

 ヴォルフの鋭い爪が刺さる直前で、私は刀で受けた。

 だけど、コイツの攻撃はこれで止まらなかった。

「ッ…!?」

 両手両足。四肢の爪による連撃が襲い掛かってくる。

 速いし手数が多すぎる。

 私は防御に徹するしかない。

 それでもいくつかの攻撃がガードをすり抜けて、体を削られる。

 このままじゃ押し切られて終わりだ。

 私は後ろに跳んで距離を取る。

 だけど、それは間違いだった。

“ブシャァアアアアアア_________!!!”

 ヴォルフから離れたと同時に、給水機怪人の水のレーザーが飛んできた。

 タイミングが悪すぎる。

 私は体を捻ったが、水レーザーは左肩に命中。

「あがっ____!!」

 また水圧で吹き飛ばされた。

「いっ…だぁ……」

 左肩が痛い。

 骨にひびが入ったかもしれない。

 給水機怪人の水のレーザー…。

 威力が高過ぎる。何回も食らってられない。

 倒れてたら恰好の的だ。

 私はもう一度立ち上がった。

 左肩が痛む。刀、右手で持つしかないか…。

「ヒヒッ。2対1なのに頑張るなぁ。赤女〜」

 黒部は安全圏から私を嘲笑する。

 なんだよ赤女って。

 私には真辺穂香っていう立派な名前があるんだけど。

「『黒部様、私が間違っていました。愚かな私をどうかお赦しください』って土下座しながら言って、コンパクトを渡してくれたら許してやるけど?」

「ケホッ…。長いし、謝るつもりなんてない」

「あっ、そう。…じゃあ3体目にも動いてもらうか」

「ッ…!?」

 今、3体って言った?

 ヴォルフと給水機怪人の他に、もう1体?

 いったいどこから…。

 私は周囲を見渡す。

 どこから来る?

 それらしい奴はどこにも居ない。

 そうしていると、黒部がニヤつきながら私の方を指差した。

「ほら。後ろ後ろ〜」

「後ろっ!?」

 私は反射的に振り返った。

「ドロロ〜……」

「ッ!?」

 いつの間にか私の後ろに、全身泥の大男が立っていた。

 顔と思われるところに目や鼻は見えず、いくつか歯が抜けた口だけが不気味に笑っている。

 泥でできた太い胴体に両腕。

 足は1つにまとまっていて、泥男自身が地面から生えているように見える。

 こんな奴、さっきまでどこにも…。

 まさか、濡れた地面と同化していたのか。

「ドロロッ。オメ、可愛いなぁ〜〜〜」

 気持ち悪いおじさんみたいな声でそう言いながら、泥男が両手を広げる。

 私は距離を取ろうとした。

「なっ!?」

 だけど、私の両足は泥に埋もれていた。

 これじゃ逃げられない。

「愛でてやろうなぁ〜〜〜」

 逃げられない私に、後ろから泥男が抱きついてきた。

 左手を私の口元に。

 右手をお腹に回してくる。

「むっ…ぶっ!!」

 苦しい。

 口と鼻が、泥で塞がれる。

 息ができない。臭い。

 振り解こうと、私は右肘で泥男を突いた。

 だけど、手応えが無い。

 これ、ただの泥だ。

「乱暴だなぁ〜〜〜。女子おなごはお淑やかじゃなきゃ〜〜〜〜」

 案の定、ダメージを受けていない。

 泥男は体の重心を、私に傾けてきた。

 私の体が、泥に包まれていく。

「可愛い女子は、なでなでしてやらないとな〜〜〜」

 泥男が私の耳元に、ねっとりと語りかけてくる。

 それから右手で、私のお腹を、太腿を…衣装の中を…弄り始めた。

「んっ…ぐっ……ンンッ!!」

 泥の手が、ねっとりしていて、冷たくて、気持ち悪い。

 ホント…どこ触って……。

 私を倒したいんじゃないの?なんでこんなこと…。

 声は、我慢しないと…。

 口を開けたら泥が流れ込んでくる。

 でも、ダメだ…。

 息を吸わなきゃ…。もう……。

「泥田坊、離してやれ〜。窒息死しちまうぞ」

「おっとっと〜〜〜〜」

 泥男の手が、私の口元から離れる。

「うっ…ゲホッゲホッ!ハァ…ゴホッ…ゴホゴホッ!」

 口が自由になり、呼吸できるようになった途端、一気に咳が出る。

 血も一緒に出てきた。

「ヒヒッ。よかったなぁ赤女〜。僕がいなかったら、お前窒息死だったぞ〜?ほら。こういう時は『ありがとうございます』って言うんだよ?」

 黒部は相変わらずの上から目線。

 今すぐぶん殴ってやりたいけど、泥男…泥田坊に捕まって動けない。

 それにしても、なんであそこでやめさせた?

「ゼェ…ゼェ…。…私を、倒したいんじゃなかったの?」

 私は睨みながら問う。

 その時、黒部の目が厭らしく光った。

「勿論お前は潰すさ。だけど、ただ潰すだけじゃつまらないからねぇ。お前は散々僕のことをコケにしたんだ。その罰として、それなりに苦しんでもらうよ。泥田坊!」

 黒部が命じると、泥田坊の形が変わり始めた。

 私は拘束されたまま、無理矢理体勢を変えられる。

 結果、泥田坊は十字の拘束具みたいな形になった。

 私は両手両脚を泥で固定され、磔にされた。

 目の前にヴォルフが歩み寄ってくる。

「何…する気……?」

 私の疑問に答えるように、ヴォルフは拳を握る。

 そして、私のお腹に容赦なく撃ちつけた。

“メキッ_____!!”

「ガハッ!!」

 内臓が潰れる程の痛みが走った。

 私は磔にされたまま、くの字になる。

 お腹の辺りが痙攣する。

「泥田坊、どんな顔してるか解らないよ。顔上げさせてやって」

「ドロロ〜。そだな〜〜」

 泥田坊は笑いながら、泥を出っ張らせる。

 それにより、体を反らされる形になった。

 さらに、私の顎を掴んで無理矢理顔を上げさせる。

「あっ……ギィ!!」

 この体勢は、辛い。

 ただでさえ上手く呼吸ができないってのに。

 私に休息の暇なんて無く、ヴォルフはその後も拳を入れてきた。

 何度も。何度も…。

 私の露出したお腹が、次第に赤く腫れあがっていく。

 泥に埋まって、体を動かせない。

 ダメだ。抵抗…できない。

 力が入らなくなっていく…。

 黒部の思惑通り、このまま嬲られ続けるしかないのか…。

「真辺さん…だったかなぁ?もう限界みたいだねw」

 気づけば黒部が近くに立てっていた。

 私が動けないのをいいことに、顔を目の前に近づけている。

「このッ!」

「お〜怖い怖いwどう?まっ、このままじゃきみ、死んじゃうかもだし?最後の慈悲をあげるよ」

「は…?」

「コンパクトを僕に渡して、忠誠を誓うって言うんだったら、赦してやってもいいよ?僕優しいからさぁ、素直に謝れる子は嫌いじゃないよ。ほら、土下座しやすいよう解放してあげるよ。土下座は日本の文化だからねぇ」

 泥田坊が私を解放する。

 私の体は、力無く濡れた地面に落とされた。

 黒部は既に、離れたところに居る。

 そして私を囲うように、ヴォルフ、泥田坊、給水機怪人が立つ。

「ぐっ…うぅ……」

 上手く力が入らない。

 立てない……。

 こんな状態で、怪人3体を相手にするなんて無理だ。

 せめて炎が使えたら…。

 だけど、雨が止む気配は無い。

 悔しいけど、もう私はコイツらに…勝てない。

 だったら黒部の言う通り降参して、土下座するか?

 それは嫌だ。絶対に。

「うぐっ…あぁアアアアアアアアアア!!!」

 私は力を振り絞って、黒部に殴り掛かりに行く。

 だけど、拳が届くことはなかった。

 ヴォルフに途中で止められて、地面に突き飛ばされた。

「無様だなぁ。あんな気取ってたのに、すっかり泥まみれじゃん。僕の慈悲を無碍にするなんて、馬鹿な奴」

「うっさい…。アンタの下に付くくらいなら、死んだ方がマシだ!」

「あっそう。お前とことん馬鹿だね。もういいや。お望み通り潰しちゃってよ」

 黒部が呆れ気味に指示すると、怪人3体が躙り寄ってきた。

 絶対折れてやらない。死ぬまで抗ってやる。

 私は死ぬ気で立ち上がった。

 目の前に立つヴォルフをぶん殴ってやろうとした。

 その時だった。

「穂香ちゃん!!」

 私を呼ぶ声がした。

 今この瞬間、一番聞きたくなかった声が。

「ッ!?」

 私は反射的に、声がした方を向く。

 校舎と校舎を繋ぐ、屋根付きの移動用廊下。

 そこに、由希が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ