黒馬は走る
最初の一撃を交わし損ねたのは、絶対に黒馬に気を取られていたせいだ。
かわし損ねて私が生きているのは、馬が間抜けでは無かったからであろう。
悪魔の馬は黒い疾風のような動きを見せ、なんと、私を確実に殺せそうな男を頭突きで跳ね飛ばしてしまったのである。
跳ね飛ばされた男はその瞬間に蛙が潰れたような音を出しただけで、手近な木の幹にぶつかったまま動かなくなった。
「ありがとう。靴下丸。ミリア、あなたは靴下丸に乗ってしまって。乗れるでしょう。あなたならば。」
「あなたこそ乗れるでしょう。一緒に乗って、一緒に逃げましょうよ。」
「あら、そうね。それが一番だわ。」
剣を鞘に戻すと、自分の腰帯に差して片付けた。
それからミリアに向かい合うと、ミリアはにっこりと笑って返し、私達はお互いの両手をパチンと打ち合わせると、二人仲良く間抜けな馬の背にしがみついた。
大柄な馬なため小柄な私達ではは登ることに手間取るかと思ったが、馬が私達の服を咥えては自分の鞍へと持ち上げてくれたので、意外とすんなりと上に乗ることができた。
そして、私達を襲いに来た次なる敵は遅すぎた。
現れたのは完全に馬に乗り上げたところで、その二人は手綱を持ったミリアによって馬に蹴とばされることを察知したか、悲鳴を上げるや飛び上がり、道から外れた森の中へと逃げ出すしかなかったのである。
「さぁ、逃げ切りましょう、王都まで。」
「この馬ならば、半日で王都ですね。」
「ふふ、そうね。飛ばすから、しっかり私に掴まっていてね。エンバーン。」
「あら。鞍に女座りしていないあなたが、馬を飛ばさないわけ無いでしょう。わかっているわよ。」
女だてらに股を割って馬にまたがる私達は、男の様にワハハと声をあげると、手下となった間抜けな馬を駆って戦場から一目散に逃げだした。




