1年後
やっぱり別れというのは悲しいものでもう1年が過ぎセリアが学院に旅立ってしまった。
寂れたこの部屋が自分の心を表しているかのようだった。
セリアは剣聖となり、俺は冒険者となった。
とりあえずそこそこのDランクの冒険者になってそこそこの金を稼いでいた。
パーティーは組まず、ソロでやっている。まあ色々と気を配らなくていいからね。でもやっぱり一人は寂しいので街に戻った時は毎回、おばちゃんの店に行っていた。
いつも通り、そこそこの依頼を受けようとギルドに貼ってある依頼を見ていた。
「そこそこのやつは…」
そこでまず最初に目に入ったのがブルルでの依頼だった。
場所が1年前からずっと大雪が降っている街だった。おばちゃんが言うにはどうやらまだ祟りというのが続いているらしい。
「精霊の怒りはまだ収まっていなかったって訳か…」
面倒ごとには御免だとそれ以外の依頼を見るがそこそこの依頼がそれしかなく、他のやつは危険なやつばかりだった。
「はぁ。しょうがないか……」
俺はその依頼書を手に取り受付に渡した。
「ブルルの調査依頼ですね。誰も受けないので助かりました」
「誰も受けない?」
思わず聞き返してしまった。
「ほら。祟りとかなんとかでみんな気味がって受けないんですよ」
それを聞いてたしかにと思った。
だって丸々1年ずっと大雪が続いているからな…そりゃあ気味がるのはわかる。
俺だって行きたくない。
「それで誰も行かないんで現地の状況がわからないんですよ」
「わからない?騎士団とか行かないんですか?」
「騎士団も気味がってギルドに斡旋したんですよ」
「面倒ごとを任せやがって…」
「そうですよ!騎士団も嫌な連中ですよね。まったく…」
前から思っていたがこの受付嬢、口が悪いな。
「で…その調査の詳細聞きたいのですが…」
「そうでした。まあ危険がないか調べるだけでいいらしいですよ」
そうでしたって。一瞬忘れてなかった?
「ずいぶんと適当ですね…」
「だってしょうがなくないですか!?私だって初めてのことでわからないんですから!?」
全く…この受付嬢大丈夫か…?この先が思いやられる。
「とりあえず、そこに行って調査するだけでいいんですね?」
「まあそうなりますね。あ…あと言い忘れていましたが生態系が変わっている可能性があるので元々居なかった動物やモンスターが出るかもしれません。注意してくださいね」
「それ…先に言うことじゃないんですか?」
呆れた声でそう言う。
「てへ!」
「てへ!じゃないですよ!全く…」
俺はそう言ってギルドを後にした。
早速、服屋に行きコートを買った。これで防寒は大丈夫だろう。あとは万が一の回復アイテムも買ってと…
出費が多いな…はぁ。こんなんじゃ受けなければよかった。
そう思ったってもう受けちまったもんは仕方がない。やりきるか…
どうせそんなに時間はかからないと思うしとっとと終わらせよう。
重い足取りで門をくぐり、ブルルへと向かうのだった。
「はぁ。だるい…」
前はセリアとかおばちゃんが居たから愚痴を聞いてくれたが…。セリアは学院に居ておばちゃんは街に残っている。今は愚痴を聞いてくれる奴なんて居ないし、つまんねえの…
「雪か…」
今は国境付近に来ているが…ここからでも雪が見える。
これほどとはな…。たしかにブルルは気候が変わりやすい。だがこれほどではない。異常だ。これは。
そして国境を越えるための門には兵士が居る。
兵士は俺に向かって声をかける。
「そこの眼帯、止まれ。ここから先はブルルだ。通行書を見せてもらおうか」
「あの…ギルドの調査で来たのですが…」
「ああ…。タンペの祟りの件か」
「タンペ?」
「この街の名前だよ。今じゃ祟りの街とか言われているが…。まあとにかく調査に来てくれて感謝する」
「とりあえず現状を教えてくれますか?」
「ああ。まずこの雪が降り始めたのはちょうど1年前…ってのは知っていると思うが…最初はいつものことかと雪が止むのを待っていたんだが…一向に止まない。……困ったものだよ。作物に影響が出たから今じゃ輸入に頼りきりで野菜の値段が上がってるし…」
兵士はため息を吐きながらそう言う。
「では動物とかモンスターとか変化はありますか?」
「あったよ。動物は熊とか鹿が住み着いてモンスターは雪男とか見慣れないモンスターが諸々…。こんなに変化したのは初めてだよ。もうここが雪国になっちゃったのかな」
現状を諦めているのか、それとも疲れているのかわからないがどちらにしても対処しなければいけない。
もっと原因とか色々聞かなくては。
「雪が降り始めた頃とかに何か異変はありませんでした?小さなことでもいいので何かありませんでした?」
「……そういえば、雪が降り始める前に変な奴らが来たんだよ」
そういえばおばちゃんが怪しい連中が精霊の怒りに触れた的なこと言っていたな…。もしかしてそいつらか?とりあえず特徴を聞いてみるか。
「どんな感じの奴らでした?何か恰好とか」
「黒い服を着ていたな…」
「!?」
思わず反応してしまった。
まさか…あいつらか!?
嫌な感じがしてきた…。
「どうかしたのか?」
「……いや。なんでもありません」
何事もなかったように平然を装う。
平然を装っていても気持ちが落ち着かなかった。
もしあいつらだとしたら…と思うと…
「そいつらは今、どこに居るかわかりますか?」
「すまない。そこまではわからない。でも雪が降り始めてから見てない。多分、どっかに行ったと思う」
「そいつらが何かやっていたとかわかりませんか?」
「何かを探していたよ。住人に尋ねて聞き込みをしてね」
探していた?何をだ?
それは祟りに関係するものなのか?
「何をです?」
「見たことないものでよくわからなかった。ただ…壺のような何かだった」
壺のような何か?よくわからないな…。
「ありがとうございます。あとは街で聞き込みをします」
「ああ。頼んだ」
兵士に一礼をし、門をくぐった。
「うう…寒!!」
やっぱり寒かった。冷たい風がコートを貫通してくる。
雪はブーツが埋まるほど積もっていて家の屋根も真っ白になるまで積もっている。
「なんていうかな…」
街には活気がなかった。さっきの兵士もそうだがなんていうか諦めているっていうか…。
「とりあえず宿を探すか…」
一応、ギルドから支給品として宿代をもらってるから金の心配はないけど。寝るところがないと嫌だからな。
「おお。こんなところに崖か…落ちたらひとたまりもないな…」
まあ今は宿を探すか…
そう思いながら周りを見る。
「お!あるじゃねぇか」
そこに向かって歩き出すその時だった。
「きゃあああああ」
悲鳴が聞こえたその方向を向くと崖から落ちてくる人が居た。
てかフラグ回収早すぎ。とやれやれと思いながら走って時を止める。
降る雪もここの住人も落ちてくる人もすべて静止していた。
俺はその落ちてくる人の落下地点に立つ。
「やれやれ。なんで落ちてきたんだ?まあいいや。それはあとで聞くことにするか……」
俺はもう一回、上を確認し、位置を微調整する。
「この辺かな…。さて解除するか」
静止した時間は動き始める。
「あああ…って。え?」
落ちてくるこの人をキャッチする。
「おお。ピンポイント。我ながらナイスキャッチ」
「え?」
唖然としていた。状況がわからないのだろう。
「崖から落ちて…」
「危なかったな…気を付けろよ」
「眼帯…?ありがとう」
遠目から見てたからわかんなかったが近くで見るとこの子…お嬢様か?見た感じお高い服着ているし…
「眼帯って…まあいいや。気を付けるんだぞ」
そう言ってこのお嬢様を降ろす。
そしてそそくさと逃げる。
「待って!」
逃げろ!この場を早く離れろ!
なぜかって?それは権力者は怖いからだ!!
「足速!!」
何か聞こえたが気のせいだろう。逃げろ。逃げろ。
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