世界
この世界には7つの大国がある。例えば水の国、風の国、炎の国、地の国、知の国、力の国、そして神の国という7つの国が存在している。それぞれの国はそれぞれの力を使い発展していった。
そんな世界で俺、ことルル・ベルクライクは風の国、シャルで生まれた。俺は勇者で有名な貴族の家系でもない。ただのモブな一般人だった。
そんな俺がとある秘密結社と戦う物語である——
俺は力がなく、魔力もそんなにない……だから普通に暮らす平穏な日常を送っていた。
ただし普通じゃないことが一つ。
リンゴを上に投げるとどういう訳かリンゴが空中で止まる。いやリンゴだけではない。空を飛ぶ鳥も風に流される葉っぱも止まっていた。この世界が止まっているかのように。
これは生まれつき使えた。だが誰にも言わなかった。どうせ信じてくれない。そう思ったからだ。
この時間停止は自分以外の時間を止める。つまり他人には見れないということ。見えないのならば証拠を示すことができない。
「ルルー!!」
この金髪のおてんば娘はいわゆる、幼馴染だ。
名前はセリア・グレアー
彼女は剣聖に選ばれる実力を持っていてめちゃくちゃ強い。本来、俺とはかけ離れている存在。故に交わってはいけないはずなのだが……俺と彼女は幼馴染。その縁で関わっている。
「まだ眼帯してるの?」
右目を隠している眼帯に指を指してそう言ってくる。
「ああ。外してはいけないからな…。これを外したら俺の右目に封印している黒炎龍が解放されてしまう」
セリアは信じていないようで「またか」みたいな顔をして数秒後に「はいはい」と言った。
どうやらまだ信じてないらしい。
「そういえばセリアは王都の学院に行くの?」
シャルの王都にある魔法剣士学院は世界最大級の学校で優等な者が全国から来る。それはシャル以外の6国からも来て学んでいる。
まあ俺とは縁がない。行くことは夢のまた夢。
「うん!来年からね」
「頑張れよ。応援してるからよ」
また遠くの存在になっていくそんなセリアのことを誇りに思っていた。
「ルルはさ…寂しくないの?」
「え?」
その問いに思わず聞き返してしまう。
「離れ離れになっちゃうんだよ。それでもルルは大丈夫なの?」
不安な顔をしながらそう言う。
「世界は意外と小さい。だからまた会えるって。それに何か困ったらすっ飛んで駆けつけるからさ」
これは嘘でもない。世界は思ったより小さい。どこに行っても会える。俺はそう思っている。
「ふふ…まあなんというか…ルルらしいというか…」
「まあな。俺だからな」
「本当にわかってる?」
一呼吸置いて
「まあいいや。それよりもモンスターとかに気を付けるんだよ」
「案ずるな。俺には黒炎龍が居る。いざとなったらその黒炎龍が助けてくれる。それに——」
「それに?」
「俺には時が味方してくれている」
そう言い眼帯を触る。
「どういうこと?」
「だから安心して行ってこいっていう意味だよ」
「ありがとう…」
口では寂しくないみたいな反応をしてたけどやっぱり別れってのは寂しいな。
しばらくして俺は家に戻っていた。
暇だった。そもそも何もないから外に出ていたのに戻ってきてしまった。
家には誰も居ない。寂しい部屋には小鳥のさえずりが聞こえる。
まるで時が止まってないのに止まっているようだった。
セリアが行ったらこんな時間が続く。そう思うとやっぱり寂しかった。
「もう一回、外に出るか」
俺は気を紛らわせるために街に行ってみることにした。
店からはパンの匂いが漂っていて、その店には行列ができていた。
「平和だな…」
子供たちはワーキャーと騒ぎながら走り回っていた。そんなこの場所にいつもと変わったところはないとそう思っていた。
グーっと腹の音が鳴る。美味しそうなパンの匂いを嗅ぐと腹が空いてきてしまった。
「どこかで…。そうだいつものところで食べよう」
俺は目の前の行きつけの小さな食堂に入った。
ここは客があまり居ないがそれが逆に落ち着く。
「おばちゃん。今日も来たよ」
「おお。その声はルルかい?」
厨房から元気で大きい声が聞こえる。
「うん。いつもの頼むね」
「はいよ。特製のサンドイッチね」
しばらくして、いい匂いとともにサンドイッチを持ってきたおばちゃんが来る。
「はい。どうぞ!」
と言って皿に乗っているサンドイッチをテーブルに置く。
「ありがとう。早速、いただきやーす」
口に運ぶ。口の中は野菜のシャキシャキ感と肉ジューシーさがあふれていた。
「うーーー!やっぱ美味いわ」
「そりゃどうも」
「そういえば今日はセリアと来てないね。なんかあったの?」
「ん?ああ。何か用事があるらしい」
「そうかい。いつも一緒だったから一人だと不思議でね」
「うん。まあね…5歳からの付き合いだからな…それに行き場なくした俺がここに来て初めて優しくしてくれたのはあいつだったし」
「そっか…ルルが来てもう10年になるのね…時間の流れってのは早いもんだね」
そうか…あれからもう10年経ったのか…
そう心の中で呟く。
「今となってはここは居心地がいいし大切な場所になってる。大事な人たちが居て、大切な場所がある。俺は今の生活が結構気に入ってんだよね」
「そっか。よかったよ」
安心したように穏やかな声でそう言う。
「てかもう昔話はいいって。それよりなんか面白い話とかないの?」
そう言って俺は話を切り替えた。
「うーん。面白い話ね…そういえば水の国、ブルルのどっかの街で大雪だって」
「なんだ。いつものことじゃん」
ブルルでは季節が変わりやすい。急に雪降ったりとかは割とある。
「いやね。私もそう思ったんだけどなんか違うらしいよ」
「違う?なんかあったとか?」
「そうなのよ!なんか変な連中が来たらしいのよ。それで祟りが起きたとか…」
「祟り?精霊の怒りに触れたとか?」
水、風、炎、地の4国はそれぞれの属性を司る精霊が作ったとされている。そしてこういう言い伝えもある。精霊の怒りに触れると祟りが起きると。祟りは災害などを引き起こし怒りが止むまで続くと。
ま。所詮言い伝えだし本当のことなのかわからないけどな。
「かもしれないわね」
「でもまあ俺達には関係ないか」
「そりゃそうだけどさ。その変な連中が今度はここで怒りに触れるようなこと起こしたら今度はここだって祟りを受けるかもしれないのよ。もうちょい危機感を持ちなさい」
「えー。それは嫌だな…祟りなんて受けたら平和じゃなくなるじゃん」
おばちゃんは「はぁ」と息を吐きながら呆れた様子を見せる。
「まあ。でも私たちにできるのは怒りに触れないようにすることしかできない」
たしかにな…できることって言ったらそれくらいしかない。
できることなんて少ないんだ。例え、時を止められるとしても力がないとそれ以上のことができない。ただ見てることしかできない。
「そうだね。まあでも関係ないか…」
「そういう他人事のように話すのはやめといた方がいいよ」
おばちゃんはまた大きなため息を吐きながらそう言う。
「わかったよ」
怪しい連中ね…まあ一応気を付けておくことにするか…
それ以降はその怪しい連中とかの話をしないで普通の世間話をしていた。
「ごちそうさま!また来るね」
と店から出ようとしたらおばちゃんがこっちに来て
「ルル!くれぐれも気を付けるんだよ」
「わかってるよ。おばちゃんこそ気を付けろよ」
そう言って店を出た。
子供たちの声がまだ聞こえる。それを聞いて「平和だな」と思う。そしてこれが続けばなと思った。
・・・・この時はまだ何も知らなかった。その連中がこの街に来ていたことに。
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