↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残業無限、始めました。〜過労死した俺が異世界で世界一の働き方改革をする話〜  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/10

第9話 俺、二度目は倒れないので

それから、数日後。


その日の朝、カーウェン商会に、大量の依頼が舞い込んだ。


「至急、木箱を三百個。

荷車の修繕、二十台。

今日中に」


一枚、また一枚と、依頼書が積まれていく。


差出人は、バラバラだった。


でも、なぜか、全部が今日中。


全部が、この店に。


「なんか、変だな」


俺はつぶやいた。


こんなに一度に来るのは、おかしい。


でも、依頼は依頼だ。


「まあ、やっとくか」


俺は、袖をまくった。


   *


作業を始めて、すぐに気づいた。


これは、普通じゃない。


三百個の箱。


二十台の修繕。


一人でやるには、あまりに多い。


「ハルさん、これ、多すぎます」


リゼが、依頼書を見て、青ざめた。


「それに、この依頼主……

みんな、ゴードン親方と昔から付き合いのある人たちです」


リゼは、依頼書を握りしめた。


「今のゴードン親方は、もう力なんてないはずなのに。

……追い詰められて、最後の伝手を、全部使ったのかも」


俺は、はっとした。


罠だ。


失脚寸前のゴードンが、残った付き合いをかき集めて、

依頼を偽装し、俺に集中させた。


「無限に働けるなら、全部やってみろ」


そういう、挑発だった。


俺の加護の、唯一の穴を、突いてきた。


際限がない、ということを。


   *


「くそ」


俺は、手を動かし続けた。


疲れは、感じない。


でも、量が、量だった。


箱を作る。

修繕する。

また箱を作る。


夜になっても、終わらなかった。


俺は、一人で、黙々と続けた。


そのとき。


ふと、既視感が、襲ってきた。


深夜のオフィス。

積み上がった書類。

一人きりの作業。


「まだ終わってないのか」


あの声が、耳の奥で、蘇った。


   *


手が、止まった。


体は、疲れていない。


でも、心が、あの日に、引き戻された。


一人で、全部、抱え込んで。


誰にも頼れなくて。


そのまま、倒れた、あの日。


「……また、これか」


俺は、つぶやいた。


疲れない体があっても。


一人で背負う限り、俺は、あの日と同じだった。


前世で、俺を殺したのは。


働きすぎ、じゃない。


「一人だったこと」だったのかもしれない。


   *


そのときだった。


店の扉が、勢いよく開いた。


「ハル!」


ミナだった。


その後ろに、リゼ、アニカ、そしてセオドールがいた。


「なにやってんの、一人で!」


ミナが、駆け込んできた。


「これ、ゴードンの罠っしょ!

一人でやろうとするな!」


「でも、これは俺の……」


「違う!」


ミナが、遮った。


「あんた一人の店じゃない!

あたしたちの、街の話だ!」


   *


リゼが、隣に立った。


「ハルさん。あなた、いつも言ってましたよね。

『一人で背負うのは間違いだ』って」


彼女は、微笑んだ。


「自分のことだと、忘れちゃうんですね」


胸を、突かれた。


俺が、みんなに教えたことだった。


なのに、自分では、できていなかった。


「あたしも手伝うよ!」


アニカが、腕まくりをした。


「箱運びなら、あたしの『健脚』が役立つでしょ!」


「私は、作業の割り振りを」


セオドールが、依頼書を広げた。


「効率よく分担すれば、今夜中に終わります。

数字が、そう言っています」


   *


みんなが、動き出した。


ミナが、板を切る。

リゼが、組み立てる。

アニカが、運ぶ。

セオドールが、指示を出す。


そして、俺も。


一人じゃ、なかった。


「セオ、次の割り振り頼む」


「承知しました」


作業が、みるみる進んでいく。


一人でやっていたときの、何倍も速く。


「あんた一人の力に頼る仕組みは、もう終わり」


ミナが、作業しながら言った。


「そう教えてくれたの、あんたっしょ」


俺は、手を動かしながら、笑った。


目の奥が、少し熱くなった。


   *


夜明け前。


最後の箱が、積み上がった。


三百個。


修繕した荷車、二十台。


全部、終わった。


みんなで。


「やった……!」


リゼが、へたり込んだ。


アニカが、汗をぬぐった。


ミナが、大きく息をついた。


セオドールは、依頼書を数えて、うなずいた。


「完遂です。ゴードン氏の目論見は、崩れました」


俺は、みんなの顔を見た。


疲れているけど、笑っていた。


   *


俺は、空を見上げた。


窓の外が、白んでいく。


前世では、一人で夜を明かして、そのまま倒れた。


でも、今は違う。


隣に、みんながいる。


「なあ」


俺は、言った。


「ありがとう。助かった」


「当然っしょ」


ミナが、そっぽを向いた。


でも、笑っていた。


俺、二度目は倒れない。


一人じゃ、ないから。


そう、思えた。


   *


その朝。


セオドールが、俺の前に立った。


「ハルさん。今回のことで、確信しました」


彼の目は、真剣だった。


「あなたのやり方は、一つの店では、もったいない。

ゴードン氏のような搾取を、街から、なくすべきだ」


彼は、一枚の書類を、差し出した。


「この働き方を、街全体の制度にしましょう。

最後の、提案です」


俺は、その書類を、受け取った。


長かった戦いが。


いよいよ、決着に向かおうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。