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残業無限、始めました。〜過労死した俺が異世界で世界一の働き方改革をする話〜  作者: 月代


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6/10

第6話 英雄じゃなくて、ただの働きすぎです


銀髪の男は、工房の前で名乗った。


「私はセオドール・ガレン。王国の財務を預かる文官です」


丁寧な口調だった。


でも、目は笑っていなかった。


「この工房の生産量が、短期間で大きく伸びている。

税を預かる者として、理由を知る必要があります」


彼は、手に持った書類に目を落とした。


「先月と比べて、産出が一・八倍。

人員は増えていない。奇妙です」


数字を、すらすらと口にした。


工房を、帳簿として見ている。


そう感じた。


   *


「作業のやり方を、変えたんです」


俺は説明した。


「一人で全部やっていたのを、分担にした。

無駄をなくして、休みを入れた。

それで、効率が上がった」


セオドールは、少し驚いた顔をした。


「休みを入れて、産出が増えた?」


「はい」


「面白い」


彼は、書類に何かを書きつけた。


そして、顔を上げて言った。


「では、こう考えられますね。

その手法を使えば、もっと働かせられる。

税収を、さらに増やせる」


俺は、その言葉に、体が固くなった。


「もっと働かせる?」


「ええ。効率が上がったなら、その分、生産を積める。

王国全体に広めれば、大きな利益になります」


彼の目は、まっすぐだった。


悪気は、ないのかもしれない。


でも、彼は「人」を見ていなかった。


   *


「それは、違います」


俺は言った。


セオドールの眉が、わずかに動いた。


「違う?」


「効率を上げたのは、もっと働かせるためじゃない。

働く人を、倒れさせないためです」


俺は、寝込んでいた徒弟たちを思い出した。


「この工房、少し前まで、子供が徹夜してました。

倒れる子が、何人もいた」


俺は、セオドールをまっすぐ見た。


「人は、数字じゃないんです。

壊れたら、二度と戻らない」


   *


「感情論ですね」


セオドールは、静かに言った。


「気持ちはわかります。

ですが、国は感情では回りません。

数字で回るのです」


「その数字を作ってるのは、人ですよ」


俺は引かなかった。


「働く人が倒れたら、数字も止まる。

それが、わからないんですか」


「では聞きますが」


セオドールは、冷静だった。


「あなた自身は、休みなく働いていると聞きました。

矛盾していませんか」


痛いところを突かれた。


でも、答えは持っていた。


「俺は、特別なんです」


俺は言った。


「俺の加護は『残業無限』。

疲れないし、倒れない。

でも、他の人は違う。

俺と同じように働かせたら、みんな壊れます」


セオドールは、しばらく黙った。


そして、首を振った。


「……その特別さを、証明するものはありますか」


俺は、答えに詰まった。


数字では、示せなかった。


   *


そのときだった。


「ハルさんを、責めないでください!」


声が飛んだ。


リゼだった。


いつの間にか、店から出てきていた。


「ハルさんは、うちの店を救ってくれました!

それに、この工房の子たちも!」


早口で、必死だった。


「あの人がいなかったら、ミナちゃんは、今も……!」


「そうっしょ!」


ミナも、前に出た。


いつもの、ぶっきらぼうな声で。


「あたし、あんたに言われるまで、休みなんてなかった。

ハルが、変えてくれたんだ。

数字とか、知らないけど!」


二人が、俺の前に立っていた。


俺を、庇うように。


   *


セオドールは、その様子を見ていた。


表情は、変わらなかった。


でも、目が、少しだけ揺れた気がした。


「……なるほど」


彼は、書類を閉じた。


「あなたのやり方が、人に慕われているのはわかりました。

ですが、私は数字で判断する者です。

慕われているかどうかは、判断の材料になりません」


彼は背を向けた。


「今日は、これで失礼します」


そして、去り際に、こう言った。


「もし、あなたの理念が正しいと言うなら。

それを、数字で証明してみせてください。

そうすれば、私も考え直しましょう」


去り際に揺れたあの目は、どこか迷っているように見えた。


   *


セオドールが去ったあと。


俺は、二人に礼を言った。


「ありがとうな。庇ってくれて」


「当然です!」


リゼが、頬をふくらませた。


ミナは、ぷいと横を向いた。


「べ、別に。あんたのためじゃないし」


でも、耳が赤かった。


俺は、笑った。


でも、心の中では、あの言葉が引っかかっていた。


数字で、証明しろ。


俺のやり方が正しいことを。


感情では、あの男は動かない。


「まいったな」


俺はつぶやいた。


数字は、前世で、俺を苦しめたものだった。


でも今度は――


その数字で、俺は戦わないといけないらしい。


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