↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残業無限、始めました。〜過労死した俺が異世界で世界一の働き方改革をする話〜  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

第4話 働かせてください、ただし俺のやり方で


翌朝。


俺は工房区の路地を歩いていた。


リゼに頼まれた、材料の受け取りだ。


角を曲がったとき、目に入った。


小さな女の子が、大きな木箱を抱えて、ふらついていた。


栗色の髪。

まだ、十四くらいか。


箱が、大きすぎる。


その子の体では、支えきれていない。


「危ない!」


俺は駆け寄った。


箱が傾いた瞬間、下に手を入れる。


どすん、と重みが俺の腕に来た。


その子は、尻もちをついた。


「……っ」


肩で、息をしていた。


顔が青い。


目の下に、濃いクマ。


前世の俺と、同じ顔だった。


   *


「大丈夫か」


俺は箱を地面に下ろして、その子に手を差し出した。


でも、その子は俺の手を取らなかった。


自分で立ち上がって、俺をにらんだ。


「……なに」


ぶっきらぼうな声だった。


「触んないでよ。あたし、仕事あるし」


「その体で? 顔、真っ青だぞ」


「関係ないっしょ」


その子は箱をまた持ち上げようとして、よろけた。


「無理するな」


俺が支えようとすると、その子は手を払った。


「あんたに、なにがわかんの」


鋭い声だった。


「どうせあんたも、あいつらと一緒っしょ。

優しいふりして、こき使うんだ」


俺は、その言葉に何も言い返せなかった。


この子は、大人に裏切られてきた。


そう思わせる目だった。


「名前は?」


俺が聞くと、その子は少し迷ってから答えた。


「……ミナ」


「ミナ。俺はハル」


「知ってる。契約書を読む変なやつっしょ」


もう、噂になっていたらしい。


   *


ミナは、ゴードン工房の徒弟だった。


聞くと、話したくなさそうに、でも少しずつ答えた。


「親が、借金作って。

そのカタで、あたし、ここで働いてる」


「いつから?」


「二年前から」


十二の頃からか。


「休みは?」


ミナは、鼻で笑った。


「そんなの、あるわけないっしょ」


俺の胸が、ぎゅっとなった。


前世の俺と、同じだった。


いや、俺よりひどい。


俺は大人だった。

この子は、まだ子供だ。


「今日も、徹夜?」


「たぶん。箱、あと三十個あるし」


ミナは、あきらめた顔をしていた。


期待するのをやめた顔。


俺は、その顔を、放っておけなかった。


   *


その日、俺はゴードン工房に向かった。


「なんの用だ」


ゴードンは、俺を見て顔をしかめた。


先日、恥をかかせた相手だ。


嫌そうなのは当然だった。


「提案があります」


俺は言った。


「俺を、期間限定でここで働かせてください」


ゴードンの眉が上がった。


「なんだと? この前は断ったくせに」


「条件があります」


俺は指を立てた。


「工房の作業量、全部、俺が引き受けます。

その分、徒弟の子たちの仕事を減らしてください」


ゴードンは、しばらく俺を見ていた。


そして、にやりと笑った。


「ほう。つまり、おまえがタダみたいな給金で

全部やってくれるってことか」


「給金は最低限でいい」


俺がそう言うと、ゴードンの笑みが深くなった。


「いいだろう。眠らん職人が、勝手に働いてくれるなら

こっちは損はせん」


彼は、俺の狙いに気づいていなかった。


「働けるだけ、働けェ」


まさにそれが、俺の望みだった。


   *


なぜ、こんなことをするのか。


自分でも、少し考えた。


答えは、すぐに出た。


あのミナの顔だ。


期待するのをやめた、子供の顔。


前世で、鏡に映っていた、俺の顔。


誰かが、あのとき手を差し出してくれていたら。


俺は、違ったかもしれない。


だから――今度は、俺がやる。


「まあ、やっとくか」


俺はつぶやいて、袖をまくった。


   *


その日から、俺は工房の作業を引き受け始めた。


徒弟たちの分も、まとめて。


箱を作る。

木を削る。

釘を打つ。


疲れない体で、次々にこなしていく。


最初、ミナは信じていなかった。


「なにたくらんでんの」


作業の合間に、俺をにらんできた。


「たくらんでない。君の仕事、減らしてるだけ」


「意味わかんない。なんで?」


「疲れないやつが、疲れるやつの分をやる。

それだけの話だよ」


ミナは、ふん、と鼻を鳴らした。


でも、その日。


日が暮れる前に、ミナの仕事が終わった。


初めてだった。


   *


「……終わった」


ミナが、自分の手を見て、つぶやいた。


「まだ、明るいのに」


外は、夕焼けだった。


いつもなら、真っ暗になるまで働いていた時間。


「帰っていいぞ」


俺が言うと、ミナは戸惑った顔をした。


「帰るって……どこに」


その一言が、俺の胸に刺さった。


この子には、帰る場所すら、あいまいなのかもしれない。


「じゃあ、飯でも食っていくか。

リゼの店、近いから。あいつ、料理うまいぞ」


ミナは、しばらく黙っていた。


そして、ぽつりと言った。


「……なんで、あたしなんかに」


俺は、少し考えて、答えた。


「昔の俺に、似てるから」


ミナは、意味がわからないという顔をした。


でも、それ以上は聞かなかった。


   *


その日、ミナはリゼの店で夕飯を食べた。


最初はおどおどしていたけれど。


温かいスープを一口飲んで。


少しだけ、肩の力が抜けた。


リゼが優しく話しかけて。

ミナが、ぼそぼそと答えて。


その様子を、俺は少し離れて見ていた。


悪くない、と思った。


でも――


俺は、まだ気づいていなかった。


俺一人が頑張るこのやり方に、

限界があることに。


翌日から、工房の他の徒弟たちが、

一人、また一人と、体調を崩し始めることに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。