5人目
「彼こそは報復の相手だろうかーー」
彼は揶揄いのつもりだった。けれども、やっていくうちに度を越してしまった。
自分のほうが偉いと思い込んでいた。日の浅い者を見下してた。けれども、それは違うことに最後まで気づけなかった。
日の浅い者が頭角を現したのである。それから、上への信頼は逆転してしまった。
相手を揶揄うことでしか有利に立てなくなったのである。遂には憎しみの的へと変わり果てたのだ。
度を越えた揶揄い。相手への侮辱と化した。死神に魅入られるほどにまで。憎悪を募らせるほどにまで膨れ上がったのである。
殺意には至らずとも、その段階の手前まで至った。その事実は変わらないのだ。
彼は自分の不在の影響を重く見積もっていた。けれども、そんなことは無かった。周囲は彼の不在を全く気にすることなく廻っていた。変わることなく。
しかし、頭角者である日の浅い者が不在になると、順調に廻ることは無かった。どこか軋んでいたのである。
それが彼の劣等感を刺激したのだろう。全てが彼の望む通りには行かなくなったのだ。
自分がどこに行っても軽視されるという事実。それに耐え切ることができなくなった。日の浅い者が来るまでは、そんなことなかったのに。
全ての歯車が狂い始めた。日の浅い者のせいで。その者の指揮を嫌うようになった。しかし、その者が不在の時は、彼は大変な目に遭った。
周囲との連携が取れなくなっていたのである。いつの間にか変わってしまっていた。何もかもが。
それが彼の劣等感を刺激することになっていたのだろう。日の浅い者を貶めることによってのみ満たされることは無かった。
増えていく作業量に耐え切れなかった。 金貨もパチンコに溶かしていく日々。
そんな彼に対して、未来は微笑みをかけることすらしない。ただ冷たく厳しい顔を向けるばかり。
日の浅い者を嘲る日々は唐突に終わりを告げる。彼に出された移動の指示。それに逆らうようにして、職場を辞めたのだから。
彼を雇うものはいるだろうか。日雇いの日々を送ることになる。それは誰も知る由もしないこと。
新たな作業量。かつてと比べて下がった金貨。微笑まない未来。
彼の望んだとおりに事は運ばない。ただ残酷な日々を送るだけ。
彼が元いた職場は濃密な黒へと転じた。漂白することは叶わない。ただ灰のままの日々を送ることになる。
今となってはもう、彼のことを知る者も、覚えている者もいない。彼があの地に残したものは何一つ残っていないのだから。
過去を呪っても無意味。現在に愚痴っても同じく。時の女神たちは彼に対して、ただひたすらに冷酷な厳しい目付きを示すだけなのだからーー。




