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1人目

「彼こそは報復の相手だろうかーー」

 彼は悪夢を見ていた。どうしてなのか分からない。悪夢によって彼は日に日に衰弱していった。

神経がピリついていた。イライラが増している。減らすことはできなくなっていた。

 通っている病院の先生に相談しても解決しなかった。一体どうして、自分は悪夢を見続けているのだろう。

 夜が怖い。眠るのが怖いのだ。どうやっても何をやっても、毎晩悪夢を見てしまうから。

彼の対策を嘲笑うようにして、悪夢はやってくる。彼を苦しめるためだけに。

 彼が見る悪夢。それは彼の吐いた暴言に対して、相手が豹変するもの。そして、豹変した相手に暴力を振るわれ、ケガを負うというもの。しかも、リアルに。夢だというのに怖い。暴力のラッシュ。殺されるかもしれないという恐怖。その悪夢が毎晩、彼を苦しめるのである。

 起きても悪夢のせいで冷や汗をかいている。息も絶え絶え。眠っているのに休まらない。しかし、起き続けることもできない。どこかで必ず眠らなければならない。それが人間なのである。健康でいるためにも。

 だが、彼はそれができないでいた。飲んでいる薬の関係もある。酒による酩酊もできない。彼は人知れず詰んでしまっていた。

 イライラが加速する。物に八つ当たりしてしまう。そして、罪悪感に悩まされる。負のループに陥ってしまっていた。

 解決策は無いだろうか。解決できれば安眠できる。富があっても眠れないのでは、仮初の金持ちである。富と引き換えにしても安眠できれば良いのだが。その解決策に対して彼は葛藤していた。

 富を出せば安眠できるかもしれない。悪夢を見なくて済むのかもしれない。しかし、彼は惜しんでしまっていた。

せっかくここまで貯めることのできた富を差し出さねばならないことに。再び貯め直すという選択肢は彼には思い浮かばなかった。睡眠の質の低下が招いてしまっていたのかもしれない。

 悪夢はさらに彼を苦しめる。蓄えていた富に羽が生えて、全部飛んでいってしまう。どれだけ羽を毟っても、すぐに生えて飛んでいく。毟った側から。彼の行動が無意味であることを突きつけるようにして。

 せっかく眠ることができたとしても、そのすぐそばから悪夢がやってくる。いたちごっこのようにして。

逃れたいのに逃れられない。負のループ。それが彼をさらなる奥底へと引きずり込む。

 衰弱しきった彼を、誰もが無視していく。彼の日常で関わる人全員が。彼のことを知らない。眼中にない。存在していないもの。そのように扱われていく。朝から晩に至るまで。誰にも心配されない。気に留めることも無い。空気のように扱われていく。忘却の悪夢。それが彼を毎晩襲っていた。

 起きてもどちらなのか分からない。心配されるか無視されるかの二択が常に彼に晒していく。自分の意思で決めることのできない二択に。

 それは彼の心を、精神を狂わすには十分だった。突然の彼の発狂に周囲は戸惑うばかり。そして、それは彼に関わる人全員に伝えられた。

 彼はもはや働けない心身になってしまった。狂ってしまった者に任せることのできる仕事は無いのだから。

 悪夢の存在は彼を狂わすことに成功した。その悪夢を誰が見せていたのか。もはや分からない。

あるいは彼が重ねていった因果によるものかもしれない。それが応報として彼に臨んだかもしれない。

 結末は誰にも分からない。誰が仕組んだなんて。

 彼の発狂を臨んだものは一体誰なのか。あるいはこの紡がれた物語は、虚構なのか。悪夢は最初から存在していたのか。彼が毎晩見た幻覚だったのか。

 真相は不明。夢の操り手は夢を望むままに見せることができるのだからーー。


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