第13話 牛若丸(牛) *三月*
今日も今日とて走り込みに出た。
「案外、熱血なヤツだ」
一日と欠かさず朝の五時には起きて山へと駆けて行った。
オレも二日は付き合ったが、ただ走るのも飽きて離脱させていただきました。チート級に強くなると山を破壊するくらいやらないと動いたって感じにならないのだ。
二時間の走り込みをしてきたら異世界で風呂に入らせ、朝食はこちらで食べる。
体を動かすようになったからか、まあ、よく食べるよく食べる。米の消費が凄いことになっているよ。
米は近所や山を下りたところで買っているようだが、二人だと消費は少なく、米びつに入っているくらいの量しかなかった。それがもうなくなる寸前だった。
「戸吉からもらって来るよ」
とーさんの幼馴染みで米農家をやっているそうで、近所とそこから米を買っているそうだ。
「純の顔も知ってたりします?」
「そうだな。小学校は下だったからな。さすがに純と三月の顔が違うことはわかるはずだ」
「山の下には行かないほうがいっか」
「ああ、そのほうがいい。あっちからここに来ることは滅多にないからな、顔を合わせるときは親戚と言っておけばいいさ」
純の姿をしたゴーレムを創っておくか。いろいろ仕事をさせたり、身代わりにしたりと使い道はあるからな。
「三月。米なら米沢まで買いに行って来るぞ。昔の友達が農家やっているから」
「へー。友達いたんだ」
引きニートのクセに生意気な。
「失礼な。昔は活発な子供だったんだよ」
「あはは、悪い悪い。で、米沢って、どこだ?」
なんか聞いたような記憶はある。なんかで有名なところじゃなかったっけ?
「山形の米沢だ。隣の県だが、汽車なら四、五十分だな。ここからなら二十キロとちょっとってところだ」
「案外近いんだな」
「米、酒、味噌、果物が有名だ。あと、紅花だな。ただ、内陸部だから雪が多くて海のものは高いそうだ」
そうなんだ。もっと日本の地理を勉強しておくんだったよ。
「収納の指輪をやってもいいか?」
「内緒に出来るヤツなら構わんが、あんまり満杯に収納すると魔力の減りが早くなる。適度なら三年は余裕で持つ。長く使いたいならオレのことも言っておけ。挨拶しに行ったときに魔力を補充するからさ」
米が買えるなら仲良くしておいたほうがいいだろう。
「わかった。そう話しておくよ」
「着替えて行けよ。それじゃ目立つから」
「わかってる」
飛行は問題なくなったので見送ることはしない。今日は牛の世話をしに渡辺さんちに行くからだ。
食用の牛を十頭飼っている家で、そろそろ子が産まれるとかで手伝いをお願いされたのだ。
牛の世話の仕方を教えてもらったり、畑の手伝いをしていたら元気な仔が産まれた。雄のようだ。
どうやら雄は人気がないようだ。去勢すれば食肉になるそうだが、売るとしても安く、運ぶのが手間だというのでオレがもらうことにした。
「お前の名前は牛若丸だ。立派な雄にしてやるからな」
去勢などはしない。立派に育てていい雌を連れて来てやるからな。
牛若丸に付与魔法を施した首輪をつけて山の中で飼うとする。
「熊が襲って来たら吹き飛ばしてやれ」
さすがにまだ産まれたばかりなので無茶だが、オレの魔法なら熊にでも勝てる。知能強化も施しておくか。
「家の前の土地、買えんかね?」
かなり広い土地で、もう朽ちた家がある。使わないならオレが使いたいものだ。
「──ただいま!」
三日振りに純が帰って来た。笑顔で。そんなに仲のいい友達だったのか?
「米沢の質屋で銀の皿やスプーンを金に換えてきたぞ。十万円になった」
「そんなに? 疑われたりしなかったのか?」
結構な量になっただろうに。盗品と思われても不思議じゃないだろうよ。
「まあ、疑われはしたが、最終的には買い取ってくれたよ。物がよかったみたいだからな」
「そうか。昭和は厳しくないんだな。身分証明も厳しくなかったし」
よほど裏の稼業でなければ写真付きの身分証明が必要になるからな。高校生だと親の許可も必要だし。
「あと、指輪の代金に米と酒、味噌を一樽をもらったよ。米は百キロ。酒は一升瓶で十本だ。かなり奮発してくれたよ」
米の値段は知らないが、百キロって凄い量じゃないか? とんでもない量を買って来たものだ。
「それは純が持っていろ。必ず米が恋しくなるときが来るから」
オレも最初の数年は米が夢に出て来たくらいだ。十年くらいしてなくなりはしたが、今はその反動で米を毎日食べているよ。
「いや、また秋にもらいに行くから三月が持ってろ」
収納の指輪を渡されたのでありがたくもらっておくとする。釜炊きをマスターしたいと思っていたからな。
「そっちはどうだ? お袋は庭坂に行ったのか?」
「昨日、出掛けたよ。一泊してくるって言ってたから夕方には帰って来るんじゃないか? とーさんはゆっくりしてこいとは言ってたが」
かーさんにも収納の指輪は渡してある。山の幸を持たせたから連泊しても嫌がられたりはしないはずだ。
「そうか。オレは走ってくるよ。三日も走り込みをサボったからな」
「休みは挟めよ。根性だけでは強くなれん。体を休めることも大切なんだからな」
「ああ、わかっているさ」
本当か? と疑いたくなるくらいの笑顔を見せた。昭和の男は頭のネジが緩んでんのかね……?




