第12話 根性根性ド根性 *純*
自分の不甲斐なさに涙が出てくるが、それで放り投げるなんてことはしない。もう一度だ!
「今日は終わりだ。かーさんたちと鱒寿司を食うとしよう。明日は朝からやるぞ」
「おう!」
そうだな。無茶をすればいいってものではない。万全の体調で挑むとしよう。
「皆で夕食なんて久しぶりだね」
お袋の言葉に自分がやってきたことを思い出した。
「……お袋、親父、バカな息子で悪かった……」
今さらではあるが、両親に頭を下げた。許されないことをしたバカな息子で申し訳ない。
「まあまあ、そのお陰でオレは助かってんだから気にするな。親孝行はオレがやらしてもらうから。純はあちらで幸せになれ。ダメなら帰って来ても構わないぞ。あっちはあっちで大変なところだしな。ほら、暗いの終わり。とーさん、ビールをどうぞ。かーさんも飲もうよ」
なんて明るいヤツなんだか。オレには出来ん芸当だよ……。
だがまあ、オレなんかより親父やお袋を大切にしてくれそうだ。バカなオレは消えるほうが二人のためだな……。
「かーさん。オレ、新聞配達か牛乳配達をしてみたいんだけどさ、中庭ってところに伝手とかあったりしないかな? もちろん、純として働くから純の顔を知らないほうがいいんだけど」
「新聞配達ならあたしの幼馴染みが嫁いだから話は通せるよ。純の顔も子供の頃に見ただけだから大丈夫だろう」
中庭なんて通過点でしかない。降りたのもいつか思い出せんよ。
「じゃあ、お願いしていい? 急がなくてもいいからさ。あ、これ、お金。生活費に使ってよ」
千円札を十枚くらい渡した。
「こ、こんなにいいのかい?」
一万だったら一月の稼ぎになるはずだ。こんなところでは一万円もあればお釣りがくるだろうよ。自給自足に近いところだからな。
「もっと稼いで来るから好きに使ってよ。出来れば料理を教えて欲しいから台所を変えてもいいかな? 家って改築するのに許可とか必要?」
「ふふ。忙しい子だね」
「農協さんに聞いておくよ」
なんか疎外感が半端ない。まるでオレが部外者のようだ……。
寂しくはあるが、これも自業自得だ。三月に任せるとしよう。
夕食が終わり、オレは異世界の家へと向かう。一人で寝るのは不安だが、布団に入ったらすぐ眠りについてしまい、三月に起こされるまでぐっすりだった。短時間睡眠のオレが……。
「……すまない。寝坊したか……?」
「いや、まだ七時だ。疲れているならまだ寝ててもいいぞ。昨日は無茶させたしな」
「いや、起きる。早く飛べるようになりたいから」
今日中に飛べるようになってやる!
「じゃあ、井戸で顔を洗ってこい。あと、風呂には入れよ。臭いとモテないぞ」
「オレがモテたところで養ってやる甲斐性なんてないよ」
女が嫌いってわけじゃないが、縁のある存在ではなかった。オレは無愛想だったから話し掛けられもしなかったよ。こちらから話しに行くこともなかったし。
「とんだコミュ障野郎だな」
コミュ障がなんなのか知らんが、たぶん、それなんだろう、オレは……。
「あと、朝は走るぞ。異世界では体力がないとやって行けんからな。最低でも十キロは走れ」
「十キロでいいのか? まあ、今は体力が落ちたから十キロはキツいと思うが、五キロならまだ余裕で走れるはずだ。昔は疎開して来たヤツらと山を駆け巡ったものだ。熊から逃げたこともあったっけな~。ふふ」
「しょ、昭和ってスゲーな。オレの子供の頃なんて家でゲームばかりしてたぞ」
それは都会だからだろう。オレらは遊ぶ場所が山しかなかったんだからな。
「体力が必要なら走り込みをするか」
昨日、上手く出来なかったのも体が鈍っていたからだ。なら、走り込みをしてあの頃の体力を取り戻してやる!
「その意気だ。ブーツを調整さしたからこれを履いて走れ。象に踏まれても大丈夫な魔法をかけてある。マグマの中でも溶けないから」
「どんな状況で必要になったんだよ?」
「毒の沼を歩くときように作ったものだ。崖から飛び下りても衝撃を拡散してくれるぞ」
当たり前のように口にする三月。異世界の常識に毒されすぎだろう。いや、その常識の中で生きて行かなくちゃならないんだから慣れるのはオレか。
長靴を履いてみると、不思議なことに足にぴったりとくっついた。どこにも緩みもなく、キツくもない。足と一体化したような感じだ。
「元は疾走のブーツだが、体力を強化するために片方一キロほど重くした」
右足を上げようとしたら確かに重かった。
「とりあえず、それを履いて十キロ走れ。よりよく体力を付けるために山を走るのがいいかもな。異世界はまともな道は少ないから」
うん。これなら体力付きそうな感じがする。要は鉄下駄修業と同じだ。
「まずは駅まで下りても登って来るを三回やるか。意気なり体に負担を掛けても悪いからな。徐々に体を慣らさせるとしよう」
「わかった。徐々にだな」
半年はお互い世界に慣れるためにするってことだ。慌てず騒がず着実に力を付ける。やってやるさ!
「配達が決まるまではオレも付き合う。一人だとつい無茶をしてしまうものだからな」
「ああ、頼む」
自制心も養わないといかんってことだろう。了解だ!
元の世界に戻り、オレが先頭になって駅へと向かって走り出した。




