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第6話 不思議な生き物との出会い

 俺が王都を出発して二日目の朝が来た。久しぶりの野営も特にトラブルもなく過ごすことが出来ている。目的の町まではまだまだ遠いが、馬車で三日ほどの場所に小さな村があると聞いていたので楽しみにしている。


「馬車での旅は確かに楽だが、こうしてのんびりと歩く旅もいいものだ」


 旅人からよく聞く言葉に『馬車で一日の距離』とあるが、馬車運行には危険回避のために護衛が同行している。基本的に護衛は馬車の周りを歩いて進むので馬車といえども徒歩で進む速さとそう変わらない。


 乗合馬車も行商馬車も通らない街道は人の気配もなく、ときどき鳥の鳴き声が聞こえるだけで静かなものだった。気のままに休憩を取り、収納袋から取り出した食事を食べながら俺は現役だった頃を思い出して傍に置いた剣を眺めてつぶやく。


「――コイツにはずいぶん世話になったもんだ」


 俺が思いにふけっていると少し離れた場所で何かが争う音が聞こえた。人の悲鳴や怒号は聞こえて来ないので旅人が襲われたわけではなさそうだ。


「獣同士の喧嘩でもしているのか?」


 暇を持て余していた俺はその音に興味を持ち、剣を掴むと身体強化魔法を使い音の方へと走り出した。


 ――ガサガサ。


 走り出して一分も経過しただろうか、音は大きく聞こえ街道から少し入った雑木林で複数の獣が争うのが見えた。遠目にみると複数の狼が対峙しており、激しい戦いを繰り広げている。


「縄張り争いか、それとも獲物を取り合ってのことなのか?」


 自然の中で獣が争うことは特に珍しいことではない。人が襲われていないのであれば無視をして立ち去っても問題にはならないだろう。しかし、獣が争うなかで違和感を覚えた俺は奴らの間に倒れている白毛の存在に気付いた。


「あれはなんだ? あんな白毛の生き物なんて見た事ないぞ」


 興味を持った俺は獣たちを追い払うことを決め、牽制の魔法を放つべく詠唱を始めた。


「熱き炎で彼の者を貫け。炎の矢(ファイヤーアロー)


 俺が呪文を唱えながら標的を指差すと十センチほどの炎の矢が宙に出現し、凄まじい速度で標的の獣を討ち抜いた。


「ギャン」


 胴体を貫かれた獣は悲鳴を上げてその場に倒れる。すると傍にいた別の獣がこちらに気づき大きくジャンプをして襲いかかってくる。俺の存在を脅威と感じたのだろう。


「スピードはまずまずだが、攻撃の動作が直線的過ぎるな」


 俺は向かって来た獣に対して剣を構え、タイミングを合わせると右に大きく薙ぐように振る。


 ――ザシュ


 俺の剣は襲いかかって来た獣の首を簡単に斬り飛ばすと次の襲撃に備える。だが、いつまで経っても攻撃は来なかった。


 ザッザッザッ


 どうやら、襲い掛かってきた獣が奴らのリーダーだったようで残った獣たちは蜘蛛の子を散らすように方々へ逃げていったようだった。


「面倒が少なくて良かったな」


 俺は傍に倒れている獣に目をやると収納袋を取り出して死体を収めていく。冒険者をしていると倒した獣などは貴重な食糧となることが多い。その場に捨て置くなど勿体ないことはしないものだ。


「さて、あの白毛の生き物はなんだったのだろうか……」


 獣の死体を収納した俺は木の根元に転がっている白毛の生き物を見つけ、片膝をついて覗き込んだのだった。



「今までに見たことのない生き物だが、あいつらにやられて死んでしまったのか?」


 俺は倒れている生き物に手を伸ばしてその身体に触れてみる。まだ、身体は温かく死んで間もないのが分かる。


「もう少し早く気が付けばな。まあ、仕方ない。死体をギルドに持ち込めば何か分かるだろう」


 俺はつぶやくと、収納袋をその生き物に向けて収納を試みた。


「あれ? 入らないぞ。もしかして……」


 収納袋にはなんでも入ると思われているが実際には生き物が生きていると入れることが出来ない。この生き物が収納出来ないということは生きているという証拠になるのだ。


 きゅるるる


 その時、目の前の生き物から音が鳴った。


「何の音だ?」


 きゅるるる


 また、同じ音が鳴り、目の前の生き物の身体がピクリと動く。やはり生きていたようだ。


「もしかして怪我でもしているのか?」


 俺がその生き物を抱え上げるとその腹からさっき聞いた音が鳴り響く。


 きゅるるる


「まさかこいつ腹が減って倒れただけか?」


 俺はその生き物に襲われるとは微塵も考えずに収納袋から特別に作ったスープを取り出すとその生き物の口に流し込んだ。


「うにゃにゃあ!」


 スープを流し込まれた生き物は叫び声をあげると俺の手から飛び降りて地面を転がりまわる。


「あ、やっぱり生きていたか。もしかしてスープが熱すぎたのか?」


 地面でのたうち回る生き物を見て俺はため息をついて魔法を唱えた。


「此の者と意思を通ずることを求める。翻訳(トランスレーション)


「あぢゃぢゃぢゃ!」


 俺の魔法が発動すると転がり回る生き物の声が認識出来るようになる。予想通り飲ませたスープが熱かったらしい。だが、それほどではないと思ったのだが……。


「ほら、水だ。飲みな」


 俺は取り出した水を生き物に飲ませるとようやく落ち着いたようで息を吐いてまた倒れたのだった。


「まるまると太っているが良く見ると猫のようにも見えるな。ちょっと確認してみるか」


 先ほどの動きを見てもとても危険な生物には見えない。俺は情報を読み取る魔法でその生き物がなんなのかを見てみることにした。


「我が手にする未知に対してその真実を示せ。確認(チェック)


 ――白猫魔。魔力を秘めた魔獣。群れることを嫌い単独行動する習性がある。


「こいつは珍しい。この見た目で魔獣の仲間なのか。食ったら美味いのかな?」


 俺がそうつぶやくと倒れていた白猫魔の耳がぴくりと動き、次の瞬間声が聞こえた。


「ば……」


「ば?」


「ばかもの!! 神聖なる我を食おうとはなんたる暴挙! 恥を知るといい!」


「おおっ!? 喋った」


 意思の疎通魔法を使っていたとはいえ、これだけ流暢に聞き取れることは稀で普通はカタコトで返してくるのがせいぜいなので普通に驚きを隠せなかった。


 きゅるるる


 威勢よく叫んだ白猫魔だったが、またその腹が鳴る。


「ははは。威勢はいいが腹が減って動けないようだな」


 ぐぬぬと歯ぎしりが聞こえてきそうな顔を見て俺はおかしそうに笑う。もう全く脅威は感じないので警戒を解いて俺はスープを取り出し、魔法で温度を下げてから白猫魔の傍に置く。


「ほら。今度は熱くないから安心して食え」


「にゃにゃにゃ!」


 白猫魔はスープの匂いに釣られて飛び起きると凄まじい勢いでスープを飲み干した。


「足らぬ」


「は?」


「こんな量じゃ足らぬと言ったのだ」


 ぺろりと舌なめずりをしながら白猫魔は俺に向かってそう言い放つ。その上から目線の発言に俺のこめかみがぴくりと動く。


「なるほど。それだけじゃあ足りないと言うのだな。ならば目の前にある食材を使って調理をしてやろうか」


「ほう、今から作るというのか。それは楽しみ……。まて、今《《目の前にある食材を使って調理する》》と言ったな? お前の目の前にある食材となると……。まさか、我?」


「ほほう。良く気が付いたな。俺の目の前にはまるまると太った美味そうな生き物が居るじゃないか。きっといい出汁が出ることだろう」


「ま、ま、待つのだ! 我ははっきり言って激マズと言われておるのだ。食ったら絶対に後悔するぞ」


 俺の言葉を真に受けた白猫魔はその長い毛を逆立てながら後ずさりを始める。


「ぷっ、ははははは! 冗談だ。いくら腹が減っていても意思疎通が出来る奴を調理するつもりはない」


 俺はそう言って腹に手を添えたまま笑い続けたのだった。

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