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第36話 黄金スープの作り方

「――今夜は臨時休業にするぞ」


 俺は店に帰るとアーネットにそう告げる。


「何かあったのですか?」


「ギルド長からスープの出前依頼があったんだ。三人分だが作るのに少しばかり時間がかかる」


「それって私に作ってくれたような薬なのですか? まさか、今から素材の収集をするとかでは?」


「さすがにそれはないよ、いくらなんでも間に合わない。心配しなくても素材なら準備してあるから調理をするだけだ」


 俺は収納袋から素材を取り出しながらアーネットに告げる。


「ただ、今の俺だけでは完成させることが出来ない。すまないが手伝ってくれないか?」


「私が……ですか? 手伝うと言っても調薬のことは何も知りませんよ?」


「なに、アーネット一人で作ってくれと言ってるわけじゃない。今回の調理には多くの魔力を使うんだが俺の魔力量だと白銀のスープまでは作れても黄金のスープは無理なんだ。いきなりこんな重要なことを任せてすまないと思うが重篤な患者のために協力を頼む」


 俺がそう言ってアーネットに頭を下げると彼女は慌てて俺の肩に手を置いて叫ぶ。


「グラードおじさんには何度も助けてもらいました。少しでも恩返しが出来るならいくらだって手伝います! だから頭を上げてください!」


「ありがとう。今から準備をするからアーネットは店のドアに臨時休業の紙を貼っておいてくれ」


「はい」


 俺は彼女が入口に向かうのを見送ると準備した素材の中から大きな核を手にしてつぶやく。


「まずは全ての元となる魔力水の抽出から始めるか……」


 大きな鍋一杯に魔法で精製した水を汲むと魔導コンロに設置する。準備した魔獣の核を静かに沈めると魔導コンロを点火した。


「――入口に貼り紙をしてきました」


 いいタイミングでアーネットが戻ってきたので高濃度の魔力水の作り方を説明することに。


「基本的には蒸留水を作る方法と変わらないが、大きく違うのは魔核に魔力を流し続けないといけないことだな。俺もいろいろと試してみたが、基本的な魔力量が足りなくて高品質のものは作れていないんだ」


「わかりました。ですが、魔力を送る時と止める時に合図が欲しいです」


「もちろん合図はするが、俺も一緒にやろうと思っている。二人ですれば時間短縮にもなるし、上手くいけば倍の量を生成することが出来るかもしれない」


 俺は鍋の上部に水蒸気を変換する魔道具を設置し、鍋を間にアーネットと向かい合って座った。


「よし、やってみようか。うまくいくコツは魔力を一気に流さないことだ。じわりと右手から左手に向けて流れるようなイメージをするといい」


 俺が見本を見せると水がゆらりと動くのが見える。それをじっと見ていたアーネットはそっと鍋の前に手を広げて小さく息を吐くと魔力の放出を始めたのだった。



「――こんな感じで大丈夫ですか?」


 アーネットが魔力の放出を始めると明らかに鍋の水に変化が起きた。俺だけの時はゆらりと揺れる程度だった水面がゆっくりではあるが渦を巻いているのが見えた。


「これは凄いな」


 アーネットの潜在能力は俺が思っていたよりも高いようだ。これなら十分に高品質の魔力水が出来ることだろう。


「そのままの状態を維持してくれ。あと一分もすれば出来上がるはずだ」


「はい。やってみます」


 俺は鍋の中をじっと見つめて魔力の濃さを見極める。


「もう少しだ。カウントダウンをするからゼロで止めてくれ。よし、五、四、三、二、一、ゼロ」


 俺の合図と共にアーネットが大きく息を吐いて両手をだらりと下げるのが見えた。相当に緊張して作業をしてくれたのが分かる。


「うん。最高の品質の魔力水が出来たようだな。これは俺一人では絶対に出来ないものだ。お疲れさん」


 俺はアーネットに労いの言葉をかけると次の準備を進める。黄金のスープに必要な材料は金ガチョウの卵と魔甲ガメの肉、その他に数種類の野菜。そしてそれらを煮込むための高濃度魔力水だ。


「最初に魔甲ガメの肉を柔らかくなるまで煮込む。串が刺されば大丈夫だから刻んだ野菜と匂い消しのハーブ草を入れて野菜がドロドロに溶け出すまで煮込むんだ」


「どのくらいまで煮込めば良いのかはどう判断したらいいのですか?」


「感覚的にはスプーンですくって野菜が形を成していなければ大丈夫だが、もう一つ見分け方がある。スープをゆっくりと掻き混ぜてみるとよく分かるが、渦の中心から魔力の光が浮き上がるのが見えるはずだ。初めは暗い色をしているが、十分に出来上がると白くなっていくのがわかると思う」


「見てもいいですか?」


「もちろんだ。出来る事なら憶えておくといい。これから先にもつくることがあるかもしれないからな」


 俺はそう言いながらアーネットを鍋の前に立たせてゆっくりと中身を掻き混ぜ始めた。


「良く見ていろ。そう長居時間は必要ないから」


 混ぜ始めてほんの数分で魔力の光が変化を見せる。それを見ていたアーネットが思わず声を上げた。


「色が変わってきました。これで完成なのですか」


「まだだ。この時点で最後のピース、金ガチョウの卵を入れてから混ぜ合わせると完成だ」


 俺は掻き混ぜる手を止めて卵を掴むとパカッと割って中身を投入して再度混ぜる。すると卵の黄身が綺麗な筋状の糸となって全体が金色に光輝いて見えたのだった。


「完成だな。作り方は知っていたが、こうして実際に作るのは初めてだったから少し緊張したが上手く出来て良かったよ」


「え? 初めて作ったのですか?」


「ああ。さっきも言ったが、高濃度の魔力水が確保出来なかったから作る機会が無かったんだよ」


「そうだったのですね。私の魔力が役に立って嬉しいです」


 アーネットはそう言って優しく微笑んだ。


「さあ、このスープを患者の元へ持っていくとしよう。どうだ、一緒に行くか?」


 俺は出来たてのスープを鍋ごと収納袋に仕舞い込むとアーネットにそう告げた。


「はい。お願いします」


 俺はその言葉にうなずくとすっかり日が落ちた町をギルドに向かって急いだのだった。

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