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第33話 大地の恵みで作る料理

「わー、すごーい! やっぱり魔法が使えると楽だし、楽しいですね」


 魔力量が増えたことによりアーネットは完全に魔法使いとして覚醒した。もともとエルフ族は風魔法特化とはいえ魔法適性の高い種族であるので四葉特性のアーネットに苦手な魔法はないようだ。今日も俺が教えた水やり魔法で楽しそうに裏の畑に植えた野菜に水をかけていた。


「そろそろトマトも色づいてきたし、収穫してみるか?」


 すっかり魔法の才能が開花したアーネットが練習台として選んだのが植物の育成だった。それなりに広い面積の畑だったためお店との並行作業は難しく、当初は全体の半分も作付出来ていなかったのだがアーネットが魔法を駆使して手入れなどを負担してくれたおかげで多種多様な野菜農園の完成となっていたのだ。


「いいですね。今日の食堂で出す料理の付け合わせに使ってみてはどうですか?」


「そうだな。うちに飯を食いに来る客はどうしても肉を中心に頼む傾向が強いからな。野菜もバランスよく食べさせるのも料理人の務めだ」


「なら、キャベツとにんじんも追加しておきますね。甘くて美味しいと人気でしたから」


 そうなのだ。裏の畑で栽培した野菜は市場で買ってきたものに比べて総じて美味い。特に甘みを強く感じるものが多く、苦みが苦手な子供たちからも人気だった。


「付け合せの野菜がトマトにキャベツとにんじんか。なら、今日はステーキじゃなくてハンバーグを作るとしようか」


「いいですね。仕込みが少し大変ですけど、大人にも子供にも評判いいですからね。あ、なら玉ねぎも必要ですよね」


 アーネットは慣れた手つきで必要な野菜の収穫をする。俺はその傍で大きな籠を抱えて待っているだけだ。


「俺も収穫を手伝おうか?」


「このくらいなら大丈夫ですし、私の楽しみを取らないでくださいよ。こうやって出来た野菜を収穫するのが一番楽しいんですから」


 そう言って収穫ハサミを見せるアーネットは本当に楽しそうだった。


「お、重い……」


 自分たちが食べる量だとそれほどでもないが、食堂で提供するとなるとそれなりに纏まった量となる。俺が籠を重そうに運んでいるとフッと手にかかっていた重さが半減した。


「えへへ。ちょっとは楽になった?」


 どうやら俺が重そうにしていたのを見てアーネットが風魔法で補助をしてくれたようだ。


「すまないな。助かるよ」


 今アーネットは補助魔法を簡単に使っているが、実際に安定して使えるようになるまでは凄かったものだ。とにかく魔法というものは力加減の調整が一番難しい。とにかく『目いっぱいに強く』が一番簡単で『このくらいに抑えて』は難しい。だが、今まで使えなかった魔法が使えるようになったアーネットにとっては反復練習が出来ることさえ至福の時間だったようだ。


「じゃあ、早速準備をするとしようか」


 素材を厨房に運び込むと俺は収納袋から新鮮な魔獣肉のブロックを取り出してまな板の上に置く。


「すまないが、玉ねぎの処理を頼んでもいいか? 風魔法を使えばみじん切りなんて簡単だろ?」


 今までは俺が自分で全ての下処理をしていたが、最近はアーネットもお客の入らない時間は厨房の手伝いをするようになっていたのだ。


「えー。玉ねぎのみじん切りって魔法でやっても目にしみるって分かってて頼んでいるでしょう? 私がそのお肉をミンチにするから玉ねぎのみじん切りはグラードおじさんがしてくださいね」


 アーネットは笑顔で俺から魔獣肉を奪うと玉ねぎの山を俺の目の前に積み上げた。

「ははは、アーネットには敵わないな。なら、ご希望通りに玉ねぎの処理は俺がするとしよう」


 俺はそう言うと皮つきの玉ねぎを水につけてから火の魔法を使う。こうしておくと外皮が剥けやすくなる上に目にしみにくくなるからだ。


「グラードおじさん。肉の処理が終わったわよ」


 俺が玉ねぎの処理を済ませて肉のつなぎとなる粉を準備していると綺麗にミンチとなった魔獣肉を抱えたアーネットが現れた。


「おおっ、綺麗なミンチになっているな。これならば舌触りのいいハンバーグになることだろう」


「えへへ。風魔法は一番練習したからね」

 四属性全てが主属性と言われてもやはりエルフの性なのかアーネットは最初こそ水まき魔法を習得したが風属性の魔法を優先的に練習していた。もちろん、それに関しては俺からは一切なにも言っていない。自由に学ぶことが楽しみながら力を伸ばす秘訣だと思っているからだ。


「さあ、仕上げていこう」


 そうして俺とアーネットは今日のメニューとして特製ハンバーグのタネを完成させたのだった。



「――ああ、今日もよく働いたぜ」


「なに言ってるんだ。今日も平和そのもの、ずっと見張りをしながら立ってただけだろ」


 夕食の時間になるとカールが同僚と共に店に入って来る。いつもの光景だが、やはりいいものだ。


「よう。今日のオススメはなんだ?」


 常連になるとだいたい座る席も固定化してくるようで、カールもいつもの厨房に一番近い席へと座ると声をかけてくる。


「今日は特製ハンバーグと採れたて野菜サラダだ」


「やったぜ。ハンバーグは久しぶりだな。そいつを二つ頼むぜ」


 俺は直接カールからの注文を受けてハンバーグを焼き始める。熱く熱したフライパンに少量の油を垂らすとジュッと音を立てる。そっとハンバーグのタネを置くとその音はさらに勢いを増して食欲をそそる匂いが厨房に充満していく。


「いい匂いにゃ。我の分はないのかにゃ?」


 その時、厨房の片隅で寝ていたのかホイップが足元に現れた。まったく、猫の手も借りたいほど忙しい時に何を言っているのか。まあ、だからといって本当に手伝えるはずもないがな。


「店が終わるまでおあずけだ。心配しなくても俺たちの分はとってある」


「こんなに良い匂いをさせているのに食えんとは。拷問に値するにゃ」


 ホイップは非常に残念そうな表情をするが、ここで我を通そうとしても無駄なのは理解しているらしい。大人しく厨房を出ると何処かに姿を消していった。飯が食えるようになればまた姿を現すことだろう。


「はいよ、お待ち。ハンバーグ定食だ。いいか、野菜もちゃんと食えよ。アーネットが丹精込めて育てた野菜だ、残したら出禁だからな」


 出来上がったハンバーグを俺自身がカールのテーブルまで運ぶ。軽口も常連で顔見知りのカールだからこそ言えるものだが、カールもそんなことは良く分かっているようで嫌な顔ひとつ見せずに笑って頷く。


「アーネットちゃんが育てた野菜を俺が残すとでも思っているのか? それどころかお代わりを要求するかもしれんぞ?」


 カールはそう言うとハンバーグを口に運ぶ。


「うめぇ! ふわふわの肉にじゅわっとした肉汁。口の中で広がる旨味はステーキとはまた違った美味さを持っている。そしてアーネットちゃんが育てた野菜たちの甘いことよ。ハンバーグの濃い味付けを程よく緩和してくれる役目を果たしている。正に絶品」


 おいおい、どこの料理評論家だよ。


「あ、カールさん。来てくれていたんですね。お野菜、美味しいでしょ?」


「ああ、凄く美味いよ。最高だ」


「ふふっ。ありがとうございます」


 アーネットはカールにお礼を言うと注文票を俺に渡して接客に戻っていく。


「楽しそうだな」


「ああ」


 終始楽しそうに話していたカールだったが、帰り際にふと思い出したように言った言葉が俺の記憶に残ったのだった。

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