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第32話 秘薬の効果

「ごめんなさい……」


 驚くことにアーネットから出た言葉は謝罪の言葉だった。


「どうした? なぜ謝るんだ?」


 俺は涙を流すアーネットの頭を優しく撫でながら問いかける。


「私がいるからグラードおじさんが危険な魔獣と戦うことになったのでしょ? 私の魔力量が少ないから迷惑ばかりかけることになって……」


 アーネットの声はだんだんと小さくなっていき、やがて下を向いて黙り込んでしまった。


「――馬鹿だな」


「え?」


「馬鹿だと言ったんだ。いいか? 俺が一体どれだけの間、魔獣と向き合ってきたと思っているんだ。確かに今回の相手は強敵だったかもしれん。だが、魔獣の魅力に取り憑かれた俺はどんな理由があろうと出会った魔獣と対峙する。その上でずっと勝ち続けてきたんだ、今さら危険だからと背を向ける選択肢はあり得ないんだよ」


 俺はポケットから取り出したハンカチでアーネットの涙を拭いてやると膝をついて彼女と目線を合わせて話を続ける。


「どんな事情や経緯があったとしてもアーネットは既に俺の家族も同然だ。家族が悩んでいたり苦しんでいるなら一緒に解決するのは当然のことだろ? それとも、家族だと思っていたのは俺の勘違いだったのか?」


 俺の言葉にアーネットの目に再び涙が浮かぶ。


「――いいの? 私みたいな『神に見捨てられた呪われた者』が家族で迷惑じゃない?」


「はっはっは! アーネットのどこが呪われた者だよ。心配するな、俺の中ではアーネットは『神に祝福されし女神』だ。追い出した里の奴らは絶対に後悔することになると断言してもいい」


「ありがとう。グラードおじさん」


 アーネットはそう言って顔をくしゃくしゃにしながら俺に抱きついて来たのだった。



「――どうだ、少しは落ち着いたか?」


 暫く泣きじゃくったアーネットに温かい紅茶を淹れてやると秘蔵の甘味菓子を出して彼女の前に置いてやる。


「はい。いきなり泣いてしまってごめんなさい」


 まだ少し赤くなった目を擦りながらも笑うアーネットを見て俺はホッとする。


「今回の薬は以前飲ませたものよりも効果が高いものになるはずだ。少なくともこれでアーネットの主属性は判明すると思うぞ」


 俺がそう言いながら薬瓶を彼女の前に置くとアーネットは両手で包み込むように持ち、そっと薬瓶の蓋を開けると一気に飲み干したのだった。


「――ううっ」


 身体の魔力を左右する秘薬を飲んだのだ、以前と同じようにアーネットは胸を押さえながら身体を巡る魔力を必死に受け入れようと歯を食いしばる。


「身体を巡る魔力を中心に集めるイメージをするんだ! いいか、この魔力は毒じゃない! 全てを受け入れる強い意思でねじ伏せろ!」


 俺は自らが過去に体験した際に感じたことを言葉にしてアーネットに伝える。


「ああっ!」


 アーネットの身体がガタガタと小刻みに震える。俺は震えるアーネットを抱きしめながら彼女の痙攣が収まるのを祈った。


「アーネット!」


 終わってみればわずか数分ほどだったが、その時は数時間も続いたと感じるほど恐怖にかられた時間だった。


「――もう、大丈夫です」


 見事に試練を抜けたアーネットは俺の腕の中で大きく息を吐いて無事を告げる。


「どうだ? 身体に不調はないか?」


「はい。身体を巡る魔力がここに集まっているのがはっきりわかります」


 アーネットはそう言って自らの胸に手を置いて目を閉じる。次の瞬間、彼女の胸で集まった魔力が緑色に輝いたのだった。


「綺麗な魔力だ。さすがエルフ族なだけある」


 輝く魔力の光を見ながら俺が素直な感想を言う。


「でも、私は落ちこぼれですよ?」


「以前はそうだったかもしれない、だが今のアーネットは光輝く宝石となった。あとは魔力操作をしっかり勉強すれば俺など足元にも及ばないほどの魔法使いになれるだろう」


「だと、嬉しいです」


 そう言って笑うアーネットだったが、思い出したようにぐいっと袖を捲ると俺に見せてくる。


「グラードおじさん。私の文様がどうなったか見てください」


 自分で見るのが怖いのかそれとも俺に一番に見て欲しいのかは分からないが、アーネットは肩の文様には視線を向けずに俺をじっと見つめてきたのだ。


「四葉の文様のどれか一番濃く出た葉に対応した属性が主となるんだよな?」


「はい」


 以前見た時は魔力量が足りなかったので四葉全部が同じ濃さだったはずだが、今回はどれかが主となるはずだ。俺はそっとアーネットの透き通るような肌に浮かび上がった四葉の文様に視線を向けるが濃く出た一枚は存在せずに四葉全てが濃く現れていたのだった。


「どうでしたか? やはり、風属性だったでしょうか?」


 エルフは風属性の恩恵を受けている種族なので、アーネットもやはり風属性を望むのだろう。だが俺はアーネットの手を握り、確信を持って静かに伝えた。


「――四属性だ」


「え?」


 一つだけ強く出たものはない。ならば、それが示すことは一つしかない。《《全ての属性が主属性》》だということだ。


「やっぱりアーネットは神に愛されし者だったな」


 四葉の文様が出た時点である程度の結果は予想していた。だが、今回の結果を目の当たりにして俺の予想など全く外れていたと言える。一体どうすればこれだけの才能が埋もれてしまうのだろうか?


 今はまだ才能が開花したばかりの原石かもしれないが、間違いなく彼女は現エルフ族にとってなくしてはならない存在だった。


「アーネット。最初に覚える魔法は何がいい?」


「何でもいいの?」


「ああ、もちろん。だが、俺の知らない魔法はちょっと難しいがな」


 俺がそう答えるとアーネットは迷わず「畑に水を蒔く魔法が良いです!」と笑顔で答えたのだった。

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