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第30話 予想以上の大物

「――それで、この始末はどうするにゃ?」


 売り言葉に買い言葉で仕方なかった事とはいえ、エルフ族の怒りを買ってしまった。まあ、アーネットを捨てたエルフの一族とは仲良くなれそうにないので構わないのだが、ミミリアの実がエルフの里の近くにあるそうなので採取に向かうことは厳しくなったと言える。


「そうだな。おそらく奴らが離れたので障壁魔法は解除されただろう。そのときに狼の群れが奴らの逃げた方角へ向かえばよし。俺たちに気づいてこっちに向かってくると、かなり面倒なことになりそうだ」


「どっちに転びそうにゃ?」


「まあ、ほぼ奴らの方へ向かうと思うぞ。理由は知らないが、狼の群れが進んでいたのが奴らの逃げた方角と同じだからな」


 俺は気配を隠したままでホイップと共に狼たちの行動を見守る。やがて魔力の尽きた障壁がなくなるとその場に足止めされていた狼の群れはエルフの男たちが逃げた方角へと一直線に走り出した。


 ――ズドドドド


 中型の獣とはいえ群れで走る様は凄まじく、地鳴りを上げながら一瞬で走り去っていったのだった。


「あれだけの狼の群れが向かったなら、もしもエルフの里がその先にあったとしたら被害は免れないだろう。となれば俺たちの行動を監視している目が緩む可能性が高い。この混乱に乗じてミミリアの実を探すとするか」


 俺はホイップにそう告げると狼の走り去った方へ向かおうとした。しかし、その直後に張り巡らせていた探索魔法に危険な反応が起こった。


「気をつけろ、何かが来るぞ!?」


 俺は叫んで反応のあった方角へ意識を集中する。時間にして数十秒後くらいだろうか、さっき走り去った狼の群れよりも大きな地響きがこちらに向かってやってくるのが分かる。


「なんかヤバそうにゃ!」


 ホイップも野生の勘で危険を警告する。しかし、俺はその正体がなんであるかを知って口角を上げると戦闘態勢をとる。


「間違いない。こいつは極上の魔獣の気配だ!」


「魔獣と本気で戦うにゃ!?」


「当たり前だろ? 一体俺が何年魔獣の研究をしてきたと思っているんだ。その間にも相当にヤバい奴との戦いもあったし、死ぬかと思ったこともそれなりにあった。だが、その恩恵は有り余るほどにあったのも確かだ。心配するな、俺もまだ死ぬつもりはない」


 向こうもこちらの気配を感じているだろうから、いまさら隠れても仕方ない。真っ向から一撃を入れてやろうじゃないか。


「さあ来い! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」


 一直線にこっちへ向かって来る魔獣の殺気を身体に受けながらも俺はにやりと口角を上げて笑う。


「こんな殺気を前に笑うなんて我の主は正気じゃないにゃ!」


 日頃は俺様体質でものを言うホイップも大型の魔獣が出す殺気の前では弱気になるようで、身体を震わせながら俺の後ろで縮こまっている。


「はっはっは! 怖かったらそこの巨木にでも登っていればいい」


「ばっ、馬鹿にするなにゃ! 聖獣である我が魔獣ごときに逃げるとでも思っているのかにゃ!」


 以前、出会った時に散々やられていたので魔獣に対して恐怖心はある筈なのだがホイップは虚勢を張ってその場から離れようとしない。


「いい度胸だ! 俺の従魔ならばそのくらいの気構えがあったほうがいい!」


 ホイップの覚悟に俺が感心していると前方からの地鳴りがどんどん大きくなっていく。


「ようやくお出ましか……」


 ――バキッ ズズン!


 突然、目の前の木が音を立てて倒れてくるのが見える。


「ほう。なかなかの力だ」


 倒れた木の影からゆらりと影を揺らしながら現れたのはグレートコングだった。しかも完全に魔獣化しているのを示す真っ赤な目でギロリと俺を睨みつける。こいつは予想以上の大物だ。


「ふぎゃ! なんにゃ! あいつは!?」


「なんだ、グレートコングを見たことないのか? まあ、普通の奴はあんなにデカくないがな」


 グレートコングは普通個体で体長が約二メートル程あり、危険度からするとBランクパーティーで対応する相手だ。しかし、目の前に現れた個体は魔獣化しているためもあってか、体長が倍の四メートルはあろうかという巨体だった。


「こいつは危険度ランクAA(ダブルエー)クラスだな。一人で倒すにはちと骨が折れそうだ」


 俺はてっきり先程の群れである狼のボスが現れると予想していた。素早い動きをする狼をとらえるには軽い剣が良いと思って準備していたが、相手は重量級のグレートコング。しかも策を練る前に現れたとなればこのままいくしかないだろう。


「すまないが、お前にも働いてもらうぞ。横の巨木に登っていつでも魔法が撃てる準備を頼む。合図をしたら全力で奴に打ち込んでくれな」


「わかったにゃ」


 俺はホイップに指示を出すと収納袋から数個の魔道具を取り出して奴の方へと投げつけた。


 ――ドン ドン ドン


 地面に落ちた魔道具は殺傷力としては低いが大きな音を出すもので、グレートコングは足元で鳴った音に反応して意識を下に向けた。


「熱き炎で彼の者を貫け。炎の矢(ファイヤーアロー)


 奴の意識が下に向いたタイミングで俺は魔法を放つ。もちろんこれで倒せるほど弱い魔獣ではないことはわかっていたが、俺の目的はそれだけではなかった。


 ――グオオオオッ!?


 俺の魔法は奴の顔に降り注ぎ、慌てた奴は咄嗟に腕で魔法を防ぐ行動を取る。そこに大きな隙が生まれた。


「そこだ!」


 俺は奴との距離を一気に詰めるとガードの開いた胸元へと剣を突き立てる。奴も俺の動きに気が付いたのか回避行動をとるが、次の瞬間鈍い音と共に奴の左胸上部へと剣が刺し込まれたのだった。


「恵みの水をこの手に注げ。湧き出る水(ウォーター)


 俺は深く差し込まれた剣を抜こうとはせずに一歩後ろに飛ぶと続けざまに水魔法を発動させる。この魔法はただ水を出すだけのものだが、奴をずぶ濡れにするには十分だった。


「一頭で出て来たのがお前の敗因だな」


 グレートコングは胸に刺さった剣の痛みといきなり浴びせられた大量の水に足元を取られてその場に尻餅をついた。


「ホイップ、今だ!」


「にゃんだー!」


 ――ビシャーン


 光の稲妻が木の上で待ち構えていたホイップより放たれ、ずぶ濡れのグレートコングを襲う。普通ならば大きなダメージとはならないが今回は全身ずぶ濡れ状態、しかも心臓近くには電気を通す金属の剣が深々と突き刺さっているとなれば話は別だ。


 ――グボボボボフッ ズシン!


 身体の内部まで電撃魔法を食らった奴はいくらその強靭な身体であっても心臓に直接ダメージを届けられては抗う術もなくその場に崩れ落ちたのだった。


「よっしゃ! こいつは最高の素材になるぞ!」


 その場に倒れたグレートコングの死体を見下ろしながら俺がテンション高くそう叫ぶ。


「もう大丈夫にゃ? 起き上がってきたりしないにゃ?」


 俺が喜ぶ姿を見てホイップが巨木から降りてくると俺に聞いた。


「ああ、もう大丈夫だ。ホイップも最高のタイミングだったぞ。ありがとな」


「ふ、ふふん。我にすればこの程度など造作もないことにゃ」


 目の前の脅威が無くなったことを認識したホイップはようやく安心したようでいつものドヤ顔を見せながら大口を叩く。可愛いやつだ。


「こいつの処理は戻ってからでもゆっくりするとしてミミリアの実の探索を再開しよう」


「ちょっと待つにゃ。なんかヤバい気配がするからここは引いた方が得策にゃ!」


 俺が探索を再開しようとした矢先、急にホイップがそう言い出したので俺は探索魔法を展開する。


「――なるほど。お前の言うとおりだな。仕方ない、今は引くとしよう」


 俺たちが通した狼の群れだったが、魔獣化していなかったこともありエルフの迎撃部隊に早々倒された様子で魔力の強い者が複数人こちらへ向かっているのが感じられたのだ。


「ミミリアの実は確保出来なかったが、代わりの土産は出来た。エルフ族の奴らは好きにはなれないが殺し合うほどではないからな。ホイップ、急いで帰るぞ」


「わかったにゃ」


 俺は倒したグレートコングを収納袋に仕舞い込むと奴らが現れる前に町へと駆け戻ったのだった。

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