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第26話 素材収集にむけて

「素材の情報に調薬師の斡旋までとは、どうしてそこまでしてくれるんだ?」


 いくらギルドの職員とはいえ、この書庫での調べものにはギルドに対して僅かな手数料しか払っていない。知りたいことがあればこの書庫にある大量の書物から自分で探し出す必要があるのに……だ。


「だって、薬が必要なのはその子なんですよね? どういった背景があるか分かりませんが、ギルドとしても薬の素材に関しては情報を開示していますので問題ありませんよ」


 ルージュはそう言ってにこりと微笑んだのだった。



「――ミミリアの実か。魔素が濃い地域にしか生息しない樹木で黄金の実をつけると言われているそうだ。俺も長く冒険者をやっていたが、実物は見たことがないんだ。アーネットはどうだ? 聞いたことぐらいはあるか?」


 俺はギルドから戻ると目的の素材を採取する算段をつけるために情報の整理をはじめる。


「もしかしたら里の周りにもあるのかもしれませんが、私は外に出る機会もあまりなかったので見たこともありません」


「そうだよな。その特性から北の森で採取できそうなんだが……」


 俺とアーネットでどうするか悩んでいると意外なところから情報元が現れた。


「我は知っておるぞ」


「なんだって? それは本当か?」


 床でごろごろと寝転びながらホイップがそう話す。その顔はドヤ顔をしているように見えた。


「――場所は分かるか?」


「詳しくはわからぬ。だが、我も住処を転々と探しておったので北の森にも行ったことはある。この町からは少しばかり離れておるが、確かに金色の実をつける木はあったにゃ」


 これは思ったよりも近くで見つかりそうな気がする。そう思った矢先のこと、ホイップが追加の情報を言った。


「ただ、あの辺りはあやつらの狩場にゃ。いくら主が強くとも簡単にはいかないと思うにゃ」


「あやつら?」


「うむ。狼の奴らにゃ。あやつらは群れで行動して獲物を見つけたら集団で囲んでくるから手強いにゃよ」


「狼の集団か……。普通の狼ならいいが、北の森だからな。もしかすると群れを統率しているボスは魔獣化しているかもしれんな」


 俺がそう呟いて考え込む素ぶりをするとアーネットが不安そうな表情で俺に言った。


「あの……。それほど危険なら無理をしなくても……」


「ん? ああ、俺の心配をしてくれたのか。確かに狼程度とはいえ、集団で来られると面倒なことには間違いない。だが、魔獣化している可能性があるなら是非とも討伐をしておきたいと思ってな」


「あんな奴らを相手するとか、本気かにゃ?」


「ああ、もちろん。魔獣化した獣の肉は最高のご馳走だし、大型になればなるほど貴重な魔核が採取できる可能性がある。こいつは俺の経験上、色々なものに使うことが出来るんだ。前にアーネットへ渡した薬があっただろ? それを作る素材のひとつが魔獣の魔核だ」


「魔力量の底上げをしてくれる薬のことですよね?」


「ああ。今回ギルドに聞いた魔力増強剤と比べてどちらがより良い効果があるかは分からないが、選択肢は多い方がいいに決まっている」


「つまり、あの狼の集団を相手にするつもりにゃね?」


「ああ。ホイップも付いてくるか? 前にやられた仕返しが出来るぞ?」


 それほど強力ではないが、ホイップの使う雷属性魔法は役に立つだろうから一緒に連れて行くのも良さそうだ。


「十頭以上は居ると思うが本当に勝てるつもりにゃ?」


「狼程度、数十頭居ても問題ない。まあ、その全てが魔獣化してれば厄介だがな」


 俺も伊達に魔獣研究をしてきたわけじゃない。魔獣化した奴らとそうでない奴らの強さがどのくらいかは把握しているつもりだ。


「信じるかどうかはホイップに任せる。ただ、お前が一緒なら楽が出来ると思っただけだ」


「――我の命は主に助けられたもの。その上で一緒に行かなかったことで恩が返せなくなったらずっと後悔するにゃ。一緒に行くにゃ」


「ホイップならそう言ってくれると思っていたよ。よろしく頼むよ、相棒」


 俺の言葉にホイップは尻尾をふって了承の意思を見せてくれた。


「……私も力になれたら良かったのですが、今のままついて行ったら迷惑になるでしょうね」


 アーネットは自らの力不足に悲しみの見える笑みを浮かべる姿が痛ましかった。


「まあ、今回の件がうまくいけばアーネットも魔法が使えるようになる可能性があるのだから、そう悲観することもない。明日より三日間ほど店を休みにして素材収集をしてくる。アーネットはゆっくりしていても良いし、ギルドの書庫に通ってもいい。ルージュのことを考えると一人で行かせるのはなんとも言えないが、危険は少ないだろうしな」


「わかりました。そうしますね」


 とても残念そうなアーネットだったが、一緒に連れて行けるだけの戦力がない状態では彼女をただ危険にさらすだけだ。


「そうだな。英気を養うためにも今夜は豪勢な食事を作るとしよう。ホイップにも頑張ってもらわないといけないからな」


 俺はそう言って過去に討伐した最高級の魔獣肉を収納袋から取り出したのだった。

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