第25話 魔力量の底上げ
「――ありがとうございます、グラードおじさん」
俺はギルドから戻ると、書庫でルージュから聞いた話をアーネットに話した。直接的にエルフ関連ではなかったが四葉の文様についての情報にアーネットは喜びを露わにしたのだ。
「それで、ルージュが言うには四葉の濃い葉に対応した属性が主となるそうだ。ここで見せてくれとは言わないが、自分の目で確かめてみるといい」
「それが文様は左肩にあるので自分で、しっかりと見ることが出来ないんです。なのでグラードおじさんが見てくれると嬉しいです」
「そ、そうか? まあ、アーネットが嫌じゃなければ構わないが……」
俺はそう言うと、服の袖を肩まで捲り上げて文様が見えるようにしてくれたアーネットの肩に視線を向けた。そこには、確かに四葉のクローバーに似た文様がはっきりと浮かび上がっていた。
「確か、ルージュが話していたのは茎の部分から左回りにそれぞれの属性が割り当てられているんだったよな? アーネットはエルフだからおそらく風の属性が主だとは思うが……」
俺はそうつぶやきながらじっと彼女の文様を見つめた。
「ど、どうですか? やっぱり風の文様でしたか?」
どれでも問題はないのだろうが、やはりエルフ族としては風属性が主であって欲しいのだろう。そわそわしながら俺の答えを求めてきた。
「同じだな」
「え?」
「全て同じ濃さに見える。もちろん、微妙な差はあるのかもしれんがパッとした見た目では違いは分からないな」
俺はそう言い切ると自らの考えを伝える。
「今の時点で言えることは二つ。ひとつは四葉の文様が現れたばかりで魔力が足りずにどれが主になるのかまだ決まっていない可能性がある。もうひとつは四元素全てが同等であること。これは文献からすると信憑性は低いが、四元素全てが主である可能性だ」
この予想が正解かは分からないが、今の時点では他に説明がつかないので俺はそう結論づけたのだ。
「どちらの予想であってもアーネットの魔力量を増やしていけば自ずと答えは出て来ると思う。今は焦らずに魔力を高めるようにしていこう」
「はい」
俺の言葉にアーネットは笑みを浮かべながらうなずいたのだった。
◆
「――魔力を増やすのって具体的にどうするんですか? 前に飲ませてもらった薬はもう無いですよね?」
四葉の文様に関する情報は一応の決着がついたので、お店にはいつもの日常が戻って来ていた。今はお昼の営業を終えて賄い料理をアーネットと食べながら今後のことについて話題にしていた。
「そうだな。基本的には魔獣料理を食っていれば少しずつだが増えているはずだ。もし、身体に感じるほどの増加を望むなら薬の素材を狩りに行く必要があるだろうな。どうした? なかなか成長しなくてもどかしいのか?」
あれから数週間ほど経っているが、アーネットの魔法に目立った成長は見られていない。ずっと渇望していた魔法を使える可能性に心が焦るのも無理はないだろう。
「確かにそれはそうですが、私の我儘でグラードおじさんを危険な魔獣狩りに向かわせるわけにはいかないですし、時間はたっぷりあるのでしばらくは今のままでいいです」
賄いの食事をスプーンでくるくると掻き混ぜながらアーネットはそう言うと笑みを見せる。本音は違うのだろうが、俺に心配をかけないようにしているのだろう。
「――そうだな。もう一度ギルドの書庫に行ってみるとするか。あそこには俺の知らない情報が詰まっているから俺の知っているものとは別に体内の魔力量を上げる薬の作り方もあるかもしれん。ちょうど明日は店も定休日だしな」
「私も一緒に行っては駄目ですか?」
「うーん。駄目ではないが、前に書庫の管理人であるルージュにエルフ族に関する書籍を探していると話してしまったからな。そこにエルフ族である君を連れていくと興味本位で色々と聞かれるかもしれないが大丈夫か?」
「ルージュさんって人族の女性の方ですよね? エルフ族に偏見のない人なら大丈夫だと思います」
そう言って微笑むが本当に大丈夫だろうか? どうも一抹の不安が消えないのだが……。
「まあ、アーネットがそう言うのなら一緒に行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
アーネットはそう言いながら残りの食事に戻ったのだった。
◆
次の日の朝、お店のドアに定休日の板をかけていると普段着のアーネットがやって来るのが見える。頭にはエルフの特徴である耳が見えないような帽子が載せられていた。
「おはようございます。今日は宜しくお願いしますね」
「来たか。それじゃあギルドに行くとしよう」
俺はアーネットと共にギルドへと向かう。心なしかアーネットの表情が楽しげに感じられた。
――からんからん
俺はギルドのドアを開けるとアーネットと共に中に入る。受付窓口にエリザの姿を認めるとアーネットの手を引いて彼女の窓口へ向かう。
「すまない。今日も書庫で調べものをしたいのだが良いだろうか?」
エリザは俺の後ろにいたアーネットに視線を向けると黙って書類を差し出してくる。その書類に名前を書くと特に何も聞くこともなく許可書を発行してくれたのだった。
「あら、また来てくれたのですね。今日はどんな書籍をお探しですか?」
書庫に入ると相変わらず書類に囲まれているルージュの姿が目に入る。
「体内にある魔力量を増やす方法を探している。食べ物でも良いし、薬でもいい。何か知らないか?」
俺の返事を聞いたルージュは少し考える素ぶりをするが、ふと俺の影に隠れるように立つアーネットの姿に気が付いてガタンと大きな音を立てながら椅子から立ち上がった。
「か、かわいい! ねえ、あなた。なんて名前? 歳は? 好きな本は!?」
「おい。待てって、いきなり何だってんだ?」
「なにって、こんな可愛い子をどこで見つけて来たのよ? 前は一緒じゃなかったわよね?」
嫌な予感は的中するもので、アーネットを見たルージュは前のめりに質問をしてきた。
「この子はアーネットといって、わけあって今は俺の店で働いてもらっている」
「こんな小さな子供を働かせているのですか!?」
「別に強制的に働かせているわけじゃない。本人の希望でやっているだけだ」
「それは本当なの?」
俺の言葉を信じないルージュがアーネットに直接話しかける。
「あ、はい。お店のお手伝いはグラードおじさんと話し合って決めたことですので心配しなくても大丈夫です」
「本当? 脅されていたりしない?」
俺はどこまで信用ないんだよ。
「もういいだろ? こっちもそんなに暇じゃないんだ。知っていることがあるなら教えてくれ」
「えー。せっかくこんな可愛い子と知り合えたのだから、もう少しいいじゃないですか」
「駄目だ。この後にも行かないといけない所もあるから時間に余裕がないからな」
本当は特に用事はなかったのだが、このままルージュのいいようにしているといつまで経っても話が進みそうになかったので無理矢理に話を切ることにしたのだ。
「それは残念です。えーと、体内の魔力量を増やす方法でしたね。いくつかあったと思いますが、どのようなものをご希望でしょうか?」
「どんなものがあるんだ?」
「そうですね。一般的なのは魔力増強剤を飲むことですね。ただ、この薬も万能ではなくてその人が持つ能力値以上の成長は望めないということでしょうか」
「それは本人の資質によるものだというのか?」
「そうなりますね」
本人の能力を超えて増える訳ではないのか。だが、アーネットは四葉の文様が出るほど祝福されている。魔力増強剤で基礎魔力量が増える可能性は十分にあるだろう。
「その薬は何処で手に入る?」
「あー、この町では難しいですね。もしかしたら王都に行けばあるかもしれませんが、そもそもかなり高額ですよ? まあ、素材を持ってくるなら調薬師を紹介するくらいは出来ますが……」
ルージュはそう言って調薬に必要な素材を書き出してくれたのだった。




