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第27話 樹海深部で出会ったもの

「――これはどんな魔獣のお肉なのですか?」


 明日からの素材採取を前に、久しぶりとなる魔獣肉料理のフルコースをテーブルに並べるとアーネットの質問が次々と飛んでくる。ホイップの方はというとアーネットの話など全く興味のない様子で与えられた食事と一心不乱に向き合っていた。


「こっちのステーキはキングベアの肉だ。このサラダに合わせているのは少し珍しい魔魚でダークマーズになる。こっちのソーセージになっているのは岩蜥蜴(いわとかげ)で燻製はキングクラブの身だ」


 俺は料理の説明をしながらアーネットに取り分けてやった。こうして誰かと話をしながら食事をするのは、ずっと一人で旅をしていた俺にとって最高に心躍る時間だった。


「魔獣化って獣以外でも起こるものなんですね」


「そうだ。まあ、俺は獣以外の生き物が変化した場合は総称として魔物化と呼んでいる。ただ、やはり襲われる可能性が高いのは魔獣なため魔獣化と呼ばれることが多いんだよ」


 俺は手を止めずに話を続けて食事の準備を終えると自らも席についてアーネットに食事を促した。


「いただきます」


 感謝の言葉と共に俺たちは食事を手に取る。


「うん。うまい」


「本当に美味しいです」


 自分でも驚くほどに上手く出来た料理はアーネットにも好評だったようで一口頬張るごとに笑顔がこぼれていた。


「凄く美味しかったですね。なんだか身体が火照ってきたように思います」


 アーネットがそう言いながら首元の服をぱたぱたとしながら身体を冷まそうとした。その時、ちらりと胸元が露わになり俺は思わず視線を逸らす。


「満足出来たようで良かったよ。俺とホイップはこれから果実の探索へ向かう、すまないが留守を頼むぞ」


「無事に帰って来てください。怪我でもしたら承知しませんからね」


「ああ、わかってる。出来るだけ早く片付けて戻ることを約束する。ホイップ、行くぞ」


「わかったにゃ。無理ならすぐに逃げるにゃ」


「ははは。いのち大事に……だな」


 俺は椅子から立ち上がると食器を片づけてから荷物を手に外に出ると真っ直ぐに北の門へと歩き出す。


「よう、今日は森の巡回か? 従魔も連れて行くなんて珍しいじゃないか」


 北の門でカールが俺の姿を見つけて声をかけてきた。そうだ、彼にもアーネットのことを頼んでおくとしよう。


「まあな。今回は少し奥の方まで見ておこうと思っているんだ。それでひとつ頼みがあるんだがいいか?」


「ん? なんだよ、水臭いな。話してみろ」


「今回の探索は一日で戻れそうにないんだ。店のドアには張り紙をしているが、三日ばかり休みにすることにしている」


「なんだ、そんなことか。飯の心配ならなんとでもなるから気にするな」


 カールは笑顔で答えてくれる。


「まあ、店の方はそうなんだがもう一つが重要なんだよ」


「他にもあるのか?」


「三日ほど戻らないとなるとその間はアーネットを一人で留守番させることになる。一応、あまり外出はしないように言ってあるが、調べもののためにギルドの書庫に行く可能性がある。彼女が外出しているのに気が付いたら、危険がないか見守ってやって欲しいが、出来るか?」


「そうだな。俺も四六時中見張っているわけにはいかないから絶対とは言えん。だが、彼女になにかあって店が無くなると非常に困るからな。出来るだけ気を付けておくよ」


「すまないな。無事に戻ったら店でエールの一杯と最高の肉を食わせてやるから頼んだぞ」


「ははは。まかせておきな」


 アーネットのことをカールに頼んだ俺は気を引き締めて北の森へと歩を進めたのだった。



 ――ざわざわざわ。いつもの探索と違い、真っ直ぐに北へ向かって歩を進める。意外にも辺りからは魔獣の気配はなく予定よりも早く進めそうな気がしていた。


「この先がどうなっているのか俺は知らないのだが、お前は知っているのか?」


 並んで進むホイップに俺がそう問いかける。正直、どこまで信じて良いのか分からないが他に手がかりがないので信じて進むしかない。


「正確な場所は我もわからないにゃ。ただ、身体が覚えている嫌な感覚がこの先からするにゃ」


「なんとも曖昧なことだな。まあ、俺も知らないのだから大した差じゃないか。今日一日進んで何も見つからなければ引き返すことを考えればいいだろう」


 俺は周囲に気を配りながら森の中を進む。半日ほど歩いた辺りで俺は食事休憩を入れることにした。


「ほら。お前も飯を食って休め」


 少し開けた場所に腰を下ろした俺は収納袋から食事を取り出してホイップにも分けてやる。この日のために作り置きして収納しておいたもので簡単に食べられるサンドイッチなどだ。


「しかし、ここまで何も遭遇しないと逆に不気味だな。魔素が強すぎて生き物が集まらないのか、それとも強力な魔獣の棲み処か……」


 俺がそうつぶやいた時、張っていた探索魔法に反応があった。こんな場所に人が入り込んでいる可能性は低いので魔獣だろうか?


「念のために戦闘準備をしておくぞ」


 俺はホイップにそう告げると収納袋から使い慣れた剣を取り出すと軽く振って感触を確かめた。


「気が付いていないふりをしながら進むぞ。心配するな、探索魔法で相手の位置は把握している」


 俺はホイップにそう告げると予定していた方角へと進み始めた。相手も俺たちの動きを捉えたのか徐々に取り囲むような動きが見える。完全に囲まれると厄介かもしれない。


「仕方ない。あそこに見える巨木を背に迎撃をするぞ」


 俺はそう叫ぶと先に見える巨木へと向かって走り出した。


「――そこの者、止まれ!」


 俺たちが巨木に近づくと、どこからか叫び声が聞こえた。


「上か!?」


 俺が巨木を見上げるとその太い幹に数人の人影が見える。まさかこんな樹海の深部にまで人が入り込んでいるのか?


「人族と白猫魔がこんなところで何をしている?」


 声のする方を見上げるといつでも放てるように弓を構える者の姿。その肌は緑に染まり横から覗く耳が彼らの存在を証明していた。どうやら俺はエルフの集落がある地域へと足を踏み入れたようだ。

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