第13話 小さなエルフの少女
「気がついたようだな。どこか怪我をしていたりしないか?」
「え? あ? 私……?」
自分の置かれている状況に思考が追い付いていないようで少女はうまく言葉が出て来ないようだ。
「慌てなくていい。奴はもう始末した」
俺は少女を安心させるために倒れている魔獣を指してそう告げる。
「痛いところがあれば言ってくれ。一応だが傷薬は持っているから」
俺は少女に声をかけながら倒した熊の魔獣を魔法袋に収納して彼女をどうするべきかを思案する。
「家はどっちだ? 俺が送って構わないのなら連れて行ってやるが、どうする?」
エルフ族は希少な部族であり、人族とはあまり積極的には関わらないと聞いている。この娘がエルフの里に戻るとなれば里の場所を俺に明かさなければならないので実際は難しいだろう。
「――里へは戻れないの。私は呪われているから……」
俺が少女の前で膝をついて問いかけると少女は小さな声でそう告げた。
「呪いだと?」
俺はそう言って少女の顔を見る。その行為が怖かったのか少女は少し怯えた瞳で小さくうなずいた。
「……そうか。俺は呪いに関して詳しくないが、何か手助けが出来るかもしれん。もし、行く所がないのなら一緒に来るか?」
「――本当に良いの? 厄災を招くかもしれないのよ」
「はははっ。子供がそんなことで悩む必要はない。美味い飯を食って一晩寝れば気分も晴れるだろう。運の良い事に俺が引っ越した建物には部屋は余るほどあるから気分が落ち着くまで泊まっていけばいい」
俺がそう言って少女に手を伸ばす。その手を見て彼女はびくっと身体を小さく震わせるがきゅっと口を結ぶと俺の手を取ってくれた。
「どうだ、歩けるか?」
「だいじょうぶです」
そう言って立ち上がった少女だったが、足に力が入らないのか大きくよろけて膝をついた。
「思ったよりも体力が低下しているようだな。無理をさせるつもりはない、俺が背負ってやろう」
「い、いえ。大丈夫、歩けますから」
少女はそう言って立ち上がろうとするのを俺が制して少女の前に屈むと有無を言わさずに背中に乗るように指示をした。
「ごめんなさい」
「構わないさ。それに、町に入るには門を通過しなきゃならん。普通に君を連れて歩いていては変に怪しまれるかもしれんからな」
まあ、森に探索に行って帰って来たら少女と一緒だった時点で十分に怪しいのだが、気を失って倒れていたと言えば多少は気を使ってくれるかもしれない。
「そうだ。門を通過する時、適当に誤魔化しておくから寝たふりをしてくれると助かる」
「はい」
「良い子だ。ところで君の名前を聞いても良いか?」
「……アーネット」
少女は俺の背中で小さく言った。
「アーネットか、良い響きの名だ。俺はグラードって名だ。町で食堂をやる準備をしている冒険者だ」
俺も自分の名を教えながら少女にフードを深く被るように促して町の北門へと向かったのだった。
◆
「おっ。無事に戻ってきたか」
町の北門まで戻ってくるとカールが出迎えてくれる。当然ながら魔物の情報を話す前にアーネットのことを聞かれた。
「その子はどうしたんだ?」
「森を巡回していたら悲鳴が聞こえた。急いで駆けつけたらこの子が魔獣に襲われていたので助けたんだが、周りには他に誰も居なかった上にこの子も気を失っていたので仕方なく連れてきたんだ」
「そうか。こちら側から外に出た者は居ないから、もしかしたら森の反対側から来たのかもしれんな」
「隣国の民だと言うのか?」
「前にも似たようなことがあったから、そうかもしれんと言うだけだ。気になるならギルドに報告しておけばいい」
「ああ、わかった。とりあえず、今日のところは二階の空き部屋で休ませるつもりだ。明日にでも今日の実績をギルドに報告させてもらうよ」
俺はカールと軽い挨拶を交すと家に入りドアを閉める。周りの目がなくなったのを確認した俺は息を吐いてアーネットに声をかけた。
「もう起きても大丈夫だ。疲れただろう、すぐに食事の準備をしてやるからそこに座っていろ」
俺はアーネットを食堂の椅子に座らせると魔法袋を持って厨房へ向かおうとしてくるりと振り返って彼女に確認をした。
「忘れていた。アーネット。なにか食べられないものはあるか?」
エルフの存在は知っていても直接出会ったのは初めてだ。何か食えないものがあるなら先に聞いていたほうがいいだろう。
「わからないです。人族が食べるものを食べたことがないので……」
「そうか。ならば魔獣肉とかは食べられそうか?」
「……たぶん大丈夫だと思います」
「エルフの食事なんて他人に聞いても誰も知らないだろうな。かといって野菜や果物ばかり食べているとも考えにくいし、まずは少しだけ出してみるか」
俺はアーネットを見ながら小さくつぶやくと改めて厨房へ向かったのだった。
――トントントン
包丁が野菜を刻みながらまな板を叩く音が厨房に響く。さすがに今狩ってきたばかりの魔獣を捌く時間はないので以前処理をした魔猪の肉を一口大に切り分けて熱したフライパンに油と共に放り込む。ジューっと食欲をそそる音が聞こえ、だんだんと肉の色が変わっていく。
「野菜を多めにしたほうが良いのか?」
ザク切りのキャベツを追加で放り込み軽く塩で味付けをする。
「たしかパンは買い置きがあったはずだ。それと魔獣の核を煮込んだスープがあれば良いだろう」
料理を仕上げた俺はアーネットが待つ食堂へと運んでいく。料理からはアツアツの湯気が出ており、作りたてのいい匂いが食堂に広がっていった。
「待たせたな。たいしたものはないが、あったまるスープを用意した。食えるようならこっちの肉もどうだ?」
俺がアーネットの前に料理の皿を並べると彼女はその香りに心を奪われたかのように釘付けとなる。
「食べてもいいの?」
「もちろん。だが、いきなりかき込むんじゃないぞ」
アーネットは俺を見てうなずくとスプーンでスープをすくって口に運んだ。
「おいしい! こんなスープは初めて!」
スープを一口飲んだアーネットは驚きの声をあげる。そして目を輝かせながらスプーンを皿に向かわせた。
「そうか。それは良かった」
俺はアーネットが無事にスープを飲めたことにホッと息を吐く。そして自らも食事に手をつけたのだった。




