家族を得た私、領地名物を作ろうと思います②
「これで、よし!」
布で鼻と口を覆い、マグカップに淹れた白ワインを私の部屋の四隅と窓の前に置く。
「あとは枕元に……」
「そこは、やめておきましょう。寝ている間にこぼしてしまうかもしれません」
ベッドサイドテーブルにも置こうとして、アンネに没収された。
「でも、一日に十時間は寝てるんですから、枕元が一番アルコールを摂取できます」
「何故、部屋にワインを置くことがアルコール摂取になるのですか?」
「毛穴から飲んでるんです」
そう答えると、アンネの眉間にシワが寄る。
「お酒の匂いを嗅ぐのも、飲むのも禁止されたので、毛穴だけが残された希望です」
旦那様に約束させられ、破ったら一週間お菓子禁止と言われた。
何が何でも毛穴で飲んで、克服してみせる!
ワインから離れたので、鼻と口を覆っていた布を外すと、アイラと目が合った。
「悪魔を呼び出すんじゃないんですか?」
「呼びませんよ。……って、悪魔ですか?」
「はい。部屋のあちこちにお酒を置くなんて、何かの儀式かなって」
儀式をすると、得でもあるの?
大酒飲みの悪魔が出てきて、ひたすらにお酒を搾取されそう……。
「その悪魔って、何するんです?」
「うーん。悪魔っていうくらいですし、魂と引き換えに願いを叶えてくれるとかですかね」
なるほど。
対価交換ってヤツかぁ。
「お酒が飲めるようになるのと魂じゃ、釣り合わないです」
「何なら、損しないでしょうね。あっ! でも、東の方の国だと神様を呼ぶのにお酒を使うんじゃなかったでしたっけ?」
へぇ。同じお酒でも、使い方は文化によって違うってことかぁ。
ん? 東の方の国?
「今の話、詳しく教えてください!」
「く、詳しくと言われても、人から聞いた話ですし……」
「どこで、誰から聞いたんですか!?」
「ドーザー伯爵家ですけど」
アイラが一歩下がったので、二歩近づく。
「その人、紹介してください!!」
「コレッティーナ様、一度止まってください。深呼吸しましょう」
「嫌です!」
アンネに止められるけれど、今が攻め時だ。
何が何でも、東の方の国についての情報がほしい。
「その人はどこにいますか?」
「分かりません! 旦那様なら、知ってるんじゃないですか!?」
「旦那様ですね。で、その人の名前は?」
「リーヌ・ドーザー様です」
よし、リーヌ・ドーザーね。覚えた。
「…………リーヌ・ドーザー? どこかで聞いた気がします」
誰だっけ? わりと最近だったような。
「コレッティーナ様……。コレッティーナ様を誘拐するよう指示したご令嬢ですよ」
「あぁ! ドリルのことですか」
なるほど。面識ある人だし、聞きやすいかも。
「…………あれ? ドリル家って、潰したんでしたっけ」
「はい。ドーザー元子爵家になります」
「となると、ドリルは今どこにいるんですか?」
私の質問に、アンネが首を傾げる。
アイラは……、口がポカンってしてるや。
「はい、どうぞ」
開いてる口にアメを入れてあげる。
「旦那様のところに行きます」
「もう寝る時間ですよ」
「聞いたら、すぐ戻ります」
裸足でペタペタと歩いて扉に向かうけれど、アンネに通せんぼされてしまう。
「また明日にしましょう」
「どうしてですか? アンネ、ちょっと変ですよ」
いつもなら止めないのに。
「……コレッティーナ様は、リーヌ・ドーザーにお会いしたいんですよね」
「はい」
「…………誘拐してきた相手ですよ。危険すぎます」
アンネが下を向いている。
「危なくないです。聞きたいことがあるだけなので」
しゃがんで覗き込めば、アンネの眉間にはシワがギュッと寄って、堪えるような顔をしていた。
「…………心配なんですか?」
「とても」
「分かりました。ドリルには、ここに来てもらうことにします」
「はい!?」
あ、アンネの顔が上がった。
「ナビレート伯爵家なら、皆がいてくれます。危なくないです」
「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃ何も解決していません」
「ギーツは女の子に負けません。アイラ、ギーツはドリルに負けませんよね?」
アイラが大きく頷く。
「でも、女性相手だと防戦一方になります。お兄ちゃん、優しいから」
「たしかに! なら、旦那様も呼びます。旦那様なら、女性だからって容赦しません」
「「…………」」
これで、アンネも安心だ。
「というわけで、今度こそ旦那様の部屋に──」
「駄目です。夜はしっかりと寝てください。私はコレッティーナ様を見張ってるので、アイラも先に寝てきなさい」
「はーい。じゃ、お先に失礼します。おやすみなさい」
ぺこりと頭を下げて、アイラが部屋を出て行った。
「さぁ、コレッティーナ様。マナーと常識について、寝物語代わりにお話しますね」
「え……、いらないです……」
「残念なことに、これは決定事項となっております」
い、嫌だ……。
こうなったら、たぬき寝入りしよう。
と思ったのだけど、アンネの目を欺けるわけもなく、小一時間聞かされるのであった。
お昼寝しすぎた……。




