家族を得た私、新しい家族を歓迎します①
「……お兄ちゃん」
馬車の中から控えめな大きさで呼ぶ声がして、ギーツはハッとした顔をした。
「妹です。降りておいで」
そう言って、馬車へと手を差し伸べる。が、妹ちゃんはその手を取らずに自分で降りてきた。
「アイラです。掃除でも洗濯でも、街までの使いっ走りでも、何でもやります。兄共々、よろしくお願いします!」
アイラは頭を下げると、ギーツの背中を叩く。
「お兄ちゃんも頭を下げて」
「わ、分かった」
ギーツは、慌てたように頭を下げる。
うむ。これは、アイラの方が強者だな。
それにしても、イメージと違う。もっとこう、守ってあげたくなるような美少女かと。
可愛いけど、負けん気の強さと生命力が目から溢れて、ギラギラしている。
「俺はカリウス・ナビレート。で、隣にいるのが──」
「旦那様の妻のコレッティーナです。アイラは、木登りとたき火はできますか?」
「コレッティーナ!?」
「大事な話です。旦那様は少し黙っていてください」
じっと、アイラを見る。
アイラは小さく首を傾げたあと、にんまりと笑う。
「たき火はできませんが、木登りは得意です。でも、一番得意なのは泳ぎです」
「泳ぎは必要ないです。それより、どこまで登れますか? 実の回収はできますか?」
「木の枝がしっかりとしてれば、お屋敷の二階くらいまでは余裕です」
──っ!!
何てことだ。ギーツの妹はハイスペックだった!!
思わず、ガッツポーズをしてしまう。
「旦那様! アイラを私の侍女に推薦します!!」
「はぁ?」
「木登りできるんですよ!? 私は旦那様に禁止されましたが、アイラは禁止されてません。つまり、木から実が取れるんです!」
「そうだな」
何でだ。何で、この素晴らしさが伝わらない!?
「奥様、妹を木に登らせるのは──」
「ギーツは黙っててください」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
アイラと声が重なる。
そのまま視線が絡み、無言のまま握手を交わす。
「ようこそ、アイラ。歓迎します。あなたは私の妹です」
「ありがとうございます。お姉様のために頑張ります」
握手した手に空いている方の手を重ねれば、アイラの手も重なる。
「ちょっと待て! 意味が分からん!!」
「そうですよ。アイラ、奥様にお姉様だなんて失礼だぞ!」
ん? 二人こそ、何を言ってるの?
「お屋敷の仲間になったので、アイラは私の家族ですよ。それに、初めての歳下です。妹は決定事項です」
「はい。妹です!」
ばっとアイラが手を挙げる。
「……奥様、アイラと少し話をさせてもらってもいいですか?」
「いいですよ。私も聞きます。妹のことですから」
「お姉様……」
アイラが手を組み、キラキラした目を私に向ければ、ギーツの目が遠くなった。
「奥様は、俺のことをお兄様と呼びますか?」
「呼びません。ギーツです」
「そういうことです」
「……お兄様と呼んでほしいんですか?」
あ、ギーツが膝から崩れ落ちた。
「勘弁してください」
力なく言うギーツの前に、しゃがむ。
「じゃあ、ギーツはどうしてほしいんですか?」
「俺と妹のことは、使用人として扱ってください」
「使用人は家族です」
「そうじゃなくて……」
ギーツは言葉を詰まらせ、そんなギーツの肩を旦那様が労うように叩く。
「コレッティーナ。たしかに使用人は家族だ。だが、ナビレート家に雇われているというのも事実だ」
「はい」
「だから、最低限の線引きは必要なんだよ」
なるほど。
たしかに、会社で上司をお兄様やお姉様とは呼ばない。
「分かりました。アイラ、私のことは名前か奥様で読んでください」
「はい、奥様」
アイラはすんなりと受け入れ、にこにこしている。
お姉様と呼んでもらえて嬉しかったけど、仕方ない。
「……二人きりの時は、お姉様と呼んでもいいですよ」
「分かりました。私と奥様の秘密ですね」
ふ、二人だけの秘密……。
すごく特別感のある響きだ。
って、あれ?
「私、デンガおじいちゃんって呼んでます」
「……デンガとは屋敷の外に一緒に行くこともないし、いいんじゃないか?」
「そうですかね」
「そういうことに、しておけ」
ぽんと、旦那様の手が私の頭を撫でる。
「さ、中に入るぞ。デンガ、アンネ、二人を頼む」
旦那様が私に腕を差し出し、その腕に手を乗せる。
「エスコート、久しぶりですね」
「たまにはいいだろ?」
「はい。毎日でもいいくらいです」
「──っ。……コ、コレッティーナがどこかに走り出さなきゃ、エスコートで大丈夫なんだけどな」
見上げれば、旦那様がそっぽを向いている。
さっきも、そっぽ向いてたよね……。
「旦那様、そのそっぽを向くのやめてください」
「え!?」
驚いた顔で私を見た旦那様の顔が赤い。
…………あ!!
「旦那様は女性が苦手なんでしたっけ」
だから、最初に「お前を愛することはない」と予防線を張ったわけだし。
「女性は苦手だが、屋敷の者は平気だ。それに、コレッティーナも……」
「ふふっ……。私、家族ですもんね」
旦那様は、家族にとても優しい。
「でも、照れるのは許してくれ……」
「はい。不慣れなのに、努力してくれる旦那様はステキです」
私も旦那様の妻レベルをあげよう。
妻ポジションを完璧にして、ずっと家族でいるんだ……。




