家族を得た私、旦那様と一緒にいます③
「旦那様、本当にお仕事行くんですか?」
「あぁ、夜には帰ってくるよ」
旦那様は私の部屋を出て、玄関ホールに向かう。
「今日くらい休んでもいいと思います。働き過ぎです」
「とは言っても、休むと溜まるしな……。今後はもう少しセーブするが、今回の件は最後まで見届けないと安心できないんだよ」
「今回の件……ですか」
うぅぅ……。
全員死刑にして、サッサと終わりになればいいのに。
「いつまでかかりますか?」
「俺のやる事務処理はニ月程度だが、実刑まで考えると少なくとも半年はかかるな」
「……長くないですか」
「そんなもんだろ」
そんなにかかったら、旦那様の健康が危ない。
でも、旦那様は正式な手段で裁くと言った。お仕事に口は出せない……。
「旦那様、本を買ってもいいですか?」
「本? 食べ物じゃなくてか?」
「植物の本が欲しいです」
「いいぞ。庭に植える時、食べる時は、必ずそばにいる者に相談すること。分かったな?」
こくりと頷けば、旦那様が頭を撫でてくれる。
「商人に来てもらうか、買いに行くか、どっちがいい?」
「買いに行きます」
「分かった。ギーツも、明日から正式にうちの従者になるから、その後に行くといい」
「ギーツのお手伝いは終わりですか?」
「あぁ。あとは、こっちの仕事だ」
そうか。だから、ドリル家が無くなるって言ってたんだ。
「ということは、ギーツの妹も明日からですか?」
「そうだ。今日の夕方に、ギーツと共に移住してもらうことになっている」
なんと! やることがたくさんだ。
「歓迎会します!」
はい! と、手を挙げたら、頭がグラグラになるくらい撫でられた。
「もう少し優しく撫でてください」
「可愛いことを言うのが悪い」
「……? 可愛いは、褒め言葉です」
「だから、褒めてるだろ」
そう言いながら、また撫でられる。
力はやっぱり強い。でも、嬉しい。
「可愛い妻が待ってるので、早く帰ってきてくださいね」
「ん゛んっ……。善処する」
咳払いをすると旦那様は、ふいっとそっぽを向いてしまった。
「あー、その、行ってくる」
「はい。いってらっしゃい!」
旦那様を玄関ホールで見送ると、二階にダッシュする。
自室に入り、窓から旦那様の乗った馬車を見下ろす。
「早く、帰ってきてください……」
善処って、旦那様ができるものなのだろうか。
遠ざかる馬車に、胸がシクシク痛い。
さっきまで一緒にいたのに、もう会いたい。
「長い間会えてなかったから、旦那様不足かな」
数日間、しっかり旦那様を摂取できたら解決するのになぁ。
馬車が見えなくなった道をしばらく眺めたあと、ペチリと頬を軽く叩く。
「よし! 私もやることをしないとだ」
働かざる者食うべからず!
私は、私のできることをしないとだ。
***
空がオレンジ色になった頃、旦那様が帰ってきた。
「おかえりなさい!」
良かった。ちゃんと帰ってきてくれた!
旦那様の前に出て、手を差し出す。
「ただいま。悪い、土産はないんだ」
「違います。上着です! 妻なので、受け取ります」
前世で見た国民的アニメでは、旦那さんが帰って来ると、奥さんが上着を受け取っていた。
「ん? そうか? あとで、デザーに渡しておくんだぞ」
「……? 私がハンガーにかけますよ」
「それは、使用人の仕事だろ?」
……え? そうなの?
たしかに、今まで上着を受け取ったことはない。
義母が父の上着を持っている姿も見たことない。
「なるほど。では、デザーに渡します」
妻の仕事、思ったよりも難しいな。
一緒にお出迎えしていたデザーに、上着をお願いする。
「旦那様、体調は大丈夫ですか?」
「問題ない。ありがとな」
じっと旦那様を見れば、わずかに視線をそらされる。
……嘘ついてる?
「今日は早く寝てください」
「そうだな。久々に早く休むよ」
旦那様がそう答えた時、旦那様のとは別の馬車が到着した。
御者台には、ギーツがいる。
「ギーツー!!」
ぶんぶんと手を振れば、ギーツはまるで苦い葉っぱを食べたような顔をした。
「奥様、俺に大きく手を振るのは、どうかと思います」
御者台から降りてきたギーツに、早々に言われてしまう。
「何でですか?」
「奥様は、人との心の距離感が近すぎます。皆が善人というわけじゃないんです」
「知ってますよ。でも、ギーツは私の食べ物を取らないです」
そう言うと、ギーツが頭を抱えてしまった。
「いいぞ、ギーツ。その調子だ」
「何がですか?」
「もう皆、感覚が麻痺してるからな。ギーツが最後の砦なんだよ」
旦那様は腕組みをしながら、自信満々に言う。
すると、ギーツがうなった。
「勘弁してくださいよ……」
「そのための護衛だろ?」
どういうこと?
よく分からないけど、旦那様とギーツの心は繋がりあっているのか……。
おかしい。私の方が旦那様と過ごした時間が長いし、一緒にお肉様だって食べてるのに……。
「ギーツは、家族としては新参者です! 旦那様と通じ合ってるのは、私です!! 負けませんから!!」
フンッ! と、鼻息荒く宣言すれば、ギーツはニヤリと笑い、旦那様はふいっとそっぽを向いてしまった。




