「お前を愛することはない」と言われたのに、旦那様が世話を焼いてくる①
な、何というお約束展開……。
冷や汗が止まらず、視界がぐるぐるする中、自分の浅はかさに涙が出る。
これは、あれだ。
栄養失調で急にカロリー高いものを食べたから、体がビックリして倒れ、最終的に病人食コースとなるやつ……。
漫画や小説だとラブイベントになるけど、そんなのあり得ないし、病人食は嫌!
気合いだ。気合いでトイレまで行って、そこで回復を待つ。
何か言われたら、便秘で押し通す。
「……顔色、悪くないか?」
「お、お手洗いの我慢のし過ぎです……」
お願い、話しかけないで!
へらリと笑いつつ立ち上がり、扉へと向かう。
「コレッティーナ? 心配だから俺も一緒に──」
「便秘なんです! 付いてこないでください!!」
「……え? あ、すまない」
よし。これで布石は打った。
あとはトイレに立てこもれば…………。って、あっ……これは本当に駄目なやつ…………。
***
視界が暗転し、目が覚めたらベッドの中にいた。
あぁ、ふかふかで幸せ……。
お腹も痛いし、このまま布団に包まっていよう。
……ん? ベッド?
そっか。結局、倒れちゃったんだ。
デザーに迷惑かけちゃったよね。
あーぁ、病人食決定かなぁ……。
「のど乾いた……」
ベルを鳴らしたら、今度は誰か来てくれるだろうか。
のそりと体を起こせば、シンプルながらも高級感あふれる調度品が飾られている、知らない部屋だった。
「…………どこ?」
「コレッティーナ! 具合はどうだ?」
「あ、もう大丈夫です」
声がかすれれば、旦那様は生温いお湯をくれた。
「……ありがとうございます」
何故、お湯?
というか、デザーではなく旦那様がいるの?
「顔色が悪いな。もう少し寝ているといい」
「いえ。本当にもう大丈夫ですから。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「──っ。迷惑とかいう問題じゃないだろ!」
……? じゃあ、どういう問題よ。
「コレッティーナ、落ち着いて聞くように。医師の診断によると、お前は栄養失調だそうだ」
「でしょうね。というか、お前って言わないでください」
「あ、悪い……」
バツが悪そうに、旦那様は視線そらす。
「一食出なかったから、栄養失調になるとは思えない」
「そうですね。積み重ねでなるものですから」
「…………もしかして、ラビソン伯爵家はそんなにも困窮しているのか?」
「…………は?」
いやいやいや、何でそうなる。
「たしかに生家はナビレート家に比べて貧しいですが、食べるのに困るほどではありません。旦那様も義母や義妹を社交界で見たことはありませんか?」
「俺はそういうところには、出ないと決めてるから」
あー、無駄にモテるからかな。
理由を聞くと面倒そうだし、スルーしようっと。
「そうですか。とにかく、ラビソン家のことはご心配なく。私が栄養失調なのは、食事をあまりもらえなかったからですよ」
「…………え?」
「理由は様々でしたけどね。直接的な暴力がなかっただけマシかもしれませんよねぇ」
義母や義姉妹に虐げられるのって、テンプレだし。
「この話をいきなり信じろというのは無理だと思うので、一緒に社交界に行きませんか? 義母と義妹は一目で意地の悪い顔だと分かるレベルですので、説得力ありますよ!」
「いや、信じる」
「……はい?」
「コレッティーナの話、信じるよ」
真剣な顔で旦那様は言ってくる。
「本気……ですか?」
「当たり前だ」
嘘……でしょ……。
力強く頷く旦那様。その姿に、何だか色々と心配になってきた。
「あの、詐欺に合ったことありません?」
「あるわけないだろ」
……ふむ。
詐欺にあったことにすら気付いていかないか、運が良かった、あるいはデザーたち使用人が防いだということか。
「いいですか、旦那様。まずは相手を疑わなくてはなりません。何でもかんでも、信じたら駄目ですよ」
「妻なんだから、信じて当然だろ」
曇りなき眼に、腹痛だけでなく頭痛がする。
「妻とは言っても、一昨日まで私たちは他人でした。愛もなければ、信頼もありません」
「だから何だ?」
「まずは、ご自身で私の言ったことが本当か調べてください」
明らかに不満だという顔をされるが、旦那様がこのままでは困る。
旦那様が詐欺にあったら、ナビレート家が傾いて、美味しい食事が食べられなくなるかもしれない。
「そして、私の言ったことが本当だったら協力してほしいんです」
「分かった」
「だから、分かったじゃなくて、何を協力してほしいのか確認してください! って、いててててて……」
くそぅ。お腹が痛い……。
でも、痛みのピークを越えれば、少しはラクになるはず。
「大丈夫か? ほら、横になって。話は元気になってから聞くから」
お腹を押さえたまま横になった私に、旦那様は布団をかけてくれる。
「旦那様……」
「ん?」
「栄養失調なら、栄養たっぷりのものを食べるべきだと思うんです。だから、ぷりぷりのウィンナーとか、分厚いお肉とかを夕飯にお願いします」
「却下だ。胃腸が弱ってるのに、そんなもの食べさせるわけないだろ」
「そんなぁ……」
何で一番肝心なこの話は信じてくれないのよ。
旦那様の馬鹿ー!!




