「お前を愛することはない」と言われたのに、旦那様が世話を焼いてくる②
うぐぅぅ……。
「お肉。お肉が食べたい……」
「元気になったらな」
夕食の時間になり、私の前にはドローンとした白いものが置かれている。
「……何で旦那様も同じものなんです? というか、帰らないんですか?」
忙しいと言っていたわりに、ずっとこの部屋にいるよね。
仕事は? サボり?
「調子悪い時に一人だとさみしいだろ?」
「まぁ、そうですけど。でも、旦那様じゃなくてもいいかなって」
「……俺がいると嫌なのか?」
嫌? どうだろう。
そんなこと考えたこともなかったや。
「嫌ではないですけど、気を遣いますかね。食事も親切心なんでしょうが、別室できちんと召し上ってください。旦那様は元気なんですから」
「…………可愛くないな」
「知ってます。可愛かったら、お肉くれるんですか?」
それなら、全力で媚び売ってもいい。その時だけならだけど。
「どんなに可愛くても、肉はやらない。早く元気になれ。そしたら、好きなもの何でも食わせてやる」
「本当ですか!?」
旦那様、思ったよりいい人じゃん!
これは、旦那様を本気で守らないとだ。
そのためにも、仕事の書類はすべてチェックさせてもらおう。実は騙されてました……ってことありそうだし。
「…………美味しいものをくれるからって、知らない人について行ったら駄目だからな」
「私のこと、何歳だと思ってるんですか? 十八歳ですよ」
「あぁ、俺より十歳も年下だ」
旦那様がすごく心配そうな顔で言ってくる。
というか、十歳離れてるって知ってたのか。
「旦那様は十歳も年下のいたいけな私に「お前を愛することはない」って言ったんですね」
「それは……悪かったよ」
伏し目がちに言われ、思わず首を傾げる。
「あれ? 今、声に出てました?」
「あぁ、しっかりとな。どんなに付き纏われたくなくても、言ってはいけないことだった。本当にすまなかった」
旦那様が頭を下げた。
もしかして、私も謝らないといけないやつ?
でもなぁ……。
「別に気にしてませんよ。労働対価として美味しい食事をもらえる予定ですから。それに、私も旦那様を愛しませんし」
「──っ。そうか……。そう……だよな……」
「はい。私もわざわざ『愛することない』と言い返しましたから、お互い様ってことで」
そう言いつつ、ドローンとした白いものを食べる。
「あれ? ちょっと甘い……」
「ミルクと少しハチミツも入ってるからな」
「見た目はちょっとあれですけど、おいしいです」
程よい熱さになったミルク粥をスプーンいっぱいに入れて、頬張る。
うん。優しい美味しさだ。
「消化に良くても、ゆっくり食べないとだろ」
「……はーい」
仕方ない。心配してくれているみたいだし、大人しく言うこと聞いておくか。
はぁ……。ミルク粥も美味しいけど、早く肉が食べたいなぁ……。
***
倒れてから一週間が経った。
まだぷりぷりのウィンナーや分厚いお肉は食べれていないけれど、ポタージュスープや卵など、確実に食べれるものが増えている。
そのどれもが美味しくて、毎日幸せだ。
旦那様と結婚して良かった!
ナビレート伯爵家、最高!!
「なぁ、コレッティーナ」
「何ですか?」
「これ、何だと思う?」
そう言いながら、旦那様はテーブルの上に細長い箱を置き、私に開けるよう促した。
何だろう。
美味しいものがいいなぁ……。
開くと、箱の中には薄い黄色やオレンジ色、濃い紫色のものが白い器に収まり、三つお行儀よく並んでいる。
「ゼリーだ!!」
「何だ、知っていたのか。近頃、貴族令嬢の間で流行っているんだってな」
「へぇ、そうなんですね」
私の返事に、旦那様は変な顔をした。
「……すまん」
「何がですか?」
「その……食事をもらえなかったということは、甘味がもらえるわけない……よな」
おっ! 旦那様、少し察しが良くなってるなぁ。
「そうですね。で、これは私が食べてもいいんですか?」
「一つだけな」
「…………一つ」
ということは、一つしか味わえない……。
どうしよう。全種類食べたい……。
まさか、一口ずつ味見して決めたいなんて言えないし。
「…………じゃあ、これがいいです」
薄い黄色のゼリーを選ぶ。
オレンジとぶどうは見た目で何味か分かったけど、薄い黄色は味のバリエーションが多い。
一つしか食べられないのなら、味の予想がつかないものがいい。
りんごかな、それともレモン? いやいや、パイナップルってこともあるかな。
「いっただっきまーす!」
わくわくしながら、スプーンですくって食べる。
「桃だ!! おいしー!!」
幸せ……。
何個でも食べれちゃうよ……。
ゆっくり味わって食べたいのに、スプーンが止まらない。
「もうなくなっちゃった……」
幸せって儚い……。
と思いつつ顔を上げれば、目の前のソファーで旦那様がぶどうゼリーを食べている。
いいなぁ……。
ぶどうゼリーも美味しそうだなぁ……。
「──っ。…………一口、食べるか?」
「いいんですか!?」
いそいそと旦那様の隣へ移動する。
「…………ほら、あーん」
「あーん」
ぱくっ、もぐもぐ……。
「美味しい! 旦那様、もう一口ください!!」
「も、もう一口だけな」
「もう一口っ!」
「し、仕方ないな……」
「おかわりっ!」
「これで最後だからな」
ふー! ぶどうゼリーも美味しかった!!
あとは、オレンジゼリーかぁ。
「ねぇ、旦那様」
「もう駄目だぞ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「言わなくても分かる」
うぅぅ……。
目の前にあるのに食べられないなんて、何という拷問!
「また明日、召し上がられてはいかがでしょうか?」
「デザー! ナイスアイデアです! 旦那様、明日ならいいですか?」
「そうだな。それならいいか」
「ヤッター!!」
嬉しいなぁ……。
って、あれ?
そういえば、まだ対価の労働してない。
「旦那様、大変です!」
「どうした?」
「私まだ労働してないのに、食事どころか甘味までもらっちゃいました」
まずい、契約違反だ。
すぐさま働かないと!
「病人の仕事は休むことだ」
「もう元気です!」
「まだ駄目だ。いい子にしてたら、今度はプリンを買ってきてやる」
「プリン!? いい子にしてます! じゃなくて、食べ物で釣らないでください」
睨めば、旦那様は小さく笑う。
「うちの奥様は単純で助かるよ」
「──っ! 旦那様は、すぐに騙されるじゃないですか!」
「俺は騙されてない」
「騙されてる人は、みんなそう言うんですー」
ふんっと、そっぽを向けば、旦那様の笑い声が大きくなった。
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