求めることと、求められること〜カリウスside〜
コレッティーナは、すぐに寝息をたて始めた。
普段から早寝早起きなのだ。よほど、頑張って起きていたのだろう。
「ごめんな……」
寝顔を眺め、思わず言葉がこぼれる。
ずいぶんと懐いてくれたとは思っていた。だが、こんなにも不安定になるとは思わなかった。
「働き方、考えないとだな」
働き過ぎの自覚はある。
今回のドーザー子爵家のこともだが、ラビソン伯爵家の問題もまだすべてが解決したとは言えない。
コレッティーナの関わることに手を抜く気は毛頭ないが、不安にさせては本末転倒だ。
「…………旦那様……むにゃ」
ふにゃりとコレッティーナが笑う。
この笑顔を守りたい。
大切にしたい。
誰よりも幸せになってほしい。
「おいしい……ですよ……」
──ぱくり。
ん? ぱくり?
「────っ!!?? え? は? ちょっ、待て!! 離せ!!」
手を引き抜けば、コレッティーナの手が泳いだ。
眉が下がり、悲しそうな顔をしている。
「これは、アメじゃない!」
「違い……ます……。アメで…………」
ね、寝てるんだよな!?
くわえられた、自身の手を見る。
──ドッドッドッドッ。
心臓の音がうるさい。
「何……で…………」
俺の手をくわえたコレッティーナの唇を見た瞬間、全身の血が沸騰したかのような熱が身体中を駆け巡る。
「娘のように思ってるんだぞ……」
おかしい。
こんなのは、不健全だ。
コレッティーナは十歳も年下で、娘のように大切に思っていて……。
なのに、何でこんなに動悸がするんだ!?
「こんなの、最悪だろ……」
コレッティーナが求めているのは家族で、俺が与えるのは安心であるべきだ。
……うん。勘違いだ。
デザーに手をくわえられたとしても、同じように思……わないな。気持ち悪い。
「明日、殿下に相談してみようか……」
殿下は女性との交流も多い。きっとこの動悸の正しい正体も教えてくれるだろう。
それに、日々の激務で少しおかしくなっているのかもしれない。
よし、俺も寝よう。
目が覚めたら元通りのはずだ。
「………………寝れない」
目を閉じても、いっこうに眠気がこない。
疲れているはずなのに、隣から聞こえるコレッティーナの寝息に、緊張してしまう。
「ソファーで寝るか」
体を起こし、ベッドから片足を降ろす。
「んむぅ……」
「──っ!」
良かった。寝てる。
寝返りを打ち、反対側を向いたコレッティーナに、胸をなで下ろす。
と、同時に罪悪感が胸を占めた。
「…………娘、娘なんだ。何ら問題はない」
コレッティーナの横に寝転ぶ。
あれほど、一緒に寝たがったのだ。
明日の朝、俺がソファーで寝ていたら、コレッティーナはどう思うかなんて考えなくてもわかる。
結局、なかなか寝付けなくて。眠気が来たのは、ようやく空が白み始めた頃だった。
***
あたたかいものが手に触れ、意識が浮上する。
「あ、起きました。おはようございます」
目の前で、コレッティーナが笑う。
「──っ!!」
ぎしりと固まる俺に気付くことなく、コレッティーナは繋いでいる手を見せてくる。
「寝ている間に、ほどけちゃったみたいです。なので、また手を繋ぎました。これからは、旦那様といる時はなるべく手を繋ごうと思います」
「え゛っ!?」
「手を繋ぐって、すごいんです。一緒にいるなって、感じられます」
コレッティーナは、新発見! と、目を輝かせているが、それどころではない。
どうにかして、回避しなくては。
「コレッティーナ、俺の手が片方ふさがる」
「私のもふさがります」
「そうなると、何かと不便だし、コレッティーナにお菓子をあげられなくなる」
「えっ!!??」
目がまん丸に見開かれる。
「いつも仕事しながら、お菓子を出してるだろ」
「はい。食べさせてくれます」
「片手が使えないと、できなくなる」
これで大丈夫。と思ったのだが、不思議そうに首を傾げている。
「さすがに、仕事の邪魔はしませんよ。繋ぐのは、移動中とか寝る時です」
「そ、そうか……」
って、何をがっかりしてるんだよ。
────っ。これじゃ、俺がコレッティーナを家族としてじゃなく、異性として意識しているみたいだ。
「旦那様、たくさん一緒にいてくださいね。旦那様のそばが一番好きです」
安心しきった幼子のように、コレッティーナが笑う。
答えなければ。
やっと手に入れた安心を、何としてでも守らなければ。
「そう……だな……。俺もコレッティーナを大切に思っているよ。俺だけじゃなく、屋敷の皆がだ。だから、コレッティーナは……」
空いている方の手で、頭を撫でようとして、指先が震えた。
「旦那様?」
俺の心情を察知したのか、コレッティーナの瞳が不安げに揺れている。
目を逸らしてしまいそうになり、コレッティーナを包み込むように、抱きしめる。
「だから、コレッティーナはナビレート家にいてくれ。そして、女主人として、ギーツの妹を温かく迎え入れてほしい」
「はい」
ギュッと、存在を確かめるように抱きつかれる。
「…………旦那様、すごく心臓が速いです」
「き、気のせいじゃないか?」
「ふふっ。大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても、ここは温かいから、ギーツの妹もすぐに慣れます」
「そう……だな……」




