家族を得た私、お留守番です
「旦那様が帰ってきません!」
「そうですね」
特に気にした様子もなく、アンネが言う。
「長すぎます」
「一週間程度でしたら、以前より時々あったじゃないですか」
「そうですけど……」
出張でもないのに、こんなに長く帰ってこないなんてこと、あるのだろうか。
「はっ! 不貞ですか?」
「絶っ対に!! ありえません!!」
「そ、そうですか……」
あまりの勢いに、思わずのけぞる。
「せっかく、キッチンもできたのに……」
「旦那様なら、先に見ても怒りませんよ?」
「……私が嫌なんです。それに、旦那様と約束しました」
完成したら、一緒に見ようって。
それで、私専用キッチンでお茶を淹れて、一緒にお菓子を食べようと思ってたのに……。
「手紙を書きます!」
「手紙ですか?」
「はい。キッチンができたと知ったら、帰ってくるかもしれません!!」
そう言うと、すぐにアンネが便箋を用意してくれる。
「では、お手紙と一緒にサンドイッチでも届けてくれるよう、料理人に頼んできます」
「サンドイッチですか?」
「えぇ。きっとゆっくり食事をとる暇もないでしょうから」
そ、それは大変だ!
旦那様の健康が危ない。
「サンドイッチ、作ります!」
「コレッティーナ様がですか?」
「はい。いい葉っぱも庭にあるので、入れます!」
急いで手紙を書き、庭で葉っぱを調達すると厨房へ向かった。
葉っぱを入れようとしたら料理人に止められたので、こっそり入れておく。
うん。これで、よし!
***
お手紙を出したけれど、旦那様が帰ってこない。
「おいしいのに、おいしくないです」
せっかくのステーキ様なのに、フォークが進まない。
いつもなら二枚食べるけれど、今日は一枚しか食べられなかった。
「コレッティーナ様……。今日は特別に、デザートをもう一回おかわりしますか?」
「いえ、いいです」
アンネの提案は嬉しいはずなのに、心が弾まない。
「旦那様に、手紙を書きます」
何て書いたら、旦那様は帰ってきてくれるのだろう。
「デザー……。私が手紙を届けに行きたいです」
「きっともう少しで旦那様もお帰りになります。もう少しだけ屋敷で待ちましょう」
「はい……」
駄目なのか……。
来週には、ラビソン家から木も来ることになった。
それなのに、旦那様だけ来ない。
***
寝る時間まで窓から門を見ていたけど、馬車は通らない。
「今日も、帰ってきませんでした……」
のそのそとベッドに入り、体を丸める。
明日こそ、帰ってくるかな……。
眠気に逆らうことなく、目を閉じた。
「待って! おいていかないでください!!」
誰かの後ろ姿に向かって、大声で叫びながら走っている。
「葉っぱ、あげます。お花もあげます! おいしい木の実もたくさん見つけてきます! だから、一緒にいてください!!」
走って、走って、やっと追いついた。
「一緒に帰りましょう」
腕をつかみ、見上げれば、濃紺の瞳が私を見下ろす。
「毒キノコを食べるようなヤツと、一緒にいるわけないだろ」
聞いたこともない、冷たい声。
氷を丸呑みしたみたいに、お腹が冷たい。
また、旦那様が遠ざかる。
「待って! 待ってください!!」
バッと体を起こす。
ハァ、ハァハァハァ……。
心臓がバクバクしていて、汗だくだ。
「どんな夢……だったっけ?」
ものすごく怖い夢だった気がする。
汗だくのネグリジェを着替えて、お水を飲むと、マクラを抱えて、部屋を出る。
ペタリペタリと裸足のまま、隣の部屋に向かう。
──コンコンコン。
ノックをするけれど、部屋の主である旦那様は不在だ。
「おじゃまします」
誰もいない、旦那様の部屋へ入るために扉を開ける。
中は真っ暗で、開けたカーテンからは月明かりが差し込んでいて、誰もいない部屋を照らしている。
「……コレッティーナ? こんな夜中に何してるんだ?」
後ろから、かけられた声。
振り向けば、旦那様が立っていた。
「本物……ですか?」
「ん? あぁ、そうだよ。どうした? 眠れないのか?」
旦那様は部屋に入ると、ランプに明かりを灯す。
「もう、お城は行きませんか?」
「いや、明日の昼過ぎにまた行く」
「──っ!! 嫌です! 行かないでください!!」
ギュッとマクラを抱きしめる。
分かっている。旦那様はお仕事でお城にいるのだ。
引き止めちゃ、いけない。
でも、でも──。
「キッチン、できました」
「うん」
「来週には、木が来ます」
「そうだな」
「ステーキ様もここなら食べられます」
「あぁ、手紙に書いてあったな。美味しかったか?」
穏やかな声で聞かれる。
だけど、何に怒っているのか、悲しいのかも分からないくらい、私の中はぐちゃぐちゃだ。
「旦那様がいないと、おいしいのに、おいしくないんです!」
グッと眉間に力を入れて、旦那様を睨んだ。
なのに、旦那様が笑っている。
「何で笑うんですか!」
「え? あー、悪い。会えなくてさみしかったのは、俺だけじゃないんだなって」
「……え?」
旦那様はしゃがんで、私の両手を取る。
「ただいま」
「──っ! おかえりなさいっ!!」
瞬きと一緒に涙がこぼれた。
そんな私の頭を旦那様は優しく撫でてくれる。
「夜遅いから、もう寝てこい。明日の昼食までは屋敷にいるから、朝と昼は一緒に食べよう」
「あい……。でも、部屋には帰りません」
鼻をズビッとすする。
「今日は旦那様と一緒に寝ます」
優しく撫でていた手がピタリと止まった。
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