守るために〜カリウスside〜
俺の言葉に、ギーツが顔を引きつらせた。
「む、無理です!」
「そうですよ。誘拐犯が護衛だなんて!!」
アンネが悲鳴のような声をあげる。
「アンネ、一度ギーツのことを誘拐犯という事実をなくして考えてほしい。コレッティーナが葉を食べるのを阻止したんだぞ」
「──っ。で、ですが!」
「もちろんギーツ以外にも護衛はつける。ただコレッティーナの場合は、周りが気をつけるだけでは足りない。いかにコレッティーナの行動を予測し、未然に防げるかが大切だ」
ギーツはたった半日でコレッティーナの予想外な行動を体験した。
そして見事、葉を摘むという行動を阻止した。
「これ以上の人材、なかなか出会えない」
言い切った瞬間、アンネは口ごもり、ギーツは首を激しく横に振る。
「無理です! 少し目を離したら、何でも口に入れるだなんて怖くて護衛できません!」
「なら、妹の件もなしだな」
「──っ!!」
悪いが、こっちも必死なんだよ。
「もちろん、ギーツについてはきちんと調べさせてもらう。ギーツの妹も我が家で働けば、そうそう悪事も働けない。そうだろ?」
俺の言葉に、アンネは渋々頷いた。
ギーツの話が本当なら、妹を大事にしてるようだから、いざとなれば、人質にすることもできる。
なんて思っていれば、コレッティーナが勢いよく左手をあげた。
「どうした?」
「旦那様、ギーツのお父さんの臓器、売りましょう! 諸悪の根源に、少しでも責任を取ってもらわないとです」
コレッティーナの目が鋭い。
右手に持ってるフォークが凶器に見える。
「ぞうきって何だ?」
「体の中にあるものです」
「……売れないぞ?」
誰も、そんなもの欲しがらない。
「え? 売れないなら、ギーツのお父さんはただの粗大ゴミですね。……ん? 臓器、手術する時にいらないんですか?」
「しゅじゅつ?」
「手術もない……ということは、外科的治療がない? ギーツ! 私より旦那様の護衛をしてください!! 旦那様が刺されたら大変です!!」
「はぁ?」
何を言ってるんだ?
「旦那様、すごーく大事なこと言います。モテる男の人は、逆恨みされたり、手に入らないなら殺してしまおうって狙われるんです!」
「いや、狙われないからな」
「私、知ってるんです。小説とかでよくある展開です。旦那様、顔だけはヒーローなので危険です!!」
……困った。
コレッティーナが何を言っているのか、分からない。
分かったのは、心配してくれているってことだけ。
「俺にギーツの護衛は必要ない」
「どうしてですか!?」
「俺専属の護衛は既にいる」
「……そうですか。じゃ、ギーツは私の護衛ですね」
納得したかのように頷くと、コレッティーナはデザートのゼリーに手を伸ばす。
「ふぉぉぉぉ。ナイスぷるんぷるん……」
スプーンでつついてウットリすると、ほんの少しずつ食べ始める。
「おかわりは、一個までな」
「はい!」
一口が大きくなり、にこにこと食べている。
可愛い……。
「俺の分も少し──」
「旦那様、ギーツの件が先かと」
「お、おう。そうだな」
デザーの言葉に、ギーツへと視線を戻す。
「俺が求めてるのは、すべてのことからコレッティーナを守る護衛だ」
そう。コレッティーナの奇行から、コレッティーナを守れるような。
「どうする?」
ギーツに選択肢はない。
だが、自分で選ばせることに意味がある。
「…………引き受けさせてもらいます」
顔を歪め、ギーツは言った。
「そうか。では、第二王子殿下には此度の誘拐の件、すべてリーヌ・ドーザー子爵令嬢の責任だと伝えておく」
「ありがとうございます」
コレッティーナの護衛は大変だろうが、これで少しは安心だな。
「旦那様、ドーザー家は潰しまふか?」
ゼリーを食べながら、天気の話をするような軽さでコレッティーナが話す。
「今回の件だけだと、取り潰しまではならないだろうな。いくら娘が可愛くても、子爵も切り捨てるだろ」
「そうですか。なら、潰せるような証拠を用意しますか?」
興味など微塵もないのが伝わってくる。
だが、コレッティーナは本気だ。「陥れたい相手の筆跡も、直筆の書類を何枚か用意してもらえれば書けますので」と言っていた。俺が頷けば実行する気だ。
「コレッティーナのすることは、それじゃない」
「何ですか?」
「ギーツの妹を迎えることだ。きっと不安に思っているだろうから、コレッティーナが面倒を見てやってくれ」
「分かりました! 自慢のお姉ちゃんになれるよう、頑張ります!!」
ん? お姉ちゃん?
まぁ、問題があればギーツがどうにかするだろ。
「そうか。頑張れよ」
コレッティーナの頭をなでる。
「任せてください!」
気合いたっぷりな姿は、元気で可愛い。
本当に無事で良かった……。
視界の端で、ギーツが頭を抱えているのは、見なかったことにした。
「俺はギーツとまだ話があるから、コレッティーナはデンガのところに行っておいで。木を持ってくる場所、そろそろ決めないとだろ?」
「そうします! デンガおじいちゃんに、ゼリーを持っていってもいいですか?」
その言葉に頷き、アンネに視線を向ければ、既に準備に取り掛かっている。
「では、行ってきます。あ、旦那様! あと二、三日でキッチンが出来上がるそうです。できたら見に行きましょう!」
「分かった。楽しみだな」
ゼリーの入ったバスケットを持って、コレッティーナは鼻歌交じりに食堂を出ていった。
これで、今後の話ができる。
「なぁ、ギーツ。コレッティーナには、ドーザー子爵令嬢が切り捨てられるだけだと言ったが、俺としてはドーザー子爵家を潰したい。協力してくれるよな?」




