家族を得た私、帰ってきました①
屋敷に帰れば、すぐさまお医者さんが呼ばれ、私の診察をしてくれた。
「だから、大丈夫って言ったじゃないですか。よし、食事です」
ご馳走を食べるために、食堂へ向かおうとすれば、後ろからアンネに肩をつかまれる。
「お風呂とお着替えが先です」
「えっ! でも、お腹が空いてます」
「お風呂とお着替えが先です!」
力強く言い、アンネは男性陣を追い出した。
たっぷりお湯の入った猫足のバスタブに浸れば、アンネが髪をキレイにしてくれる。
「コレッティーナ様、どうしてキノコを食べてしまったんですか……」
「キノコがあったからですね」
「お屋敷の外で、現地調達しないでください」
ズッと鼻をすする音がして振り向こうとすれば、頭を固定されてしまう。
「空腹は敵です」
「ですが、危険すぎます。今度からおやつを持たせますから、そっちを食べてください」
「……おやつから食べます」
お腹が空くくらいなら、キノコを食べる。
まぁ、キノコがあるなら、他の植物もあるだろうし、しばらくキノコチャレンジはしないけど。
「生家にいた頃より、勘が鈍りました。時々、森に行かないとですね」
「いけません」
そう言われても、食べるのは趣味だしなぁ。
「……アンネも一緒に行きますか?」
「お庭で我慢してください!」
うむ。これは絶対に譲ってもらえないやつだ。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「どうしてそれをコレッティーナ様が言うんですかぁ!!」
ここにアンネと私しかいないからかな。
というのは、ちょうど顔を洗われたので言えなかった。
***
いよいよ待ちに待った食事タイム!
私の前には、一口大に切られたお肉様、ふかふかの白いパン、シャキシャキのサラダ、優しいお味のスープなどなど、たくさんのご馳走が並んでいる。
「いっただっきまーす」
マナーを気にすることなくフォークでお肉様を刺す。
あーんっ!!
はふっはふっ、もぐもぐ……。
ごっくん。
「肉汁ジュワーで最高です! ギーツも冷めないうちに食べた方がいいですよ」
私と旦那様の向かい側に座っているギーツに話しかける。
「は、はい……」
ギーツは、ぎくしゃくとフォークとナイフを動かしている。
もしかして……。
「ギーツも食事マナーが苦手ですか? お願いしたら、旦那様が切ってくれますよ」
「自分でできる! ます……」
うん。言葉が変だ。
そう言えば、私がナビレート伯爵家の妻だって言っても、ずっとお嬢ちゃんって呼んできてたもんな。
全体的にマナーが不得意とみた。
「ギーツ。何故、コレッティーナを誘拐した?」
「そ、それはですね……」
「はいはい! ギーツのお父さんが借金作って、妹さんが売っぱらわれそうになったからです!」
ギーツが言葉に詰まったので、かわりに答える。
すると、旦那様が深い溜息をついた。
「コレッティーナ、まずはギーツから話が聞きたいんだ。静かにできるか?」
そう言いつつ、旦那様のお皿からお肉様をわけてくれる。
「分かりました」
もらった賄賂を食べながら、頷く。
「ギーツ、自分の口で説明して、どうしたいのかを言え」
わーぉ。旦那様が高圧的だ。
こう言うのを俺様って言うんだっけ?
なんて、思っている間に、ギーツは話し始めた。
「俺……いえ、私はドーザー子爵家でリーヌお嬢様の護衛をしています。昨日は、お嬢様をお迎えに行ったところ、夫人を遠いところに一人で置いてくるようにと──」
ポツポツと、うつむきながら説明するギーツを眺めつつ、サラダを食べる。
あー、お肉様のあとのサラダ、最高……。
お肉様とサラダの無限ループできるじゃん。
もぐもぐ。むしゃむしゃ──。
「──というわけで、夫人を誘拐しました。申し訳ありませんでした」
「事情は分かった。だが、夫として、コレッティーナを大切に思う者として、許すことはできない」
あれ?
急に不穏?
お肉様とサラダを食べ終え、ふかふかパンを口に放り込む。
「もちろんです。どんな罰も受けます。だから、どうか妹だけは──」
「何で許ひてあげないんでふか?」
お水くれたし、送り届けてくれたし、私としては恨みは……あるな。
ナビレート伯爵家での夕食と朝食を食べ損ねた。
今、ご馳走を食べてるけど、恨んでるか否かと聞かれれば、バッチリ根に持ってはいる。
「コレッティーナを誘拐したんだ。許せるわけがない」
「でも、ギーツはいい人ですよ。葉っぱを分け合った仲です」
「キノコだけじゃなくて、葉も食べてたのか……」
旦那様が頭を抱えてしまう。
「ギーツ、誘拐したあとのコレッティーナについて、詳細に話してくれ」
「は、はい!」
馬車から降りてご飯を現地調達したところから、帰ってきたところまで、ギーツは私の行動について話した。
「…………妻が世話になった」
「違います。お世話をしたのは、私です。ギーツに葉っぱをあげました」
旦那様が間違えたので、訂正をする。
なのに、ぺしりと軽く頭を叩かれた。
「夫人は、とにかく何でも口に入れるんです」
「何でもじゃありません!」
「夫人からしたら、そうかもしれませんが、見ていて気が気じゃなくて……。最後は無理矢理、馬車に乗せてナビレート伯爵家に向かいました」
そうだ! その恨みもあった!
「旦那様! ギーツのせいで、馬車で食べる用の葉っぱを取り損ねました。有罪です!」
「何かを口に入れられる度に、生きた心地がしなかったんだ!」
ギャンッと吠えるようにギーツが言えば、旦那様の纏う空気が変わる。
デザーをそばに呼ぶと、内緒話を始め、頷きあった。
「ギーツ、お前の妹は助けてもいい」
「ほ、本当ですか!! ありがとうございま──」
「ただし、条件がある。条件を呑むなら、ギーツの罪も保留とし、場合によっては不問とする」
「その条件とは……」
ゴクリとギーツの喉仏が大きく動く。
「コレッティーナの専属護衛になることだ」




