家族を得た私、誘拐されました④
朝だ!
日の出とともに目が覚めれば、男の人は起きていた。
「おはようございます。早起きですね」
「寝れるわけないだろ……」
ほほぅ。繊細な人だ。
「とりあえず、朝ごはんにします」
ポケットから、葉っぱを取り出す。
「……送る」
「そうですか。では、これがあなたの分です」
葉っぱや実の一部を渡す。
葉っぱは、しおしおになったけど、フレッシュさが足りないだけ。胃に入れば、一緒だ。
「送るから、屋敷で飯にしてくれないか?」
「それはそれ、これはこれです」
あーん。
もぐもぐ……。
やっぱり、取りたての方が美味しいな。
ちょっと、むしるか……。
「あ、昨日の話ですけど」
──ぶちっ。ぶちっ。
「あなはに取れふ選択肢を考えたんでふ」
もぐもぐ。
「そうか。悪いが、現地調達はやめてくれないか? 話に集中できない」
ごくん。
「それは、あなたの都合です。私には、私の都合があります」
今度は花に狙いを定めて摘む。
「選択肢としては、①何事もなかったかのように、王城付近で解散。②私で身代金を要求。③一緒にナビレート伯爵家へ向かい、正直に話す。④あなたが誘拐されていた私を助けたことにする。でしょうか。他に案はありますか?」
「ありますかって、お嬢ちゃんを助けたことにはできないだろ……」
なるほど。たしかに、バレた時のリスクが高いか。
「そうなると、①から③ですね。①も、何だかんだバレて捕まる可能性がありますし、②はあなただけではなく、妹さんも処刑されるかもしれません。オススメは③の正直に話すでしょうか」
ん?
この花、ちょっと辛いな。毒か……。
ペッと花を吐き出しつつ、男の人を見れば、顔が引きつっている。
「この花は、ちょっぴり毒がありました。お腹を壊す程度だと思いますけど、やめておいた方がいいですよ」
「……今すぐ、伯爵家に向けて出発しよう。このままじゃ、お嬢ちゃんの調子が悪くなる」
「……? 元気ですよ」
花を諦め、葉っぱに手を伸ばせば、その腕をつかまれる。
「さっさと行くぞ」
「待ってください。道中の葉っぱを……」
問答無用で馬車に詰め込まれ、出発される。
うぅぅ……。これじゃ、誘拐じゃないか!
ふてくされて、座面に転がった。
***
「おい、お嬢ちゃん。もうすぐ着くぞ」
「へ? もうですか?」
のそりと座面から体を起こす。
ふぁぁぁ……。よく寝た。
「私も御者台、座りたいです」
「え!? まぁ、いいけど……」
男の人は、一度馬車を停めてくれる。
御者台が高くて上れずに入れば、手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます」
「いや。それにしても、御者台に座りたいなんて、変わってるな」
「そうですか? 馬車の中って、暇です……よ?」
「コレッティーナ!!」
男の人の手をつかみ、御者台に上がろうとすれば、後ろから声がした。
「あ、旦那様。…………ぐぇっ」
必死な形相で走ってきた旦那様に抱きしめられる。
「だ、旦那様、中身が出ます……」
「怪我は? 痛いところは? 腹減ってるか?」
バッと体を離され、濃紺の瞳が私を覗き込む。
ゆらゆらと揺れる瞳に、心配かけたのだと理解した。
「お腹空きました。旦那様とごはんが食べたいです」
「そうか……」
どこかホッとしたように旦那様が笑う。
「みんな、ご馳走を用意して待ってる。帰ろう」
「はい!」
頷けば、旦那様に抱っこされる。
「自分で歩けます」
「またフラフラされたら、堪らないからな。で、そっちの男は?」
「誘拐犯です」
あれ? 名前、何だっけ?
「ドリルのとこの使用人です。名前は何ですか?」
男の人に向かって聞けば、青ざめている。
ん? 正直に話す予定だったよね?
「ギ、ギーツと申します。この度は、大切な奥様を誘拐し、大変申し訳ありませんでした」
御者台から降りてきたギーツは、深く頭を下げた。
「そうか。誘拐して、送ってきたのか?」
「はい……。大変申し訳ございません」
あ、旦那様、般若になってる。
顔が怖い。
「ギーツは、毒キノコを食べた時にお水くれました。悪い人じゃ、ないですよ」
「毒キノコを食べたのか!?」
「はい! すぐに吐き出して、嘔吐しといたので、事なきを得ました。お水をくれたおかげです」
般若顔が一転、旦那様の顔から血の気が引いていく。
「どうしましたか?」
「医者に見せる。急いで帰るぞ。ギーツと言ったな。ついてこい」
そばにいた馬に私を乗せると、その後ろに旦那様自身も乗る。
「そう言えば、旦那様お一人ですか? 護衛をつけないと危ないですよ」
「……護衛を撒いたやつが言うな。帰ったら、食事の前に医者に診てもらうからな」
「えっ!?」
ギーツをフォローするために、言うんじゃなかった!
大丈夫なのに!!
誘拐犯の名前がやっと出てきました。
終始、誘拐犯を気の毒に思ったのは、私だけですかね?




